Moments〜君と見る夢〜

第仇章〜剥き出しの心 〜
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第仇章〜剥き出しの心〜




〜鳥のように羽ばたけるなら
君の元へ飛んで行くでしょう
そして傷を負ったその背に
僕の羽を差し出すでしょう〜




その日、私と山崎さんは小さな口論をしていた。
「大丈夫だ。」
「でも、まだ一ヶ月経っていません。」
「ほとんど一月になる。傷も全て塞がり痛みもない。問題はないだろう。」
「でも、先生は一ヶ月って・・・。」
「その師匠から許可は頂いている。」
「えっ!?松本先生から、直接許可を頂いたんですか!?」
「ああ、きちんと診て頂いた。結果、監察仕事でも諜報活動でもしていいと言われた。問題はない筈だ。」
「・・・判りました。先生がいいとおっしゃったのなら、私は反対出来ません。」
「そうか、良かった。それでも駄目だと言われたらどう説得しようか悩む所だ。」
「ってかさ・・・。何やってんの?二人して。」
ひたすら口論を繰り返していた私達を、ずっと観察していたらしい平助君が溜まり兼ねたように疑問を口にしてきた。
「烝君、明日の近藤さんの護衛行くんだろ?もしかして千鶴反対してんの?」
「もしかしなくても反対してます。」
「何で?烝君の腕なら心配しなくても大丈夫だろ?」
「そんなの判ってますよ!けど、まだ怪我が・・・。」
「それはもう治ったとさっき言っただろう。」
「要するにぃ・・・千鶴は一ヶ月前の怪我がまだ心配な訳だ?」
「そうです・・・。」
「大丈夫だって!明日はさ、金戒光明寺まで行って帰って来るだけの護衛だろう?」
「でも、近藤さん、護衛は三人しか連れて行かれないんでしょう?もし長州や薩摩に襲われたら・・・。」
「だから、大丈夫だって!烝君なら相手が何人いても平気だし、ちょっとは信用してあげたら?」
山崎さんだけでなく、平助君にまで説得されて、私は不承不承頷いた。
「信用してない訳じゃないですよ!それに、さっき反対しないって言っちゃったから、止めても行きますよ、山崎さんは。」
「烝君も大変だね〜。心配症な恋人持っちゃうと。」
からかいを含んだ平助君の言葉に、私は一気に頬に熱が集まるのを感じた。恋人って、恋人!?
そんなの、好きとか言われた訳じゃないし、護るとは言われたけど、でもでも・・・!!恋人・・・!!?
「千鶴君、藤堂さんならもういないが?」
「へ?えっ!?あれ?」
「君がぶつぶつ言っている間に『ご馳走様』と行ってしまわれた。」
「ご馳走様って・・・。」
(と、言うか・・・山崎さんは嫌じゃないのかな・・・)
「君の考えそうな事は大体判るが、特に嫌でもない。だから否定はしなかっただろう。」
「あ、そう言えば・・・。」
「そう言う事にしておけば、余計な手間が減るからな。」
「余計な手間って?」
「・・・何でもない。それより、千鶴君。幹部の隊服に火熨斗を当てると言っていたが、その前に早く取り込まないと湿気てしまうぞ?」
「あぁ!忘れてた!!もう!もっと早く言って下さいよ〜〜!!」
「・・・俺のせいか?」
少々理不尽な八つ当たりを山崎さんにした後、私は慌てて洗濯物を取り込みに走り、その話はそこでお終いとなってしまった。
そんな翌日。
「気を付けて下さいね、近藤さん。」
「ああ、ありがとう千鶴君。すまないが、山崎君を借りていくからな。」
近藤さんまで私と山崎さんを恋仲だと思っているのだろうか?
そんな風に言われて、私はまた真っ赤になってしまい、思わず俯いてしまう。
こんなだから誤解されてしまうのだろうけど・・・。
「あの・・・本当にお気を付けて・・・皆さんいってらっしゃい。」
王政復古の大号令が発令されてから、幕臣もなく、武士も侍もない世の中になった。
とは言え、今だ薩摩・長州・会津とそれぞれの藩の鬩ぎ合いは続いており、今回の会合も今後の方針を決める為の大切な話し合いと言う事もあり
会津藩の皆様に小心者と見られないようわざと小数の護衛しか連れて行かないのだと言う。
近藤さんの言い分も判るけれど・・・。それを送り出す側としては心配で仕方無い。
土方さんも、いつもより眉間の皺を増やして難しい顔をしている。
「白昼堂々襲われたりしねぇだろうが・・・もうちっと護衛を連れてってくれりゃぁなぁ・・・。」
そんな事をぼやいてみても既に出発してしまった皆さんを、私達はただ待つしかなかった。
新選組は大号令の後、新遊撃隊と名を改めたけれど、やはり馴染み難く、皆は変わらず新選組と名乗っている。
その後、すぐに天満天神へと宿借りし、今はここ伏見奉行所へと着陣している。
ここに着いてからまだ二日。
何処が何処やらさっぱり判らない私は、幾度も迷子になり、その度に山崎さんに助けてもらっていたので彼が居ないと満足に建物内を歩く事も出来ない。
「千鶴、烝君いないと暇そうだな?」
「そ、そんな事ないよ?」
私がぼ〜と縁側で空を眺めていると、背後から平助君が声を掛けてくれた。
「いいっていいって、んな誤魔化さなくて。皆知ってるし、気にしてないからさ。けど、今は俺の相手してくんねぇ?」
「え?そう言えば、もう夜なのに巡察行かなくていいの?」
「う・・・ん。そうなんだけどさ・・・。何か、最近の羅刹隊見てると俺不安でさ。」
平助君は、ぽつりと洩らすと盛大な溜息を吐いた。
「俺ってさ、駄目だよな。
何かしなきゃって自分で考えて決めたつもりで伊東さん達に着いてって、生きる為に変若水飲んで羅刹んなってさ。
全部自分で決めた事なんだけど、俺が考えて決めたつもりだったんだけど。何か、自分が其処に無いって言うか・・・。
山南さん達は、多分血に狂っちまってる。京に居た頃から羅刹隊が粛清した死体はひでぇ状態だったって聞いてたろ?
あれってさ、血を啜ってたんだと思う。それは、多分今も変わってない。
ここに着いた初日に出たって辻斬りは、きっと山南さん達なんだ。
俺、それが判っちまったから羅刹隊と一緒に行動出来なくなってて・・・。
って、何か、俺情けないな、お前に愚痴っちまうなんてさ。こんなんだから、千鶴も烝君のが良かったんだろう〜な〜。」
「え?」
「お前知らなかっただろうけど、結構居たんだぜ?千鶴に惚れてるヤツ。俺もその一人だったんだけど、烝君に捕られちまったしな。」
「え、え、ええ!?」
私はあまりに寝耳に水な話に思わず驚きの声を上げ、これ以上ない程大きく目を見開いていた。
「お前、声でけぇし、そんな驚く事か?」
「お、驚く事だよ!初めて聞いたよ、そんな話!!だって、今まで・・・全然・・・。」
「当たり前〜。お前は網道さんの事や新選組に馴染むのに必死だったろ?
ようやく慣れてきたと思ったら怪我するし、風間とか襲ってくるし、誰も言う隙が無かっただけで、皆狙ってたんだって。
その前に烝君といい雰囲気になってたから、結局しょうがねぇかって諦めてるぽいけど。」
「・・・そ、そうなんだ・・・。」
「そうなんだよ。や〜い、驚いた〜。」
って、子供みたいに平助君は指差して笑うけど、私は全然気が付いてなくて、申し訳なような嬉しいような複雑な心境だった。
「烝君さ、新選組に一生捧げるんだと思ってたから、俺はちょっと安心した。
お前と居る事で、もっと周りの事とか見れるようになって前より冷静になってる気がするし。ただ・・・。」
「ただ、何?」
「気を付けてやってくれな?俺みてぇにならないようにさ。一度羅刹になっちまうと、もう戻れないから。」
「それって、どういう・・・。」
「う〜ん・・・余計な心配かもしんないけど、新選組の為なら、死にそうになってても闘うだろ、烝君は。
そういう時、変若水に手出しちゃうんじゃないかって心配なだけ。
まぁ、本人が選ぶ事で俺の口出す事じゃないんだけど、やっぱ、ならずに済むなら、羅刹になんかならない方がいいと思うしさ。」
「平助君・・・。ありがとう。」
多分、本当はこれが言いたくて私に声を掛けてくれたんだろう。
不器用で、それでいて優しい平助君らしい言い方に、私は自然と笑みが浮かんだ。
「どう致しまして、千鶴はさ、そうやって笑っててくれよな。
俺達、これからどうなるか判んねぇけど、お前がそうやって笑ってくれてるだけですげぇ安心出来るからさ。
これは俺だけじゃなくて、きっと烝君や、他の皆もそうだと思うぜ?」
平助君はそれだけ言うと、じゃあなと手を振って羅刹隊の皆がいる所へ戻っていった。
羅刹の仲間と一緒に行動出来ないと言いながら、それでも自分が羅刹となる道を選んだ事と向き合っている平助君はやっぱり若くても新選組幹部の一人なんだと思えた。
私は、どうなんだろう?もし本当にその時が来たら、私はどうするんだろう?
そんなすぐには答えの出ない考えに頭を巡らせていると、急に表が騒がしくなった。
「千鶴!!千鶴、居るか!!」
「はい!土方さん、ここに・・・!!??」
土方さんの普段とは違う切羽詰まった怒鳴り声に、何事かと走って行けば、そこには血だらけになった近藤さんが横たわっていた。
「近藤さん!!こんな・・・どうしてっ!?」
「銃で撃たれたらしい!すぐに布団を敷いてくれ!良順先生は呼びに行かせたから、湯とサラシと酒だ!あるったけ持って来い!!」
「はい!!」

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