1/3ページ目 第四章〜張り巡らせた棘〜 〜行き場所を失くして 彷徨ってる 剥き出しの心が 触れるのを恐れて 鋭い棘 張り巡らせる〜 西本願寺に屯所を移転して数ヶ月。 表向き新選組の皆は、平穏に過ごしていた。 毎日の巡察と鍛錬、たまに遊びに行ったりふざけあったり、内面に隠された狂気に蓋をして 気が付けば季節は春を終えようとしていた。 そんな時、近藤さんが新しいお医者様を屯所へと連れて来た。 その先生の名前は松本良順先生。 京に来て、まず最初に私が会いに行こうと思っていた松本先生その人だった。 「松本先生!」 「あぁ、君が千鶴君か。近藤君から話は聞いているよ。お父上の事だね。」 「はい!先生は何かご存知ないですか?」 「うむ、残念ながら、わしも鋼道さんの現在の行方については知らんのだよ。 だが、薩摩藩に保護されていると言う噂は聞いた事がある。」 「薩摩に・・・・そう、ですか。」 「すまないね、力になれなくて。」 「いえ!そんな、わざわざありがとうございます!」 「いやいや、新選組内の往診も兼ねてだからね、礼には及ばんよ。」 「それで、先生、隊士の様子は・・・。」 近藤さんと松本先生が、隊士の体調の事について会話を始めたので、私はいつもの仕事に戻る為にその場を離れた。 いつもの仕事と言っても、西本願寺に移転してからは、その掃除が主な仕事になっている。 なにしろここは広い。 前の八木亭に比べて倍どころか三倍以上あるのではないだろうか? 雑魚寝していた隊士さん達が、広々と手足を伸ばして眠れるようになったのはいいけれど、広さに比例するように 掃除する箇所も増えてしまっている。 しかも隊士さんの人数も増えている為洗濯も倍になり、雑用の仕事は大幅に忙しくなっていた。 「ん〜〜でも、やっぱり私だけじゃ、掃除間に合わないなぁ・・・。」 せめて二人位、毎日交替で掃除してくれればいいんだけど・・・。 けど巡察や鍛錬で忙しい隊士の皆さんに、そんなお願いは出来ない。 仕方なく私は雑巾を絞り廊下の拭き掃除を再開する。 それにしても・・・・汚い、と思う。 男性ばかりの集団だから、仕方無いとは思う反面、普段から気を付ければもう少し綺麗になる部分も多い。 食べ零し飲み零しはすぐ拭くとか、汚れた服はすぐ洗濯するとか、読み散らかした本は片付けるとか(春本が多いので、下手に触れない) 「それだけでも、随分変わるのになぁ・・・。」 私がブツブツ言いつつ片付けていると、先ほどまで松本先生と話していた近藤さんがやって来た。 「あぁ!雪村君、こんなとこにいたのか。掃除中かな?ちょうどいい!」 「はい?私に何か御用ですか?」 「うむ、普段から屯所内の雑用をしてくれている君に、こんな事を頼むのは非常に申し訳ないんだが・・・。」 近藤さんは困ったように頭を掻いて言い難そうに口を開く。 「隊士達を指揮して、屯所内の大掃除をしてくれんか?」 「・・・・はい?」 「いや、先ほど松本先生からご指摘を受けてね。屯所内が汚過ぎるとおっしゃるんだ。 不衛生な状態では、治る怪我も病気も治らないと。」 「あぁ・・・それは、まぁ・・・一理ありますね。」 実際汚いし・・・。 「う・・・やはり君も、汚過ぎると思うかね。」 「・・・。」 私は思わず視線を逸らしてしまう。 私のその仕草に全てを悟ったらしい近藤さんは、改めて頭を下げる。 「頼む、雪村君。大変だとは思うが、隊士達の為にも引き受けてくれんか。」 「そんな、頭を上げて下さい。大丈夫ですよ、ちょうど私も大掃除したい気分でしたから、皆さんにお手伝いしてもらえるなら 凄く助かります。こちらこそお願いしたいです!」 「そうか!引き受けてくれるか!ありがたい!」 満面の笑顔で喜ぶ近藤さんを見ていると、やはり無条件に助けになりたいと思ってしまう。 こういう所が人徳と言うのだろうか? 近藤さん直々の依頼を受けた私は、さっそく幹部さん達の前で、掃除の手順の説明を始めた。 「あぁ、千鶴君。実は彼にワシの助手を務めてもらう事になったんだ。 今回の大掃除も、二人で指揮を取るといい。」 そう言って松本先生が連れてきたのは山崎さん。 「え?山崎さんが、先生の助手を?」 「うむ、彼はなかなか筋が良くてな、さすがにこの大所帯をワシ一人で診るにも限界があるからな。 ワシが居ない間は彼に隊士の健康管理をしてもらう事になったんだよ。」 「そうなんですか。凄いですね、山崎さん。」 いつも監察方や、諜報活動等の裏方仕事の山崎さんが、表立った仕事をするには大変な事も増えるだろうけど それでも彼が認められた事がとても嬉しかった。 「凄くはない。人を殺す事と、生かす事は、紙一重だと言うだけだ。」 「でも、凄いです。」 無邪気に喜ぶ私に、山崎さんは苦笑していたけど、すぐ真面目な顔に戻って仕事の話を始める。 「千鶴君、まずは屯所内の掃除の手順の確認だ。 手早く終了させる為に、各担当を決めてしまおう。」 「あ、そうですね!じゃあ、近藤さん、失礼します。」 にこにこ満足そうに笑う近藤さんに挨拶を済ませ、早速掃除に取り掛かる。・・・のだけど・・・。 「き、汚い・・・・。」 今まではあまり個人の所有物が多過ぎて掃除出来なかった各寝部屋は、想像に難い程、汚かった。 「いや・・・俺らもまさかここまで汚いとは正直思わなかったぜ・・・。」 一緒に掃除する原田さん達も、あまりの汚さに言葉も出ないようだ。 「まずは散らかった布団・着物・本・ゴミを各自の分片付けて下さい。その後上から順にハタキで埃を落としていきましょう。」 「わ、判った。おい、お前ら!自分のモンは自分で片付けろよ!」 「はいっ!」 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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