1/2ページ目 命の儚さは人も動物も皆等しい。 そしてその短さは、人に比べて小さな生き物は驚く程短く、 気付けば手の平から零れ逝く。 『○月×日 ゆきむら ちづる にゃんがうごかなくなった きのうまでごはんをたべてたのに あさになったらつめたくなってた ちづるはもうにゃんとあそばない にゃんがいなくなったら かなしいから 』 「土方さん。」 「左之助か・・・。」 「千鶴、寝たぜ。」 「そうか・・・。悪かったな。」 「いや、構わねぇ。けど・・・遣る瀬無ぇやな。」 千鶴は泣きながら日記を書いていた。そして泣き疲れて寝てしまった。 左之助も土方も千鶴の涙を拭う事は出来ても止める事は、出来なかったから。 「しゃにょ!!にゃん!にゃん!!」 「あ〜?にゃん??」 「あしょこ!にゃん、ないてる!きのうえ!!」 「お、何だ?鳥にでも襲われたか?ちょっと待ってろ」 屯所内の中庭。 一際大きな桜の木の枝に、小さな猫がしがみ付いて鳴いていた。 千鶴はそれを目敏く見付け左之助に助けを求めたようだ。 「こりゃひでぇな・・・」 恐らく鳥や犬にやられたのだろう。まだ小さな猫の体中あちこちに大小の傷があり、ほとんど虫の息。 よしんば今は助かったとしても、数日持つか否か・・・。 (どうすっか。もしこいつが死んだら・・・) 「しゃにょ〜!!にゃんは!?にゃん、だいじょうび?だいじょうび?」 「・・・ああ、大丈夫だ、今降りる」 例え目の前で命が消えたとしても、それが千鶴にとって得がたい経験となるのではと、左之助は迷いながらも子猫を抱いて千鶴の元へ降りた。 「とりあえず、体を洗って薬塗って、あっためた方がいいな。千鶴、山崎君とこ行って薬と湯とサラシ貰って来い」 「あい!!」 元気よく駆けて行った千鶴は、驚くべき速さで戻ってきた。 「早かったな・・・」 「原田さん、千鶴君に聞きましたが・・・その猫は・・・」 「ああ、判ってる。けど、仕方ねぇだろ」 潤々と大きな瞳に涙を滲ませた千鶴に、烝もおおよその過程を理解し溜息を吐いた。 「千鶴君、そっと体を洗おう。手荒にしては傷に響くからな。井上さんに頼んで粥を作って貰ってくるといい。 少しは何か食べさせないと、弱ってすぐに死んでしまう」 「にゃん、しにゅの・・・?」 「・・・それはまだ判らない。」 「千鶴、最初に言っとく事がある。大事な事だ」 「あい、なんでしゅか」 「生きてるもんはな、いつかは死ぬんだ。それはどんな強ぇヤツだって、俺だって土方さんだって変わらない。 お前も山崎君もいつかは死ぬ。ただそれがいつかは判んねぇ。病気か、戦か、それも判らねぇ。 けど、一つだけ千鶴に知ってて欲しい事がある」 すでに泣きそうな千鶴の頭を、優しく撫でると大きなその目をしっかり見据えて告げていく。 「もし、俺や土方さんが死んでも泣かないで欲しいって事だ。ちっと位なら構わねぇ。そうだな・・・。一晩泣くくれぇならいい。 けどな、それ以上は駄目だ。一晩泣きに泣いたらその後は絶対泣かないでくれ」 「どうしてでしゅか・・・?」 「人でも動物でも、死んだら三途の川ってのを渡ってあの世に行く。三途の川に流れる水は、自分が死んだ後泣いてくれる人の涙なんだと。 だから泣いてもらえると船が渡りやすい。けどな、泣き過ぎると、川は溢れて船がひっくり返っちまうんだ。 そうすると、死んだやつはあの世に逝けねぇ。残されたもんの悲しみに捕まって、ずっとこの世を彷徨う事になる。 言ってる事、判るか?」 「・・・あい・・・。みんな、しんでもないちゃ、め?ちょっとだけしか、ないちゃ、めっね?」 「そうだ、だから・・・もしこいつが死んでも、あまり泣くなよ?」 「すむ・・・にゃんは、しにゅの?」 丁寧に猫の体を拭い、手当てを終えた烝に千鶴は伺うように目を向ける。 少し思案した後、烝はぽんっと千鶴の頭に手を置いて微笑んだ。 「生き物はいつか死ぬ。それが今日か明日かもっと先か、判らない。だが、生きる為に精一杯の手助けをしてやろう。」 「あい、ちるる、にゃんのこと、みてりゅよ。」 しっかり頷いた千鶴は、厨房から粥を貰ってくると、少しずつ少しずつ冷ましながら上澄みを子猫に与えた。 弱り切った子猫は、それでも千鶴から与えられる上澄みに舌を伸ばし生きる為に必死に足掻いているよう左之の目には映る。 しかし食べ物を口にし、小さく鳴き声を漏らす姿に千鶴は希望を見出しているようだった。 「しゃにょ!にゃんがごはんたべたよ、きっとだいじょうびよね?」 「ああ・・・そうだな。」 どう見ても今夜か明日が峠、そうは思っても左之はそれを千鶴に告げる事が出来ない。 苦い思いが胸を満たし、やり切れない夜を過した朝。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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