Moments〜君と見る夢〜

第陸章〜君を照らす月〜
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第陸章〜君を照らす月〜



〜風のように
流れるのなら
君の側に辿り着けるでしょう
月のように輝けるのなら
君を照らし続けるでしょう〜



慶応元年閏年五月
先に行われた長州征伐の処分を下す為、長州藩の名代を招聘する旨を長州藩に伝え、
請書の提出を命じたが、再三の命にも従わない長州に、二度目の長州征伐が向けられる事となった五月。
しかし、第二次長州征伐の最中、家茂公の急死による喪が発せられ、
新選組に長州征伐の出陣命令が下される間もなく、将軍を欠いた幕府軍は勝利を得られぬまま撤退。幕府側の敗北と言う形で終わった
第二次長州征伐は、幕府の威信は完全な失墜を意味し、時勢は倒幕へと傾いて行く事となる。

この長州征伐の際、三条大橋西詰には、長州藩を朝敵として批判する制札が立てられていたが、
幕府が敗北した後も、掲げられたままであった。
そして八月に入り、この制札が何者かによって引き抜かれる事件が続き、幕府は新選組に制札の警護を命じた。
原田さんと数人の隊士が警護する中、土佐藩士と見られる数人の浪士が制札を抜きにやって来たが、新選組の活躍により、事なきを得た。
幕府の面目を保ったという事で、会津藩から報奨金を頂いた原田さんは、皆を連れて角屋へと繰り出していた。

「大丈夫か?」
「・・・・何とか・・・・。」
普段お酒を呑み慣れていない私は、呑めないからと丁重に断り続けていた酒盃を、
あまりにしつこい永倉さん他数名の勧めに負けて、何杯か呑み干していた。
「ちょっと・・・外の風に当たって来ます。」
心配そうにこちらを見る原田さんと土方さんに、一言声を掛けて私は廊下へと出た。
「山崎君、付いて行ってやってくれ。」
「はい。」
中で土方さんの声と、山崎さんのやり取りが聞こえ、すぐ外へ出るつもりだった私は、廊下で暫く待っていた。
「・・・まだ居たか。大丈夫か?」
「大丈夫くないですけど、山崎さんに警護を命じる土方さんの声が聞こえたので・・・。」
「ああ・・・。外へ出よう。顔色が悪い。」
「はい。」
二人連れ立って外へ出ると、同じように酒に酔った人がちらほら見える。何故あんなモノを好んで呑むんだろう・・・。
「無理するからだ。」
苦笑と共に山崎さんは冷たいお水を渡してくれるけど、無理をするなと言う方が無茶な話だ。
「見てたくせに、何言ってるんですか。」
「確かに、今夜の永倉さんはしつこかったな。」
「ていうか、止めて下さい。」
「すまない、つい・・・。どうする?このまま屯所へ戻るか?」
「ええ、はい。出来れば・・・。」
「判った、すぐ戻る。中で待っていろ。」
そう言うが早いか踵を返し中へと戻っていく。恐らく土方さんの許可を貰いに戻ったのだろう。
山崎さんを待つ間、私は絢爛豪華な角屋の家屋を見上げる。先ほどまで私にも綺麗な姐さんが付いてくれていた。
君菊さんと言う花魁さんは元より、他の姐さん達も綺麗にお化粧して色とりどりの着物に身を包んでいた。
私は自分の袴姿を見下ろして、思わず溜息を吐く。
父様を捜して京まで旅した夜。すぐに新選組にお世話になる事になって以来、ずっと続けている男装。
振袖どころか、お化粧もする機会は全くなく、仕草なども日々男ぽく見えるよう気をつけている為、女らしさから
程遠くなっている自分を自覚している。
仕方無い事だとは思う。まさか泣く子も黙る新選組に、何の関係もない女子が身を寄せている等と知られれば
内外ともにあまりいい噂は立たないと判っているから。
「けど、やっぱりね・・・。」
「どうした?」
再び深い溜息を吐いた時に、山崎さんが戻ってきた。
「あ、いえ、土方さんの許可は頂けましたか?」
「・・・ああ、副長も心配していた。先に戻って今日はもう休んでいいそうだ。俺も共に帰ろう。その許可も頂いている。」
「ありがとうございます。さすがに夜の京を一人では、ちょっと・・・。」
「そうだな、では帰ろう。」
山崎さんは、薄っすらとした微笑を浮かべて、私に手を差し伸べてくれる。
京都御所からの帰り道。
内に込めていた鬱憤を全て山崎さんに晒して以来、彼はこうして時々ではあるが、笑顔を見せてくれるようになった。
それだけでなく、二人だけで出掛けた時等は、今のように手を繋いでくれるようにもなっていた。
彼は何も言わないが、私はその手の温もりに随分癒されていたし、心に芽生えた微かな感情も自覚していた。
だからこそ、今夜のように着飾った姐さん達を見ると、みすぼらしい男装姿の自分が情けなく感じてしまうのだ。
危うく再び溜息を吐きそうな私の耳に、気遣わしそうな山崎さんの声が届く。
「千鶴君?大丈夫か?随分顔色が悪い。吐き気がするなら、そこの影ででも・・・。」
「いえ・・・大丈夫です。気分はかなり良くなりましたから。」
「そうなのか?しかし・・・。」
「今は違う事でちょっと気分が落ち気味なだけです。」
再び溜息を吐き出すと、先ほど考えていた事を理由は省いて話し出す。
「仕方無い事なんですが・・・いつまでこのままなのかなぁと・・・。」
「このままとは?」
「この、男装です。父様を捜す為に新選組に身を寄せる内は、ずっとこのままだと判っているんですが、さすがに。」
「角屋の姉さん達が羨ましかったか?」
「そんなとこです。」
「・・・誰か、好いた男でも出来たか?」
「え・・・!?」
「いや、今までそんな事を言った事は無かったから、誰か好きな男でも出来たかと・・・違ったか。」
「ち、違います。」
一瞬、聡い山崎さんだから、自分の気持ちにも気付かれたかと焦ったけれど、そう言うわけでもないらしい。ほっとしつつ
少し残念にも思いながら思い切り否定した。
「そうか・・・。」
山崎さんはそれきり何も言わず歩を進めていく。
私もそれ以上突っ込まれては困るので、黙ったまま山崎さんの歩幅に合わせて肩を並べて歩く。
もうすぐ屯所に着く頃、山崎さんがふと私に向き合って口を開いた。
「先ほどの話だが・・・。」
「はい?」
「今の男装についてだ。もし・・・もし君に好いた男が出来たとしても、きっと大丈夫だ。」
山崎さんは握った手にきゅっと力を込めて話し出す。
「君が惚れるような男なら、外見の装いに惑わされる事などないだろう。
きっと在りのままの君を見つけて、そして君の想いへ答えてくれるだろう。
だから安心していい。」
「そう・・・でしょうか?」
「ああ。」
暗に、それは自分ではないけれど、と言われているようで、悲しくなる自分もいた。
でもそれは判っていた事でもあるから・・・。
新選組が一番大切だと言う山崎さんが、誰かを特別好きになる事なんてないと判っていたから特別に涙が出たりはしなかった。
「なら、もうしばらくこのままでもいいかなぁ。
私に好きな人が出来るのなんて、先の先の、ず〜〜と先の話でしょうし。」
にこりと笑って山崎さんに微笑みかければ、困ったように笑う山崎さん。
「そんな先の話だと、嫁き遅れになるぞ。」
「うわっ!怖い事言わないで下さい〜〜!!」
そんな軽口を山崎さんと交せるようになった自分に驚きながら、過ごしていた毎日。
事件は起こった。
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