短編集

愛すべき呼称〜平助ver〜
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俺が巡察から帰って来ると
いつもなら真っ先に出迎えてくれる千鶴が出て来ない。
「あれ〜?新八っつぁん、千鶴は〜?」
「お〜?千鶴ちゃんなら中庭だ。可愛いぞ〜。」
意味の判んねぇ新八っつぁんの発言に首を傾げつつ、俺は中庭に走る。
ってかさ、千鶴が可愛いのなんか、当たり前じゃん。
ぐるっと外を周って中庭に入ると、井戸の辺りに総司と一緒に千鶴がいた。
俺の出迎えもしないで、総司と一緒にいるのはちょっとムカついた。
だから俺は殊更デッカイ声で千鶴を呼ぶ。
「千鶴〜何やってんだよ〜!」
俺の大きな声に、驚いたように振り向く千鶴と、ゆっくり振り向く総司。
「あ、平助君、お帰りなさい。」
にっこり満面の笑顔でお帰りを言ってくれる。
その事に俺の機嫌は少し直ったけど、やっぱり何で迎えてくれなかったか、気になる。
「なぁ〜なんで今日は出迎え無しだったんだよ?」
のっしりと千鶴の背中におぶさって、拗ねた声で聞く俺に、千鶴は困った顔でごめんねと謝って来た。
「行きたかったんだけど・・・この子がね。」
『この子』と、千鶴が示した地面には、ちっこい三毛猫が一匹。
「うっわ〜〜〜可愛い〜〜。なんだ、こいつ。どうしたんだ?」
「うん、何か、屯所に迷い込んじゃったみたいなの。」
「そうなんだよね、いつのまにか庭にいてさ。
弱ってるみたいだから、餌をやろうとしたんだけど
こいつ千鶴ちゃんにしか懐かないんだよ。
で、仕方無いから千鶴ちゃんに面倒見て貰ってて、平助の出迎えに行けなかったって事。」
「へぇ〜そうなんだ。じゃあしょうがねぇかな。」
ひょいっと抱き上げれば、間髪いれずに鋭い爪で顔を引っ掛かれた。
「いってぇぇぇぇ!!?何だぁ!?」
「あ〜やっぱり平助でも駄目かぁ。」
呆れたような総司に、俺は目で問い掛ける。
あんまり痛くて、声が出なかったから。
「こいつさ、千鶴ちゃんにしか懐かないだけじゃなくて、千鶴ちゃんに近付く人全部にそんな感じ。
僕もやられたしね。」
ほらっと見せられた腕には生々しい赤い筋。
「千鶴ちゃんにしか懐かなくて、千鶴ちゃんに近付くと威嚇する、なんて、どっかの誰か見たいだねぇ?」
総司が意味有り気な視線を俺に寄越して、千鶴は赤くなって俯く。どうせ俺はヤキモチ焼きだよ。
「んで、こいつ、どうすんの?」
「ん?とりあえず、飼い主が見付かるまで預かるってさ。土方さんの許可済み。」
「よく土方さんが許してくれたなあぁ・・・」
「まぁねぇ、あの人も、千鶴ちゃんには甘いから。」
肩を竦める総司に、また俺の中のモヤモヤが膨らむ。
全く、どいつもこいつも、千鶴は俺のだっつぅの!
「あ、そうそう。」
屯所内に戻りながら、思い出したように総司が振り返る。
「そいつ、『へいすけ』って名前だから、よろしく〜〜。」
ひらひら手を振りながら去っていく総司に、俺は呆れたように顔を顰めた。
「はぁ〜〜?『へいすけ』って、何で縒りにもよって!?」
「ご、ごめんね、平助君?私がそれがいいって言っちゃったから。」
おずおずと上目使いで言われたら、さすがに俺もそれ以上は怒れなかった。
「ん〜〜まぁ、ずっとって訳じゃねぇし、仕方ないか〜」
「よかった、ありがと。へいすけをよろしくね、平助君。」
何か、ややこし〜〜。


それから、『へいすけ』がいる屯所は、実に実に騒がしかった。

左之さん曰く
「平助が二人いるみてぇだ。」

だそうだけど、俺はあんな人騒がせじゃねぇ!
餌は千鶴からしか食わないし、誰かが千鶴に近付けば威嚇する。(下手をしたら鉄爪攻撃だ)
おかげで千鶴はへいすけに付きっ切りで、俺が不貞腐れても、仕方ないじゃん。
「千鶴!」
あんまり千鶴に構って貰えないし、二人きりにもなれなくて、イライラしてた俺は、すこしキツメに千鶴を呼んだ。
「はい?どうしたの?平助君」
「俺、今日非番なんだよ。一緒に街行かねぇ?」
「え、そうなんだ。あ、でも・・・。」
一瞬嬉しそうに顔を輝かせたくせに、すぐに手元のへいすけに目をやる。
「やっぱり、へいすけを放っておけないから、屯所の中で一緒にいようよ。」
屯所内だと、そいつが邪魔するから誘ってんのに!
「判った!もういいよ!!」
これだから、お子様って言われんだ。猫にヤキモチなんて、みっともない。
けど俺は幹部だし、千鶴は表向き土方さんの小姓だし、そんないつも一緒に居れる訳じゃない。
だから非番の日位一緒に居たかったのに。
「千鶴の馬〜鹿。」
声に出して呟いていると
「馬鹿で悪かったですよ〜」
「うぉ!?千鶴?いたのか!
「はい、居ました。」
済ました顔で俺の隣に座る千鶴。俺の馬鹿発言に怒ってんのかとも思ったけど、その口元は笑ってる。
ほっとした俺は千鶴の肩に顎を乗っけるように抱き着いて言った。
「まったくなぁ、誰だよ、『へいすけ』なんて名付けた馬鹿は。」
「・・・馬鹿で悪かったですよ。」
「い!?って、え?まさか千鶴が名付け親〜〜?」
「そうで〜す。」
「な・・・何で〜?」
「馬鹿ですから、それしか思い浮かばなかったんです。」
今度こそ、ツンっとソッポを向くとこっちを向いてくれなくなった。
「ごめんて、馬鹿ってのは取り消す。この通り!だから、機嫌直せって?」
パンッと顔の前で手を合わせて拝めば、少しだけこっちをむいてくれた。
「そいで、何で『へいすけ』?」
「・・・・」
同じ質問を繰り返したら、今度は真っ赤になって俯いた。ありゃ?
「呼びたかったから・・・・。」
「は・・・?」
あんまり小さい声だったから、俺は間抜けな声で聞き直した。
「だから、呼びたかったから。」
「って、何を?」
何の事か意味が判らない俺は、もう一度同じ質問をして、今度は千鶴に殴られた。
「呼びたかったんです!皆さんみたいに、『平助』って、呼び捨てで!」
思い切り殴られた頬を擦りながら、きっと俺は馬鹿みたいな面してた。
「え、だって、呼んでんじゃん。いっつも。」
「いつもは、『平助君』だもん。」
更に真っ赤になった千鶴は、それきり俯いて何も言わない。
俺は嬉しいけど、だからって猫にかこつけなくても、とか、やっぱこいつ可愛いな、とか
色々考えて、けど結局、俺が口にしたのは。
「馬〜鹿。」
だった。
「・・・!」
再び馬鹿呼ばわりされて顔を上げた千鶴を、俺は愛しさを込めてキツク抱き締めた。
「ほんと。馬鹿な。そんなん、いつでも呼べよ。」
「だって、恥ずかしいし・・・。」
「今更・・・?」
「平助君には、判んないよ。」
「ん〜〜〜。とりあえず、今度からさ、名前、呼び捨てしろよな。」
「え!無理だよ無理無理無理!」
「無理じゃな〜い。俺の頼み、聞いてくんねぇの?」
下から覗き込むように千鶴の目を見つめて囁く。
千鶴は,真っ赤になって、それでも小さく俺の名を呼んでくれた。
「ありがと、今度から『君』付け禁止な?」
二人笑い合って、口付けを交わそうとすれば
「ニャ〜〜〜〜!!」
「っげ!?」
猫のへいすけに邪魔された。
ちくしょ、ちょっと位、いいじゃんか。
猫のへいすけは、俺から千鶴の膝の上を奪い取ると、満足気にゴロゴロ言い出した。
それを見て俺は、羨ましいな〜とか思いながら、今だけは譲ってやってもいいかなって
寛大な気持ちになってた。
だって、千鶴は俺のだから。
今度から、『へいすけ』て呼んでもらえるのは、お前じゃなくって、俺だよと、心の中で毒吐いた。

fin

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