短編集

恋せよ若人
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次の日。
ほとんど二日酔いの俺は気分最悪だった。
呑みながら左之さん達に昨日千鶴から拒否られた事も話してたみたいで、
朝から二人して慰めてもらって、再度千鶴に会いに行ったら・・・。
今度はあからさまに避けられた・・・。
一緒に居た二人はもう目も当てられないって感じで、顔を手で覆ってたけど
俺は突っ伏して泣きたい心境だった。
「・・・まぁ、平助。元気だせ。」
「そうだな、何も女は千鶴だけじゃねぇし・・・。」
「二人共・・・・何、そのいかにも俺が振られたみたいな言い方・・・。」
「「あれ?違うのかよ」」
「違う!まだ告白もしてねぇのに、振られる訳ないだろ〜〜!!」
「はぁ〜〜?まだって何だ!?!ってかお前今まで毎晩何してたんだ!」
「え・・・何って・・・話とか・・・。」
「おっまえ!!馬鹿かぁ!!??」
「え、え、何だよ、話しちゃ駄目なのかよぉ?」
「ちっがう!男と女が夜中に二人きり!この状況で話してただけだと!?」
「あれだよ、お前、千鶴に呆れられてんだよ。」
「何でっ!。」
「あのな?よ〜く考えてみろ。千鶴はああいう性格だ。
夜中に男が訪ねてきて、誰彼構わず招き入れるような女じゃねぇだろ?
なのにお前の事は嫌がりもせず受け入れてたって事は、千鶴だって待ってたって事じゃねぇの?」
「そうそう、なのにお前ときたら何するでなく、ただ話してオヤスミ〜〜って、阿呆か!」
「あんまりお前が何もしないもんだから、絶対呆れられて見捨てられたんだぜ。」
「・・・そ、そんなぁ・・・。」
左之さんと新八っつぁん二人の言い分も最もな気がして、俺はマジで情け無くなってきた。
マジどうしよう・・・もし千鶴に見捨てられたんだったら俺・・・立ち直れねぇ・・・。
告白もしてない内に失恋って・・・どうよ。
そんな俺に、二人は元気出せよと肩を叩いてくれたけど・・・その日の夜には慰める言葉も出なくなったみたいだった。
俺達は昼間稽古場で鍛錬してたんだけど、いつもは洗い立ての手拭いを渡してくれる千鶴が来ない。
どうしたのかと捜してみれば、何故か一君と二人で中庭に居た。
「千鶴〜〜手拭いどこだよ〜?」
俺がいつもの調子で声を掛けた途端・・・逃げた。それも走って・・・まさに脱兎の如く。
「・・・・平助、お前千鶴に何をしたんだ。」
一君が眉間に皺を寄せて聞いてきたけど、そんなのこっちが聞きたい。
晩飯の時には、それでも同じ時間に席にいたけど、俺とだけ目を合わせようともしなければ、お茶も入れてくれない。
(左之さん達にはいつも通りだったのに!)
食い終わるとそそくさと行ってします。
あぁ・・・皆の俺を見る気の毒そうな顔・・・・。やめてくれ、マジ、泣きそう。

それからも、千鶴ははっきりと俺を避けてた。
俺を見ると逃げ出し、理由を聞こうとして部屋に行っても居留守使われ、俺以外にはいつも通りって、余計情けない。
「あのぉ、ほれ、あれだ、女特有の月の物のせいかもしんねぇじゃん?」
「あ〜あ〜、あれな、あん時って妙に女は神経質になるよな?」
「え〜?違うでしょ?千鶴ちゃんの予定日はもう少し先の筈だけどなぁ。」
新八っつぁんも左之さんも何言ってんの!?
ってか総司は何でそんな事知ってんだよ!!?
覚えてんなよ!そんな事ぉ!!
そんな訳の判んねぇ会話がされた後も、千鶴の俺への態度は変わらなかった。

1週間経った頃、とうとう俺は切れた。
「い〜加減にしろよな!一体俺が何したっつぅんだよ!!??」
思わず逃げようとする千鶴の腕を強く掴み、キツイ口調で問い質してた。
だって、もし振られるにしても、こんな形じゃ納得出来ねぇ!
「・・・!!」
それでも尚逃げようとする千鶴に、俺は完璧頭に血が上って、言っちゃいけない事を叫んでた。
「・・・・判ったよ!そんな俺が嫌ならもういいよ!俺だってお前なんかどうでもいいし!知らねぇよ!!」
その時の千鶴の目。
縋るような、申し訳ないような、よく判んねぇ複雑な目をしてた。
なんだよ、自分が避けてるくせに、何でそんな目、すんだよ。
「意味、判んねぇし・・・。」
俺がガックリ項垂れてると、急に頭の上から声がした。
「あれ〜?藤堂さんじゃない、どうしたの〜?」
「あ・・・?」
誰だよと思って見上げれば、千姫だった。
「あんた、また来たの。」
「またって何、文句ある?言っときますけど、私はまだ千鶴ちゃんが此処にいる事を快諾してる訳じゃないですから。」
「あ〜そう。」
「・・・何。元気ないわね、どうしたの。」
いつもは食ってかかる俺が、気の無い返事をしたのが心配になったのか、珍しく隣に座って顔を覗き込んでくる。
「別に、関係ないじゃん。」
「あ、その態度、可愛くな〜い。そんなんじゃ、好きな子にも嫌われちゃうわよ?」
「もう嫌われてるし・・・。」
「へ?千鶴ちゃんに?何で!?」
「てか・・・何で俺の好きな女が千鶴って知ってんだよ。」
「バレバレだし、気付いてないのは本人だけじゃないかしら?」
「・・・そ、そうなんだ。」
「で?どうして千鶴ちゃんに嫌われたの?その根拠は?」
「だってさぁ、最近、あいつ俺の事ずっと避けてるんだ。」
「は?避けてる・・・?」
「そう。ず〜〜と、話も聞いてくんねぇし、顔合わせてすらしてくんねぇ。」
「・・・・ぅわ・・・それは・・・・悪かったわ。」
「うん、多分、俺が何かしたんだと・・・って、へ?」
「いや〜〜そこまで徹底するとは・・・。ホント、悪かったわ。」
「って、何・・・・が?」
「千鶴ちゃんが、藤堂さんを無視する理由、きっと私のせいだもの。」
「・・・・・・はぁぁぁぁ!!!??」
何だよ!?どうゆう事!?
口をパクパクさせて掴みかかる俺に、千姫は「どうどう・・。」と手をひらひらさせるけど、俺は馬じゃねぇ!
「だからね・・・そのぉ、前来た時、え〜と、一週間前?かな。その時に、とあるお呪いを教えて帰ったの。」
「お呪いぃ?」
「そ、恋のお呪い。これを成功させれば好きな人と両想いになれますよ〜ってヤツね。」
「恋の、お呪い!?って、どんな!相手は!?」
「落ち着きなさいって、そのお呪いって言うのが
『好きな人の名前を書いた懐紙をずっと懐に忍ばせたまま、一週間好きな相手と口を聞かない』
って内容なのよねぇ?」
にやにや笑って千姫は俺にお呪いの内容を教えてくれる。
「しかも懐紙に名前を書く所は誰にも見られちゃいけないの。
どう?思い当たる節、ある?」
「一週間・・・・懐紙・・・・誰にもって・・・。好きな相手と口聞くなって・・・。」
俺は呆然として訳判んねぇ単語がひたすらグルグル頭ん中回ってて・・・。
「千姫が、それを教えたのは。」
「一週間前ね、ちょうど。」
「好きな相手と口聞いちゃいけないお呪い?」
「そう、っと言うか好きな相手を完璧に無視しなくちゃいけないの。
効きは最高にいいけど効き目が現れる前に絶対無視された相手が怒ってお仕舞いって事の方が多いのよ。」
俺は、そのお呪いの方法を聞いて、そこから導かれる事実に次第に顔が赤くなるのが判った。
「それって・・・・。」
「ふふ〜ん?羨ましいわね、い・ろ・お・と・こ。」
「やべぇ・・・。」
「は?何言ってんの?もしかして不満とか言うんじゃないでしょうね。」
「違うって!んな訳ねぇじゃん!超嬉しいし!そうじゃなくて!。」
「じゃ、何よ。」
「俺・・・千鶴にお前なんかもう知らねぇって言っちゃった・・・・。」
「馬鹿・・・。」
俺の呆然とした呟きに、千姫は空を仰いで嘆いた。
そんなん俺だって嘆きたいぞ!!


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