Moments〜君と見る夢〜

第七章〜差し伸べた手の先〜
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第七章〜差し伸べた手の先〜




〜君がもうこれ以上
二度と怖いモノを
見なくて済むのなら
僕は何にでもなろう〜




風間さん達、鬼の襲撃を受けて数日。
お千ちゃんは再度私の元を訪れ、共に行こうと誘ってくれたけれど、私は首を縦に振る事はなかった。
命を賭けて私を護ると誓ってくれた皆を信じていたし、何より山崎さんの傍から離れるのが嫌だった。
あれ以来、土方さんは私の護衛を一層強化し、
影ながらではいざと言う時に対処出来ないからと、常に山崎さんを傍に付けてくれるようになった。
山崎さんも、土方さんの命だからと言うだけでなく、自分もそうしたいのだと言い訳のように零しながら
ほとんど一日中を共に過ごし、夜半となれば、隣室で休むようになっていた。
そんなある日の事。
「トシ、困った事になった。」
「何だ、近藤さん、西本願寺から出て行けとでも言われたか?」
苦笑いをしながら土方さんが核心を突くような言葉を発すると、近藤さんは息を詰めて目を見開いた。
「知っていたか。」
「いや、何となくだ。元々ここの坊さん共は俺達を追い出したがっていたし、加えてこの前の襲撃騒ぎだ。
いつか言い出すだろうとは思ってたさ。」
「そうか。それなら話は早い。西本願寺から、屯所を移転しようと思う。」
「しかし近藤さん、移転とは言っても、そう簡単にはいかねぇだろう?」
「それに関しては心配に及ばんよ。屯所の移転先から建築まで、全て西本願寺で持つと言ってくれている。」
「要するにそれだけ早く追い出したいって事か。」
「ま、そういうこったな。」
苦笑しながら言い合う土方さんと原田さんに、近藤さんはいやいやと笑いながら答える。
「まぁ、そういうな、すぐには見付からないだろうが、今の内から移転の準備や片付けを始めておいてくれ。」
「あいよ。」
「判ったよ、近藤さん。」
「って事だ、千鶴。また片付けやら掃除の指示出し頼むわ。」
「え・・・。」
土方さんが、私に頼んでくれたのは正直嬉しかった。
こんな私でも役に立てるんだと思えるから。けれど・・・。
私の脳裏には、隊士達に泥水を掛けられ雑巾で小突き回された事が思い出される。
「どうした、何か都合悪ぃのか?」
「あ、いえ!そんな事は、ないです。大丈夫です。」
頼まれればいつでもどんな事でも満面の笑顔で引き受ける私が難色を示したのに対し、土方さんが訝しげに眉を潜める。
「千鶴・・・?」
「本当に大丈夫です!いつまでを目安にしましょうか?」
「そうだなぁ・・・。」
近藤さんと今後の予定を話しだす私を横目に、土方さんは山崎さんに目を向ける。
「大丈夫です、今後は俺が付いてますから、以前のような事はさせません。」
「やっぱり、何かあったのか。」
「前、池に落ちたって言ってた時か?」
「何だ、そりゃ?」
一言も事情を聞かされていないのに、何故か察している山崎の言葉に、原田も永倉も、思い当たる事があるように顔を上げる。
「大した事ではありません。本人曰く・・・ですが。ただ、幹部に親しむ千鶴君に、不快感を抱く隊士もいるようです。」
「・・・なるほど。」
山崎のその言葉だけで、三人は全てを悟る。恐らく心配を掛けたくなくて平気だと笑う笑顔の裏を。
「ちっ!・・・馬鹿野郎共が!」
「山崎君、すまねぇが、屯所内でも千鶴を一人にはしねぇでくれ。」
「はい、心得ています。」
「頼んだぜ。」
ぽんと肩を叩かれた山崎は、三人に一礼して千鶴の元へと向かう。
「いい加減、山崎君も自覚すりゃいいのにな。」
「いや、ありゃ自覚してるが気付かねぇフリだな。」
「お前ら、あんまりからかうなよ?」
任務に就いている際だけでなく、普段でさえ、以前なら見る事もない微笑みを浮かべ千鶴と話す山崎を見ながら、三人は苦笑を洩らす。
山崎に答える千鶴の笑顔を、出来れば曇らせたくないなと願う三人だったが、屯所を不動堂村に移転して間もなく起こった事件は、その笑顔を雲らせるには十分だった。

「坂本龍馬が暗殺!?」
「そうなんだよ、しかもねぇ、その下手人が新選組がじゃないかって噂が立っているんだ。」
いつも穏やかな源さんの顔が曇る。
「けどよ、大政奉還以来、俺らは坂本に手は出さないよう言われてるだろ?なのに誰が殺るってんだ?」
「それがなぁ・・・あんただって言われてるんだよ、原田君。」
「はぁ・・・!?」
「左乃さん知らない間にそんな楽しい事してたのなら、僕がやりたかったな。」
思わぬ所から自分の名前が出され、目を向く原田さんに残念そうにおどける沖田さん。
冗談じゃないと原田さんは反論するが、事態は深刻なようで、源さんの顔は晴れない。
しかも、その時襖の向こうから掛けられた言葉と現れた人物に一同目を剥く。
「坂本を暗殺したのは御陵衛士です。」
「さ、斉藤!?お前、何で!?てか、暗殺したのは御陵衛士って!?」
もう何をどこから突っ込んで聞いていいか判らない永倉さんに、沖田さんと源さんが訳知り顔で頷いた。
「なるほどね、斉藤君は間者だったって訳?」
「そういう事だ。斉藤には、伊東派について探りを入れてもらっていた。
そして、今回奴らが近藤さんの暗殺を目論んでいる事が判った。」
「局長を!?」
「伊東の野郎・・・。」
「今までは泳がせてきたが、こうなっちゃ放っておく訳にもいかねぇ。
伊東には・・・死んでもらう。」
土方さんの呟きが、隊士の間に重苦しい空気を漂わせていく。
それからは、伊東さんの暗殺の為の段取りが淡々と進められ、私は身の置き場もなく広間の隅で静かに皆の話し合いに、耳を傾けるでなく聞いていた。
「千鶴君、君はどうする?」
すっと音もなく山崎さんが横に座り、その夜の行動を確認してくる。
私は少し思案した後に、ふるふると被りを振る。
「私は、お留守番しておきます。どちらに付いて行っても邪魔になりそうですから。」
伊東さんを罠に嵌める近藤さん達と、伊東さんの遺体を囮として御陵衛士を襲う原田さん達。
そのどちらに付いて行っても、恐らく役に立たない所か邪魔になる。
そう感じての言葉だった。
「しかし、原田さん達に付いていけば、藤堂さんと話す機会があるかもしれない。」
山崎さんの言葉に、一瞬躊躇するが、やはり私は静かに首を振る。
「それでも、私が行って足手まといになるのは嫌ですから・・・。」
「そうか・・・。」
「はい。」
穏やかに笑う千鶴は、決して無理をしている用には見えない。
藤堂さんと斉藤さんが、伊東さんと共に袂を分かち御陵衛士となった時には、随分落ち込んでいたようだったが、今の表情を見ると
それもかなり落ち着いて来ているようだった。
「俺は原田さん達と共に行動する。だから君の傍に居てやる事は出来ないが・・・。」
「大丈夫です。今回お留守番される沖田さんや源さんと一緒に居ますから。」
「そうしてくれ。くれぐれも一人で屯所内をうろつかないように。」
以前であれば、監視の為。
しかし今は千鶴自身の安全の為。それが判っているからこそ、千鶴は素直に頷く。
「判っています。山崎さん達が無事にお戻りになるのを、大人しく待っていますから。」
内心酷く心配なんだろう彼女の笑顔に、山崎も自然と顔が綻び千鶴の頭を軽く撫でると、安心させるように頷いて出て行った。
残された私は、本来なら沖田さんらと居る方がいいのだろうが、何となく一人で過ごしたくて自室に篭る。


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