1/1ページ目 寝耳に水ってのは、こういうのを言うんだ。 その日の俺は普段通りに飯食って巡察行って鍛錬してって過ごしてた。 だから昼間千鶴が何してたとか、誰と居たとか、全然知らなかった。 知ったのは、夕刻の飯の時間になってからだった・・・。 「あれ、千鶴、それどうしたんだ?」 いつものように俺の隣に座って飯をよそう千鶴の髪には、小さな簪。 目立たないけれど、薄紅のそれは千鶴によく似合ってた。 しかもよく見れば唇はいつもより艶やかで紅が差してあるし、腰紐にも可愛らしい飾り紐が付いている。 「あ、これ?簪は斎藤さん、飾り紐は永倉さん、紅は原田さん。それから沖田さんからもこれ、匂い袋を頂いたの。」 言われてみればさっきからいい匂いがすると思った。ってか・・・何で? 「何だ?お前知らなかったのか?今日って千鶴の誕生日だろ?」 左之さんの後ろで新八さんと一君が大きく頷いて、総司は呆れたように大きな溜息を吐いてる。 「って言うか怠慢だよね、好きな子の誕生日も知らないなんて。」 「う、うるさい総司!だいたい何で皆そんな事知ってんだよ!!」 「今朝たまたま聞いたんだ。」 「って、俺だって居たじゃんか!」 「おめぇが巡察行った後だったんだよ、わりぃな。」 左之さんも新八さんも全然悪いなんて思ってない顔で何言ってんだっつぅの! くっそ〜〜!! 「平助君、ごめんね、言いそびれちゃって。」 謝られたら、逆に何か惨めだろ! 「別に・・・知らない俺のが悪いんだし・・・けど・・・謝られる方が、格好悪いじゃん。」 俺はむすっとしたまま部屋に戻ったけど、考えてみればマジで知らない俺のが悪い気がする。 皆に遅れ取ったからって、さっきの態度は大人気なかった。 「やっぱ、ちゃんと謝って、それで・・・。」 うん、お祝い、してやりたい。 けど、もうどこの店も閉まってるし、皆みたいに気の利いたもんが用意出来る訳もないし。 「う〜〜ん・・・・千鶴の好きな物、喜びそうな物、やりたそうな事・・・。」 俺が必死に考えてる間、何故か土方さんと近藤局長と源さんにまでお祝いを貰ったらしい千鶴が、俺の部屋を訪ねてきた。 「何か・・・増えてねぇ?」 「あ、うん。土方さんと近藤さんと源さんから。」 明らかに男装じゃなくなってる千鶴の姿に、また余計な嫉妬心が湧き上がるけど・・・今はそれ処じゃないだろ!俺!! 「ん・・・う〜〜ん・・・。」 「平助君・・・?」 「ぅよっし!!行くぞ!千鶴!」 「え?え?行くって、どこ!!?」 「いいからいいから!付いて来いって!。」 「え、え〜〜??」 訳が判らず首を捻る千鶴を、無理矢理引っ張って俺は町に出た。 もうすっかり暗かったし、もし土方さんにでも見付かったら、絶対怒られるって判ってたから、余計焦ってたのかもしんねぇ。 手を繋いで(と言うより掴んで)走る千鶴を見れば、やっぱり判らないと言う顔だけど、少し楽しそうに見えたのは気のせいじゃないと思いたい。 「平助君、どこ行くの?」 「い〜とこ!ぜってぇ気に入るから、もうちょっと頑張ってな?」 「うん!判った!」 訳判んないだろうに、そう言って笑ってくれる千鶴に、俺は今向かってる場所を早く見せたくて更に足を速める。 千鶴は必死って感じだったから、目的の場所に着いた時には息も絶え絶えだった。 「あ〜千鶴?大丈夫か?」 「だい・・・だい、じょう〜ぶ・・・。」 ぐっと親指を突き出してっけど、全然大丈夫そうじゃないし・・・。 「とりあえず・・・上、見てみ?」 「へ?上・・・?」 ほげっとしたまま上を見上げた千鶴の顔が、固まる。 口をぽかんと開けて、大きな目をくりくりさせて、じっと見上げたまま動かない。 「どう・・・かな?気に入った?」 此処は誰にも教えてない俺だけの場所。 辛かったり、苦しい時にやってきて、上を見上げて元気を貰う場所。 「・・・・凄い・・・。」 見上げた空には、満天の星。今日は天気が良かったから絶対綺麗に見えると思ったんだ。 「すげぇだろ?ここに来るとさ、嫌な事とか全部何でもない事みたいに思えるんだ。全部、忘れちまえる。 俺の、とっておきの秘密の場所だぜ。」 「え、平助君の?・・・いいの?私なんかに教えて・・・。」 驚いたように俺のほうを向いて、申し訳なさそうに眉を曇らせる千鶴に、俺はいいんだと笑って見せる。 「他の奴なら嫌だけど、千鶴ならいいぜ。ってか、千鶴だから、いいんだ。」 「え・・・?」 「誕生日、おめでとう。俺は何にも用意出来てないから・・・こんなのしか無理だけど・・・。」 「平助君・・・・」 マジに格好悪いけど、惚れた女の誕生日も知らないなんて情けなさ過ぎるけど、今の俺にはこんな贈り物しか思いつかないから それでも精一杯の気持ちだけは込めて千鶴におめでとうを伝える。 「産まれてきてくれて、俺の目の前に現れてくれて、ありがとな。」 思い切り照れながら、真っ赤になってるのが自分でも判ったけど、でもしっかり千鶴の目を見つめたまま笑った。 千鶴は驚いたように目を見開いて、俯いちまった。やっぱ、こんなんじゃ女の子は嬉しくねぇかなって落ち込みかけた俺の首に 千鶴の手が巻き付いてきた。 抱きつかれてるんだって判る頃には俺はオロオロで、どうしていいか判んなくなって慌てて千鶴の名前を呼ぶばかりだった。 「ち、千鶴!?どうした!?」 「・・りがと。ありがと、平助君。最高の贈り物だよ。」 多分、俺が出会ってから今までで、一番綺麗な笑顔で千鶴は笑ってた。目尻に涙が光って見えるのは、きっと嬉し涙だって思う。 「喜んで、くれた?」 「勿論!凄く嬉しいよ、平助君!」 俺に抱きついた千鶴に、俺も腕を回して抱き締める。 「良かった〜つまんねぇって言われたらどうしよ〜とか思った!」 「言わないよ、こんな素敵な贈り物貰ったのに!」 「そっか・・・。うん、連れてきた甲斐があったぜ。」 「ふふ、それに、空だけじゃなくて、周りも綺麗ね?」 え?と思って見回せば、確かに一面紅く染まった落ち葉で埋め尽くされて、紅葉の敷物の上を歩いてるみたいだった。 「ホントだ、気付かなかった。」 「素敵な紅葉と星空を、ありがとう、平助君。」 ぴょんと飛び上がるみたいに、一瞬だけ千鶴の唇が俺の頬を掠めた。 俺がそれに気付いた時には、もう千鶴の体は離れちまってて、俺はただ真っ赤になって口をパクパクするだけだった。 「あ、千鶴!」 「何?平助君。」 「その・・・今の・・・。」 平気そうな顔で振り返る千鶴を、俺はもう一度捕まえて抱き締める。 「今の・・・その・・・もう一回。して・・・?」 俺が顔を覗き込んで頼んでみたら、ちょっと恥ずかしそうに笑って、もう一回だけねと頷いてくれた。 千鶴の唇が俺の頬に近付いた時、俺は顔をずらして自分の頬じゃなくて口に千鶴の唇を押し当てた。 一瞬千鶴の体が離れそうになるけど、ぎゅっと強く抱き締めたら、すぐに体の力を抜いてくれて 俺はそれが嬉しくて、すぐに止めようと思ってたけど、なかなか離れてやれなくて、しまいに千鶴が苦しそうに胸を叩くまでずっと口付けてた。 「あ、わり・・・。」 「ううん・・・いいよ。」 二人とも変に照れながら、目を合わせて笑いあった。 空には満天の星と三日月と、地面には真っ赤な紅葉の敷物。 お互い夢の世界みたいだなと笑いながら、仲良く手を繋いで屯所へ戻った。 「来年は、もっとすげぇもん贈るからな!」 なんて、笑い合いながら。 君にありがとう。 産まれて来てくれて 俺に出会ってくれて 傍にいてくれてありがとう 幾千幾万の感謝の言葉を ありったけの心を込めて 君に感謝するよ。 ありがとう。 誕生日、おめでとう。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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