Moments〜君と見る夢〜

第参章〜手の届かない輝き〜
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第参章〜手の届かない輝き〜


〜心が焦げ付いて
焼ける匂いがした
それは夢の終わり
全ての 始まりだった〜


禁門の変の激戦の後、改めて朝敵となった長州は幕府から追われる立場となり
その功績を認められた新選組は、幕府から600両もの報奨金を頂き、幕府召抱えの組織となった。
そして更なる活躍の為、新たな隊士を募るべく平助君と近藤さんが江戸へと出立。
程なくして、近藤さんは伊東甲子太朗という、平助君と同門である北辰一刀流の先生と、その弟子達の勧誘に成功。
攘夷の志を同じくし、活動を開始した。しかし、そこで大きな問題が発生する。
「此処も、随分手狭になってきたなぁ・・・。」
土方さんのその一言で屯所移転が決定し、その移転地として西本願寺が選ばれた。
「西本願寺なら、京の中心にも近いですし、巡察も有時にも早く対応出来ますよね。」
私は山崎さんの横で、墨を磨りながらうわ言のように話している。
と、言うより、山崎さんはほとんど喋ってくれないので、ほぼ私の独り言状態だけど・・・。
禁門の変で重症を負った(見た目は)私を見て、斉藤さんは酷く心を痛め、山崎さん自身も間に合わず怪我を負わしてしまったと、
二人共が私に謝罪してくれた。
けれど、戦場での負傷を人のせいにするつもりも、二人のせいだと思う気持ちも全く無かった私は、逆に恐縮してしまった。
怪我はすぐ治ったけれど、血の流し過ぎでしばらく動けなかった私に、土方さんは山崎さんを傍に付けてくれた。
今ではその時の傷もすっかり癒え、体調も元通りになったけれど、何故か今だに山崎さんは私を傍から離そうとはしなかった。
そんなに、心配かけちゃったのかなぁ・・・。物凄く、怒ってたようだったし。
「確かに西本願寺に移転すれば便利だが、そうは簡単にはいかんだろう。」
一人考えに没頭していた私は、山崎さんの声に我に返る。
「え!?何か言いました!?」
「・・・・」
そんな私に呆れたような目を向け、嘆息しながら説明してくれる。
「西本願寺は長州派だ。浪士を匿っていた事もある。
副長は西本願寺に屯所を移す事で、長州派の動きも抑えようとお考えなんだろう。」
「へぇ〜〜〜、さすが土方さんですねぇ・・・。」
「・・・・君は人の事に感心していないで、もう少しまともに墨を磨れるようになれ。」
「ごめんなさい・・・。」
確かに、私は墨磨りが苦手で、いつも斑になったり薄かったり、山崎さんに叱られている。
けど、何でいつも一緒にいてくれるんだろう?
あんまり、役に立てていないのになぁと思うと知らず溜息が零れる。
「・・・疲れたか?」
それに気付いた山崎さんが、声を掛けてくれる。
けど、疲れてはいなかったから、いいえと首を振ると、少し怪訝そうな顔をした。
「え・・と・・・平助君、いつ江戸から戻るのかな・・とか?」
「ああ・・・。藤堂さんなら、もうしばらくすれば戻るだろう。先日文が届いていたようだ。」
「あ、そうなんですか?じゃあ、また騒がしくなりますね。やっぱり平助君が居る方が食事も賑やかですし。」
墨を磨りながら、そんな事を話していると、今度は山崎さんがじっとこちらを見ているのに気付く。
「どうしました?あ、墨足らなくなりました?」
「いや、まだ大丈夫だ。・・・やはり、藤堂さんが居ないと寂しいのか。」
「え?いや、う〜〜ん、どうでしょう?静かだなぁ、とは思いますけど、寂しいのとは違いますね。
だって最近は、山崎さんがいつも傍に居てて下さるじゃないですか?」
他意なく言ったつもりだったけど、はっと気付けば山崎さんは、少し頬を赤くして仕事に戻ってしまった。
そして私も、よく考えれば凄い事を言ったのではと、赤くなってしまう。
あぁ・・・恥ずかしい・・・。
けれど最近は、いつもこんな風に一緒にいるので、逆に山崎さんが傍にいないと違和感を感じて不安になってしまう時がある。
なのに、そんな不安な時に限って、山崎さんは夜の巡察に行ってしまう。
今夜も、確かそうだった筈だ。
夕食の後、山崎さんは、いつものように私に釘を刺してから出掛ける。
「いつも言う事だが・・・。」
「判ってます。自分に出来る事と出来ない事を把握して、無理はしない。
出来ない事は山崎さんが帰って来るまで手を付けずに待っている。ですよね?」
「そうだ、特に、今夜は嫌な予感がする。杞憂に終わればいいんだが・・・。」
「大丈夫ですよ、なるべくどなたかと一緒にいるようにします。幹部の方と一緒なら、少しは安心でしょう?」
「・・・そうだな・・・。では、行って来る。」
「はい、行ってらっしゃい。」
夜の闇に消えていく山崎さんを見送って玄関から上がろうとすると、そこに沖田さんが立っていた。
「あれ?沖田さん、どうしたんですか?」
「ん〜〜〜?いや、君たちを見てたんだけど・・・何かね〜・・・。」
「??どうしました?」
「やっぱり自覚無しかぁ。性質悪いよねぇ?」
「・・・?何がですか??」
「何でもないよ。ところで、今日は山崎君、いつにも増して眉間の皺多かったようだけど、どうしたの?」
「それが、よく判らないんですが、凄く嫌な予感がするとか言ってました。」
「山崎君が?」
「はい、私は屯所にいるから、何も心配はいらないと思うんですけど・・・。」
「・・・屯所の中が、必ず安全とは限らないんだよ?
けど山崎君が心配するから、千鶴ちゃんは自分の部屋に戻っておいで。
山崎君の部屋でもいいけど。」
「・・・自分の部屋にいます。」
「気を付けてね。」
自分の部屋に戻るだけなのに、何を気を付けるんだろう?私が訝しく思って首を傾げていると、山南さんの姿が見えた。
いつになく真剣な眼差し、声を掛けるのも躊躇われてそのまま後を着けてしまう。
今思えば、この夜の山崎さんの杞憂は当たっていたのだ。
彼の忠告を受けて大人しくしていれば、あんな事態にはならずに済んだのに・・・。

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