1/1ページ目 〜判ってんだ 敵わないって けどさ 想うだけなら自由だろ?〜 君想う時、我想う 『怪我に薬塗られて、痛い痛い泣いてたくせに』 「・・・・」 何も、千鶴の前であんな事言わなくたっていいじゃん。 そりゃ、確かにぴぃぴぃ言ったけどさ。 左之さんに自分の情けない所を、思いきり千鶴にバラされた俺は、半ば以上不貞腐れて稽古場の隅に座りこんでた。 何となく見れば、千鶴が左之さんと何か話してる。 左之さんが何か言う。 嬉しそうに笑う千鶴。 千鶴の髪を撫でて、微笑む左之さん。 目が言ってる。 二人とも、お互いが好きだって。 言われなくても判る。 判ってる。 なのに・・・。 左之さんが俺の視線に気付いた。 『・・・ニヤリ』 そんな音が似合いそうな顔で俺に笑いかける。 ・・・何だよ、それ。 大人の余裕ってヤツ? 俺はお子様だから?敵にもなんねぇって? 「っんだよ・・・・。」 拗ねたように吐き出した呟きはどうやら音になってたらしい。 「何だぁ?どした、平助。」 新八っつぁんが、それを聞き咎めて横に座り込む。 「だぁ〜〜キッツ〜〜最近鈍ってんなぁ。」 「よく言うよ、めっちゃめちゃ絶好調じゃん。」 「そうかぁ〜?」 そう言えば、新八っつぁんも、俺よりは大人だよなぁと、しみじみ顔を見詰めると、俺の視線を感じた新八っつぁんが目を瞬かせて俺の顔を覗き込む。 「何だ?俺の男前っぷりに見惚れたか。」 「ちっがうって。新八っつぁんじゃねぇし!」 「俺じゃねぇ?」 しまったと、口に手を当てた時には遅かった。 新八っつぁんはさっきまで俺が見ていた辺りに視線を向けて、得たりと笑う。 「なるほど、ね」 「な、何だよ・・・」 バツの悪い俺は知らず口調も尻すぼみになっていく。 「いや〜〜〜・・・ちょっと、難しいんじゃねぇ?」 「そ・・・!」 判っている事を今更人に指摘されると、益々ミジメさが募って、思わず俺は怒鳴ってた。 「そんなん!判ってるよ!!」 稽古場にいた隊士が、一斉に驚いたようにこっちを向く。 その中には、勿論千鶴も左之さんも居て、千鶴は心配そうに、左之さんは呆れたような顔で俺を見てた。 俺は、皆の視線に居た堪れなくなって稽古場から走り去った。 「永倉さん。」 「お〜どうした千鶴ちゃん。」 「平助君、どうかしたんですか?」 「いや〜何でもねぇ〜。な?左之」 「あぁ、お前が気にする事じゃねぇよ。」 二人共走り去った平助の気持ちが判るだけに、殊更なんでもない事のように言い切るが、それでも気になって仕方が無い千鶴は、そのまま平助の後を追ってしまった。 「左之よ。」 「なんだよ。」 「あんま、イジメんなよ、若者を。」 「イジメてねぇよ、あいつが勝手にイジケてんだろ。」 さして興味も無さそうに左之助は目を閉じる。 平助を追って行った千鶴を止めもしない。 (要するに、敵にもなんねぇって事か。) 少々平助が不憫になり、新八は深い溜息を吐いた。 「平助君!」 「え!?千鶴!?何で!?」 「何でって、様子が変だったから心配で・・・一体どうしたの?」 「・・・・・。」 あんな顔で左之さんを見てたくせに、今度はそんな心配そうな顔で俺を見るんだ。 お前が俺を見る目は、いつだってそんな目だ。 池田屋の時だって・・・。 「何でもねぇ。」 「でも、だって、何か元気ないよ?もしかして傷が痛むの?大丈夫?」 その言葉に、俺の中で何かが弾けた。 「・・・っ!」 俺を心配そうに見詰める千鶴。 俺はそんな千鶴の腕を引いて、自分の胸の中に抱き締めた。 「へ、平助君!?どうしたの!!?」 慌てて体を離そうとする千鶴。けど、俺は腕を緩めない。 「千鶴・・・」 「平助・・・君?」 千鶴の額に俺の額を合わせて、視線を絡ませて千鶴を見詰める。 千鶴の目には、必死な顔の俺と、若干怯えたような不安な色。 「俺・・・・。」 「平助君?」 「俺さ・・・」 「・・・・うん。」 「俺、負けねぇから、さ。」 「え?」 何に、とは言わない。 言っても、今はまだ仕方無いから。 今はまだ伝わらないから。 「俺、負けねぇから。」 同じ台詞を口にして、千鶴の頬に軽く唇を寄せる。 「きゃっ・・・!?」 今度こそ体を離そうとする千鶴を解放して、俺はおどけて笑う。 千鶴の後ろには、いつの間にか左之さんがじっとこっちを見て立ってた。 その姿に向かって俺はもう一度叫ぶ。 「俺、絶っ対負けねぇからな!」 左之さんも千鶴も驚いたように目を見開くけれど、俺は気にしない。 「絶対、負けねぇ。」 今度は自分に言い聞かせるように呟く。 欲しいモノがある。 例え敵わなくたって 欲しいと願うのは 想うのは 自由じゃん。 「よっしゃ!」 巡察に向かう俺の足取りは、さっきより、全然軽かった。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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