短編集

はぁと伝えて
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沖田と平助、それに監察で世話になっている山崎と島田の四人。
「山崎さんと島田さんは何処にいるんだろう?」
他の幹部と違い監察の二人が屯所にいる事自体滅多にないのだが、探すまでもなく中庭に揃っていた。
「山崎さん、島田さん。お疲れ様です。よろしければ、これどうぞ。」
「これは何だい?雪村君。」
「チョコレイトか?」
「あれ、山崎さんよくご存知ですね。」
「何かの文献で読んだ事がある。今日はバレンタインと言う日なのだろう?」
「はい。・・・その、普段にお世話になっているお礼にと思いまして・・・。」
「そうか、ありがとう雪村君。ありがたく頂戴しよう。」
「・・・世話になっている礼?バレンタインとは確か・・・。」
「ああ!山崎さん!!あの・・・!!」
恐らくバレンタインが何か本当の意味を知っているだろう山崎の言葉を慌てて止める千鶴に、山崎も何事かに気付いたようで柔らかく笑う。
「なるほど・・・。了解した。これは普段の礼として頂こう。本命には、きちんと話した方がいいぞ?」
「は、はい。ありがとうございます。」
ペコンと頭を下げて去って行った千鶴の後ろ姿を見ながら、島田は不思議そうに首を傾げる。
「山崎君、さっきのは一体どういう・・・?」
「彼女も男装はしていても一人の女性という事です。上手くいくように祈ってあげましょう。」
「ふむ・・・?よくは、判らないが、バレンタインとはいいものだな。」
二人を中庭に残して立ち去った千鶴は、引き続き残りの二人を探して屯所の中を徘徊する。
「どうして会いたい時には会えないのかなぁ?」
「誰に会いたいのかな?」
「きゃぁっ!?」
大きく溜息を吐いた途端に後ろから耳元に囁かれ、飛び上がらんばかりに驚き思わずチョコレイトを落としそうになってしまう。
「おっと、危ない。ごめんね?驚かせちゃったかな。」
「大丈夫です!ありがとうございました!落としたら割れてしまう所でした。」
「割れちゃうの?これって何?」
「これはチョコレイトと言う西洋のお菓子です。今日は日頃お世話になっている方にお礼代わりにチョコレイトを贈る日なんだそうです。」
「へぇ?おかしいな。僕が聞いたのとは違うねぇ?」
「えっ!?沖田さん、バレンタインの事ご存知なんですか!?」
「うん、以前島原のお姐さんに教えて貰った事があるんだ。そのお姐さんは僕が本命だってくれたけど、千鶴ちゃんは違うのかな?」
「え・・・と・・・すみません、今日は皆さんに普段のお礼にお配りしてるんです。ですから・・・。」
「ふぅん?皆にお礼って渡してるんだ?じゃあ千鶴ちゃんの本命は居ないって事?」
「は、はい!勿論です!」
「そっか〜。じゃあ、しょうがないかな。僕もお礼として受け取るよ。でも、来年は本命として受け取れたら嬉しいな。」
渡したチョコレイトに悪戯っぽく口付けしながら意味有り気に笑って沖田は去って行った。
「びっくりした!山崎さんも、沖田さんも何で知ってるんだろ?まさか、平助君も知ってるのかな。」
残すは平助ただ一人。今までの確立からして、まず知っていないとは思うが、それでももし知っていたらどうしようと考えるだけで頬が赤らむ千鶴。
新選組唯一の女性である千鶴の本命は、明るく元気な藤堂組長その人。
本来ならば彼だけに渡したいところだが、それでは他の幹部へ申し訳ないと考えたのが『日頃の感謝を込めたお礼』だったのだ。
千鶴は蘭方医の父の手伝いでメリケン人やエゲレス人に会う機会も多かった為知っていた行事だったが、まさか二人も知っているとは思わなかった。
生まれて初めての本命チョコレイトを片手に、知らず鼓動が早くなっていく。
(う・・・受け取ってくれるかな・・・。)
壊れそうに早鐘を打つ心臓を抑えつつ平助を探すが、何故か今日に限って屯所内にその姿は見当たらない。
「巡察当番、だっけ?」
今日の当番を思い返すが確か昼間は別の隊だったと記憶している。そもそも平助は当番どころか非番である筈なのだ。
「おかしいなぁ?どこ行っちゃったんだろう。」
散々探し回って気が付けば既に夕暮れ。
茜射す空を見上げ、半ば諦めかけた千鶴が大きく溜息を吐いた時、廊下の向こうからいつもは高く結い上げた髪を下ろした平助がやって来る。
「千鶴!ごめんごめん!俺の事探してたって?何か用事〜?」
「・・・平助君!・・・髪、どうしたの?」
「ん?いや〜・・・。非番だし、たまにはいいかと思って下ろしてるだけ。んで?千鶴はなんだったんだ?」
少しバツが悪そうに視線を逸らす平助を訝しく思いながら、モジモジとなかなか用件を切り出す事が出来ない千鶴。
その千鶴に、平助は首を傾げて顔を覗き込んでくる。
「どうしたんだよ?何か今日の千鶴おかしくね?」
「お・・・おかしくなんか、ないよ!ただ、ちょっと平助君がいつもと違うから・・・・」
そのまま俯いてしまった千鶴に、平助は「あ〜そうか〜。」と慌て髪を結い始めた。
・・・のだが何故か肝心の結い紐が無いらしい。
「平助君、紐はどこか落としちゃったの?それとも部屋に置いたままとか?」
「あ〜それはねぇよ。人にやったの忘れてた!部屋で結ってくるな!」
「え?やったって、人にあげちゃったって事?どうして?その人の紐はどうしたの?」
「違う違う!どうしてもくれって言うからさぁ・・・。」
「・・・平助君の紐を・・・?」
「あ!!・・・・んと・・・え〜と・・・。ああ!千鶴の用事って何だよ?先に聞いとくけど!?」
「うん・・・あの・・・これ、あげる。」
挙動不審な平助に、おずおずとはぁと型のチョコレイトを渡すが何故か平助はなかなか手を出してくれない。
「あ、あのね、平助君は知らないかもしれないけど、今日ってね・・・。」
「・・・バレンタイン・・・。」
「え・・・。」

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