新選組保育日記

@〜子千鶴登場〜
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この日、新選組に訪れた珍客を、隊士の誰もが夢だと思った。
いや、思いたかった。
しかしそれは現実。
頬を抓ってみても、竹刀でどつかれてみても、覚める事はなかったからだ。



『○月×日 晴れ  ゆきむら ちづる

 きょうははじめてしんでんぐみというところにいきました。
 いなくなったとうしゃまをさがしてもらうためでしゅ。
 みんな、きれいなおねえちゃまとおもったらおにいちゃまでびっくりしました。』


土方は、部屋に広げられた日記らしき物に目を通して一気に目の前が暗くなった。
(おね・・・お姉ちゃま!?綺麗なお姉ちゃまって何だ!!まさか俺じゃねぇだろうな!?)
そこへ日記の持ち主が現れ土方を一喝する。
「こらぁ!!としちゃ〜だめれしょ〜!しょれはちるのにっきなの!!」
ぷんっと頬を膨らませて怒るのは、小さな小さな女の子。
「・・・ああ、悪かったな。千鶴・・・。」
「うふ〜〜わかればよろちぃ。」
(何で、何で俺がこんな目に・・・)
膝程しかない背丈の幼女に説教される自分。
あまりの情けなさに、土方は本気で泣きたかった。

時を遡る事昨日の昼。
いつものように(?)自室で俳句を綴ろうとする土方の元へ、島田が青い顔で訪れた。
「どうした、島田君。顔色悪いぜ?」
「は・・・それが・・・ぜひ副長のお知恵を拝借したく・・・。」
歯切れの悪い島田に促され、中庭へ足を向けた土方。
いつも騒がしい幹部が、今日は殊更騒がしい。
「そっか〜親父さん捜して一人で!エライな〜」
「迷子にならなかったのか。」
「疲れてんじゃねぇか?団子食うか?」
「可愛いね〜お兄さんと鬼ごっこしよっか?」
「てか、どうすんだ?これから。」
「おい、おめぇら何してる。」
幹部にドスの効いた一声を掛けると、波が引くように中央を避けて皆が広がる。
その中央にあったモノに、土方は目を丸くした。
「・・・ガキ?」
そこに居たのはまだ年端もいかぬ幼子。
年の頃は三つ位だろうか?
きょとんと大きな目を見開いて土方をじっと見つめている。
すると、トトトと土方の足元へと寄って来ると、精一杯背伸びして土方に問い掛けてきた。
「おにいちゃまが、ひじかたふくちょ〜でしゅか?」
「お・・・おにいちゃまぁ!!?」
後ろでは平助と新八が思い切り吹き出し、左之と総司、一までが顔を背けて肩を震わせている。
(こいつら!後で締める!)
「確かに俺が副長の土方だ。で、おめぇは誰だ。」
「あい!わたちはゆきむらちるるといいましゅ!とうしゃまをさがしにえどからきました!」
「は!?江戸からぁ!?って、お前一人でか!」
「あい、しんせつなおにいちゃまやおじちゃまがつれてきてくれました。」
ちるると名乗る幼女は笑うが、それって実は人攫いじゃ・・・?とは誰もが思った。
「そ・・・そうか。それで、親父を捜してって、親父さんの名は?」
「ゆきむらこうどうでしゅ!」
今度は土方も心底驚いた。その名は随分馴染み深く、新選組でも行方を捜している人物と同じ名だったからだ。
「お前・・・網道さんの娘か・・・。」
「あい、そうでしゅ。とうしゃまがどこにいるか、しりましぇんか?」
それはこっちが聞きたい。土方は内心の言葉をそのままちるるに伝えると、ちるるは大きな瞳一杯に涙を溜め出した。
「とうしゃま・・・ここにいないでしゅか?」
「お!わ!!ちょっと待て!!おまっ!?泣くな!!・・・お前ら!どうにかしろ!!」
「え〜?泣かせたの土方さんでしょ?」
「俺達が敢えて黙っていた事を。」
「わざわざ教えんだもんな〜。」
「泣かれても仕方ねぇんじゃね?」
「自分でどうにかするべきだろ?」
(こいつら!後で絶対締める!!)
「ああ〜〜泣くな泣くな!!悪かった!悪かったよ!網道さんの事は、俺らも今探してんだ。すぐに見つけてやるから・・・。
だから、泣くな・・・。」
鬼の副長も形無しな、情けない顔で眉を顰めて幼女に頭を下げる姿は、他の平隊士には見せられないなと内心溜息を吐く。
「ほんと?」
「ああ、ホントだ。」
「やくしょく?」
「・・・・約束してやる。あぁ・・・ちるる?」
「ちがうよ、あたちのなまえはちるるだよ。せんこのつるってかくんだってとうしゃまがいってた。」
「千の鶴?千鶴か?判った。約束してやる。」
「あい、じゃあ、やくしょく?」
あいっと差し出されたのは千鶴の小指。どうやら指きりゲンマンをしろと言っているらしい。
幼女と指きりをする自分を想像して泣きたくなった土方だったが、まだ涙を溜めたままの千鶴に肩を落として目線を合わせるようにしゃがみ込み小指を差し出す。
「ゆ〜びき〜りげ〜んま〜ん・・・♪」
調子よく歌う千鶴と、それに合わせて小声で歌う土方を、幹部は腹を抱えて笑い転げる。
「ひぃひぃ!も、もう駄目!」
「お願い、もう勘弁して〜〜!!」
「・・・・滅多に見られない光景だ。」
「ひじっ・・・土方さんがっ!指切りゲンマン〜〜!!」
「いいモノ見たな〜。」
(こいつら!!後で・・・)以下同文なので省かせていただき、機嫌良く指切りをする千鶴だったが、途中でぱたっと歌が止まる。
「どうした?」
「はりしぇんぼん・・・。」
「ああ、約束破ったら針千本だろ?構わねぇぞ。」
しかし千鶴はふるふると首を振る。
「はりしぇんぼん、のんだらめ。いたいいたい、なるの。だめ。」
約束は守って欲しいが破った場合の針千本が痛いから駄目だと、土方を心配したらしい。
あまりに可愛らしい様子に笑い転げていた幹部も今度は微笑ましい思いで二人を見つめる。
「針千本が駄目ならさ、千鶴の好きな事に変えたら?」
「ちるの、しゅきなこと?」
「ああ、何かあるだろ?好きな食い物とか、好きな遊びとか。」
「欲しい物でもいいぜ。」
「副長が痛くなければいいのだろう?」
「何かねぇのか。」
幹部に囲まれた千鶴は、真剣な顔で考え込むが、すぐにぱっと顔を輝かせた。
「ある!ちる、おにいちゃまといっしょいたいよ。」
「・・・は?」
「とうしゃま、いないとよるねんね、できない。だからいっしょねんね、して?」
「ねんね?ああ、寝るのかって・・・一緒に!?」
「あい、いっしょ!ねんね。だめ?」
「ちょっと待て!約束守れなかったらの話じゃねぇのか!お前が言ってんのは今日の夜の話だろうが!」
「って、土方さん。この子一人なんだよ?まさか放り出す訳?」
「それって酷くねぇ?」
「大丈夫だって、こんな小せぇ子の一人くれぇ。」
「皆で交替して世話をすればいいだろう。」
土方一人反論するも、既に千鶴を新選組で預かる事は決定事項となっているようだった。
「なら・・・お前らの誰かが添い寝してやりゃぁいいだろうが!」
「そうしたいのは山々なんだけど・・・ねぇ・・・?」
総司がちらりと千鶴に視線を送れば、千鶴は土方の袴の裾をしっかり掴んで放さない。
そればかりか、必死な顔で土方を見上げ、再び泣きそうになっている。
(ああ・・・鬼の副長のこの俺が・・・)
「判った・・・・添い寝、してやる・・・。」
「ほんと!?」
「・・・その代わり、寝相悪ぃと追い出すぞ。あと寝言もだ。」
「あい!ちる、おとなしくねる!」
元気に手を上げ宣言する千鶴。
深い溜息を吐きながら、土方は小さな手と自分の大きな手を繋いで部屋へと戻って行った。
この小さな少女が、これから新選組内に、小さくはない旋風を巻き起こしていくのは
また別なお話。
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