1/7ページ目 〜風のように流れるのなら 君の側に辿り着くでしょう 月のように輝けるのなら 君を照らし続けるでしょう〜 サクサクと雪を踏み締める足音が凍えた冬の風に溶ける。 昨夜降り続けた雪は、足首程までしか積もっておらず、比較的歩を進めやすい道行きとなった。 雪を踏み締め響き合う音は、常に二つ重なり離れる事はない。 「山崎さん、今日はどちらまで向かわれるんですか?」 「・・・千鶴。」 「はい?」 「俺の名前を覚えているか?」 「・・・あ。」 思わず口に手を当てて視線を彷徨わす千鶴に、山崎は肩を落として嘆息すると、口の端だけを上げて笑う。 「そんなに覚え難いか?藤堂さんの名前はすぐに覚えていたようだったが・・・。」 「え!?そんな前の話を持ち出すんですか!?」 「少なからず・・・妬いていたからな。」 「・・・妬いて?」 「何だ、気付いてなかったのか?」 「全然全くこれっぽちも・・・。」 「あぁ・・・君が鈍いのは今に始まった事ではないか。」 「ど、どうせ私は鈍いですよ!でも、ホントに?」 「嘘を言ってどうする。他の幹部方はともかく、藤堂さんとはすぐに打ち解けていたし、なにより名前で呼び合う様は親しげだった。 彼が江戸に行っている間は酷く寂しそうだったな。」 俺はそのせいで随分不快な想いをさせられていた。 あくまで楽しそうに山崎は笑っているが、千鶴にとっては寝耳に水。 出来ればその時に言って欲しかったと思っても元の木阿弥。驚きながらも嫉妬していたと聞かされて、どこかで喜ぶ自分も自覚してしまう。 「・・・嬉しそうだな。」 「えっ!いえ!そんな事は、ないですよ?」 「俺が嫉妬などするのはおかしいか?至って普通の感情だと思うが?」 「おかしくないです。ただ、やっぱり嬉しいと言うか・・・。改めて実感したと言うか・・・。」 「俺も任務で女性と接する機会はあったが、それを君が見る事無く済んでしまったし、俺が実感出来る機会はこの先も無いだろうな。」 「じょ・・・女性と・・・接する機会って・・・。」 「任務で、情報を得る為に仕方無くだ。他意はない。ある筈ないだろう。」 「それは、そうでしょうけど・・・。」 「妬いたか?」 口を尖らせ俯いた顔を覗き込むと、山崎は楽しそうに千鶴に問い掛けてくる。 「や・・・妬いてません!」 「そうなのか?」 「そうです!」 「そうか・・・俺は君に妬かれる程の価値はない、か・・・。」 「ちがっ!違います!そんな訳ないじゃないですか!?」 「だが妬いてないんだろう?」 「・・・!!妬いてます!物凄く!想像しただけで、想像するのも嫌ですけど!すっごい嫌です!山崎さんが他の女性に触れていたなんて・・・。」 話しながら勝手に想像が膨らんだのだろう。次第にしょんぼり肩を落とす千鶴に、山崎は堪え切れずに吹き出した。 「は・・・ははは!全く、君は・・・・。」 「か、からかったんですね!?」 「そう言う訳じゃない。すまない、本当に君は見ていて飽きないな。そう言う所が気に入ったんだが・・・。」 「それって、ただ玩具にされてるだけな気がします。」 「そんな訳ないだろう。ただの玩具にこんな真似はしない。」 頬を膨らませて拗ねる千鶴の手を引き、腕の中に華奢な体を納めると優しい口付けを黒髪に落とす。 山崎の腕の中で、千鶴も安心したように体を預けて目を閉じる。 八軒屋から送り出されて、二人で旅を始めて既に一月。 その間恐れていた敵方に遭遇する事もなく、降り積もる雪にだけ難儀しながら続ける旅はひどく幸せで、今までの戦いも羅刹となった山崎の体の事も 全てが夢のように思えた。 山崎は深い口付けはしない。 ただ何度も啄ばむように口付ける。 それを少し物足りなく思いながら千鶴も山崎の唇を受け入れる。 その夜は雪の積もる山奥に手頃な洞穴を見つけると、そこで暖を取り夜を明かす準備を始める。 薪を拾いながら、千鶴はふと瞳に影を落とす。 表面上は以前と何も変わらない山崎。 羅刹となり、昼間活動するのは困難である筈が、そんな素振りも見せず笑う姿が不安だった。 何でもないと、何も変わらないと見せているのが心配で堪らなかった。 必死に隠しているようだが、秘かに吸血衝動の発作が起こっている事も千鶴は気付いていた。 千鶴が寝静まった夜中、発作に苦しむ山崎の呻き声を聞いたのは一度や二度ではない。 その頻度も段々多くなっており、土方から渡された薬も残り僅かとなっている。 しかし山崎は千鶴にその苦しみを見せる事はない。 何故か、その理由が判っていても、千鶴には必死に隠す山崎が悲しかった。 「どうして・・・私にまで隠すの・・・?」 「何をだ?」 「・・・・!?」 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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