新選組保育日記

K〜薫〜
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世の兄弟姉妹と言う間柄は
得てして非常に仲が良いか仲が悪いか
極端に分かれる事が多いと言う。
それが双子であるなら尚更と言うモノ・・・。


○月×日 ゆきむら ちづる
   きょうはびっくりした
   おにちゃははじめてあったのに
   すごくちづるのことしっててくれたよ
   またあいたいな

もう書くのも面倒だが敢えて書かせて頂こう。
『今朝も土方は毎朝の日課である千鶴の日記の盗み読みを・・・はぅっ!?』
「うるせぇ!!」
ひ、酷いですね、さすが鬼の副長。私に手を上げるとは・・・月が変わってお仕置きしちゃうぞ♪
「キモイ!台詞が微妙にちげぇ!」
知ってるんだ・・・。それはそうと、今朝の土方の顔色も晴れないようです。眉間の皺がいつもより数本多いようですが・・・。
さて、一体何があったのでしょうか?

「たのもう〜〜〜〜」
ここは新選組屯所。門前。
京広しと言えど、この門を叩く関係者は少なく、部外者ともなれば更にその数は限られて来る。
「頼も〜〜〜〜」
「誰だ!うるせぇなぁ!?」
渋々応対に出た平隊士が見た人物。それは身の丈約三尺程(大体1m)膝と腰辺りにある顔は、平隊士が驚くには十分な造りで・・・。
「あれ?千鶴ちゃん?あれ?さっき局長と遊んでなかった?あれ?」
「やっぱり千鶴はここにいるんだね?ああ、よかった。
きみ、申し訳ないんだけど、千鶴に薫が迎えに来たと伝えてくれないかな?」
「は〜??」
頭上に鳩が飛びそうに驚く平隊士。無理も無い。その顔は、我らが副長の養い子、雪村千鶴と瓜二つだったのだから。

呆けた顔で口を開けたまま凝視する千鶴。
難しい顔で睨み付ける土方。
どうしてよいやらオロオロする近藤。
冷めた視線で値踏みする山南。
そうして・・・千鶴と同じ顔をした千鶴より少し背の高い、千鶴よりかなりしっかりした・・・幼児一名。
「で・・・おめぇは一体何者だ。」
「いやだなぁ、土方さん。これだけ同じ顔をしていて赤の他人と言う方がおかしいと思います。兄なんですよ、双子の。」
「そ・・・そうなのか・・・。」
しっかりしているのは悪い事ではないが、千鶴と同じ顔でこうまで活舌よく話されては調子が狂う。何より・・・。
(何っか、ムカつく!!!)
話を先に進める事も出来ずに背筋を伸ばし茶を啜る薫と、土方の横でにこにこ金平糖を食べる千鶴。
ここまで対極な双子も珍しいのはではなかろうか?そこへすらっと襖を開けて一番隊組長、沖田総司が入室してきた。
「千鶴ちゃんにそっくりな子が訪ねて来たんですって?」
「そうじ〜だっこ〜」
にこやかに登場した総司に千鶴が突進する。笑顔でそれを受け止めた総司は、正面に座る薫と視線を合わせた瞬間、何故か二人の間に火花が飛び散る。
「へぇ?皆がそっくりだって言うからどうかと思ったけど、全っ然似てないじゃない。千鶴ちゃんの方が数倍可愛いよ。ねぇ、土方さん。」
「貴方が沖田さんですか?なかなかの美男子だと聞き及んでいましたが、全っ然噂程ではありませんね。」
にこにこにこにこ。表面上はあくまで穏やかに、しかし水面下で静かに貶めあい合戦が勃発する。
「かおりゅはちるるのおにちゃ?」
「そうだよ、小さい時に父上のせいで離れ離れにされちゃったけど、もう一緒に居られるから心配しなくていいよ。
僕がいるから寂しくなんてないからね?」
「お生憎様。千鶴ちゃんは僕達と一緒だから寂しくなんかないんだよ。」
「そんな筈はないでしょう?僕だって寂しかったんだから、千鶴も同じように寂しくないとおかしいよ。」
「おにちゃはさびしかった?」
「うん、千鶴も寂しかっただろう?だって僕達は同じなんだから。」
「ちるるは、さびしいないよ?としちゃもちちうえもけいちゃもそうじも、み〜んな、いっしょ!さびしいない!
かおりゅおにちゃもいっしょ、いよ?」
「何言ってるんだよ!僕が父上ともお前とも離れて寂しい想いをしてる間、お前は新選組の奴らと一緒で寂しくなかったって言うのか!?そんなのおかしいよ!」
「何もおかしくないでしょ?君と千鶴ちゃんは違う人間なんだからさ。」
「あんたは黙っててよ!関係ないだろ!?」
「ちょっと待てっておめぇら・・・・。」
「関係なくないね。君が寂しいからって千鶴ちゃんを連れて行かれちゃうと困るんだよね。この子は僕らの大切な子なんだからさ。」
「うるさい!千鶴だって寂しかった筈なんだ!僕も寂しかったんだから!」
「君ね・・・。」
「だめ〜〜〜!!けんかはめっ!なの!!そうじ!かおりゅおにちゃ!けんかはだめよ!!」
幹部三人が口を挟む隙もなく激しくなっていく口論に、制止を掛けたのは幼い千鶴。
珍しく声を張り上げ詰め寄っていた二人に割って入ると、それぞれのおでこをぺちんぺちんと叩いていく。
「けんかはめっ、なのよ?」
叩かれた総司は目を丸くし千鶴の顔を見つめたまま固まったまま。
「た、叩いた・・・。僕を、叩いたな!いも、妹のくせに!!許さないぞ!絶対・・・。」
叩かれて余程驚いた薫は、真っ赤な顔で千鶴に怒鳴り始めるがすぐにその顔が歪んでいく。
「かおりゅおにちゃ、ぺちんごめんちゃい。いたいいたい、ごめちゃい」
叩いた千鶴も叩かれた薫も、同じ顔同じ声でふるふる震えたかと思えば、同時に泣き出してしまう。
「うわ〜〜ん〜〜。せっかく迎えに来たのに酷いよ〜〜。千鶴の馬鹿〜〜!!」
「ふぇ〜〜〜。おにちゃ〜ごめんちゃい〜〜ぺちんごめんちゃい〜〜ないちゃめぇ〜!!」
「「うわ〜〜〜〜ん!!」」
(う・・・うるさ・・・)
思わず耳を塞ぐ総司に、溜息を吐く山南、眉間に皺を寄せる土方。
二人の放つ不協和音は屯所中に響き渡る勢いだ。
「土方さん!どうにかして下さいよ!!」
「お前が薫に突っ掛かるからだろうが!てめぇで責任取れ!」
「とりあえず何とかしないと、近所迷惑な泣き声ですね。」
「・・・。」
一人黙ってそれを見ていた近藤は、懐から何か取り出すと、大泣きする二人の口にぽんっとそれを放り込んだ。
途端ぴたりと泣き止み二人は目を見開く。
「どうかな?新作の飴玉だ。でっかいから、しっかり食べないと食い切れんぞ?」
にこにこ笑う近藤の台詞に驚いて慌てて口を動かし出す二人。
もごもごもごもご・・・・。涙も乾く頃、やっと小さくなった飴を口に入れたまま最初に千鶴が笑い出す。
「かおりゅおにちゃ〜〜あめちゃんおいしいね〜?」
「・・・まぁ・・・食べれない味じゃないね。」
「うわ〜ホンット可愛くないね、君って。」
「うるさいな、千鶴と同じ顔なんだから、可愛いに決まってるだろ。」
「黙ってれば、可愛いのに。土方さん、せっかくだからもう二人とも面倒みちゃいましょうよ。」
「はぁ?総司!?何言ってやがる!?」
「別にいいじゃないですか、もう一人増えたって。同じ顔なんだから。」
「いや、それ関係ないだろ・・・。」
「ああ、そうだな〜。やはり兄妹は一緒にいるべきだろう?どうだ?トシ。」
「近藤さんまで・・・何言い出すんだ。無理に決まってるだろ?俺は千鶴一人で手一杯だ。」
「それなら心配ないですよ、僕が面倒みますから。」
「「「総司が!?」」」
「・・・酷いな、何ですか、その反応。」
「って、待て待て待て。お前に子育てとか無理だろ!?」
「土方さんに出来てるんだから出来ますよ、僕にだって。」
「それより君には隊務があるでしょう?どうするんですか。」
「土方さんだって仕事しながらでしょ。屯所内には誰かいるんだから、どうにでもなりますよ。」
「だからってなぁ!!」
「それとも、何ですか?自分はいいけど僕は駄目とか・・・言うつもりですか?」
目の据わった総司に睨み付けられ二の句の告げない土方。そこへ間髪居れずに許可を取り付けに掛かる総司。
「じゃ、文句ないですね?そういう事だから君・・・。」
「せっかくですが、お断りします。僕は千鶴と二人でいたいんだ。皆で仲良くしたい訳じゃない。」
「・・・君、可愛くないって言われない?」
「他人が何と言おうと自分の可愛さは千鶴を見てれば判ります。千鶴、もう一度聞くけど、本当に僕とは行かないんだね?」
「・・・ごめんちゃい。ちるるはとしちゃといたいよ・・・。」
しょんぼり俯き再び涙目の千鶴に薫はぽんぽんと頭を叩くとにっこり笑って告げる。
「いいよ、判った。けど、また来るからね?」
「あい、まってましゅ。」
「ん、いい子。では土方さん、千鶴をよろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げて、嵐のようにやってきた千鶴の兄は、嵐のように突然去って行った。
「とりあえず・・・疲れた・・・。」
残された土方らは、千鶴が残ってくれた事に安堵しつつ、呟いた。

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