短編集

鷹と油揚げ
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「あの!すみません!」
「はい?」
珍しく、土方さんのお遣いで一人で出掛けた日、私は全く知らない男性に声を掛けられた。

屯所に戻ると、私はすぐに与えられた部屋へと向かう。
文机に向かい懐に隠したあるモノを取り出し、じっと凝視する。
「どうしよう・・・・。」
とりあえず、これを誰かに見られる訳にはいかないと、隠し場所を捜していると、急に襖が開けられた。
「お〜す千鶴!暇ならこれから・・・。」
襖を開けたのは永倉さん。
永倉さん!女の子の部屋に勝手に入って来ないで下さい!!
そして固まる私。手には、先ほど見知らぬ人から渡された”それ”が握られたまま。
「・・・千鶴、それ、何だ?」
いつもは鈍感な永倉さんが、私の手の中の”それ”に目を止める。
「いや!あの〜・・・これは〜。」
しどろもどろで視線を泳がす私にドカドカと永倉さんは近寄り”それ”を取り上げる。
「でっけ〜〜花束だなぁ?・・・と、文?か?」
やっぱり!この大きさで隠すのは無理だった〜〜〜!!
「もしかしてお前!恋文か!?誰からんだ!?」
ち〜〜〜!!
違うんです〜〜〜〜!!!!!


場所を移して広間では・・・・。
「でけぇな。ってか、これ結構値の張る花じゃねぇか?」
「おお、この包みの絹も上等だな。」
「こちらの文の料紙も、格別上等な品だ。」
「しかも中身もなかなか気の利いた文面だよ?」
沖田さん、私もまだ読んでないのに先に勝手に読まないで下さい・・・・。
「お前がね〜〜って、これ男からだよな?」
「それは・・・そうじゃないの?だってこの文面とかさぁ。」
「男から女に当てる内容だな。」
「お前・・・外でくれぇちったぁ男らしく振舞え。」
問題はそこですか、土方さん。
「それで、どうすんだ?」
「は?どうする、とは・・・」
「返事だよ!返事!!」
「こちらの文には明日指定の場所まで来て欲しいとある。」
「おお!逢引の誘いか!」
斎藤さん・・・冷静に中身をバラしていかないで下さい。
「「「「で、どうするんだ!?」」」」
そんな全員で詰め寄られても〜〜〜!!!!
私が皆に決断を迫られている時、今までその場に居なかった人物の声が広間に響き渡った。
「あれ〜皆何やってんの〜?俺除け者にしてさ〜。」
あぁぁぁ・・・今一番来て欲しくない人がぁぁ!!
「おお、平助帰ったのか。」
「何やってんの?楽しそうじゃん。」
「いや、あんま楽しくはねぇやな。」
「じゃ、何集まってんの。」
「おお!んで、千鶴!相手はどんな奴だった!?」
「相手って何の?」
「明日正午とあるが、行く予定なのか。」
「ってどこに!?」
「もし行くんなら男装のまま行くんだろうなぁ?」
「何で!?男装じゃないと駄目じゃん!?」
「それより返事をどうするつもりか凄く気になるんだけど?」
「返事って何のっ!!?」
尽く無視される平助君が、とうとうキレてむっき〜と暴れ出すと、やっと皆少し静かになってくれた。
そして注目されるのは、私と文と大きな花束。
平助君の介入で有耶無耶になりかけた先ほどの質問が、再び嵐のように浴びせられる。
その間平助君は黙って文を読んだまま、何も言わない。
「と、とにかく!明日は行きます!当然男装のままです!
お返事をどうするかは・・・明日本人にお伝えします!以上で私は黙秘権を行使します!!」
叫ぶように一気に捲し立てて自室へと逃げ込む。
永倉さん辺りには効かないけれど、ほとんどの方は勝手に部屋に入って来ないので一番安全な逃げ場所だった。
パシンっと襖を閉めてゼェゼェと荒い呼吸を繰り返していると、とすんと、小さく襖を叩く気配がした。
「・・・誰?」
「あ・・・俺・・・。」
「平助君?」
そう言えば、さっき平助君は皆と一緒に詰め寄って来てなかったなと、少し寂しく思いながら顔を出した。
「どうしたの?」
「あ〜、あのさ・・・・・。」
平助君はそれきり黙って俯いたまま動かない。
「平助君・・・?」
「明日っ!行く・・・のか?」
もう一度名前を呼ぶと、弾かれたように顔を上げておずおずと聞いてくる。ちょっとは、気にかけてくれたのかな?
「う、うん。ちゃんと、返事しなくちゃ駄目だと思うから。」
「そ、そっか・・・。えと〜・・・。」
平助君はそう言ったきり、視線を彷徨わせて何も言わなくなってしまう。
「うん、そう・・・。」
「そっか、じゃ、俺・・・行くわ。おやすみ。」
「おやすみなさい、平助君。」
結局何の用事だったのか判らないままだったけど、
ちらちらこっちを見ながら部屋に戻る平助君も何も言わないから、私はどうしようもなかった。
翌日起きると、私は朝から幹部の皆様の監視の元で動かざるを得なかった。
「まるで此処に来たばかりの頃みたい。」
溜息まじりに呟いたら、そりゃ違うだろう?と原田さんは笑ってる。
「あの頃とは真逆の理由だろ、今日の監視は。ま、どっちにしてもこの監視の目の中で出掛けるのは、至難の技だなぁ?」
「原田さんは、止めないんですね?」
「いや〜そりゃ止めてぇけどよ、お前の気持ちが一番大事だろ。行きたきゃ行きゃいいんだよ。」
「ありがとうございます。」
何だか監視する皆さんからも、原田さんからも、とても大切にしてもらえてるようで嬉しかった。
「じゃあ、ついでにお願いが・・・・。」
「途中まで一緒に来てくれ、か?」
「はい・・・よく考えたら絶対土方さんの許可が下りる訳ないんですよね?」
「まぁ、そうだろな。判った、仕方ねぇから協力してやるよ。」
その代わり一番に結果教えろよ?と笑う原田さんと一緒に目的の場所まで出掛けた。
「んじゃ、俺は行くわ。頑張れよ?」
「はい、ありがとうございます。」
頭をぽんぽんと叩いて原田さんは来た道を戻っていく。
約束の場所の近くまで来た時、見慣れた人が近くの塀に持たれているのが見えた。
「・・・・平助・・・君?」
「千鶴・・・。」
「どうしたの?こんなとこで・・・。」
「行くんだろ?これから。」
「うん、そうだけど・・・。」
もしかして心配して一緒に来てくれるのかな?でも・・・。
「行く、なよ。」
「え?」

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