1/4ページ目 第八章〜胸を刺す欠片〜 〜君が絶望と言う 名の淵に立たされ そこで見た景色は どんなモノだったのだろう〜 静かな昼下がり。 人の姿も疎らな屯所の一室では、さらさらと筆を進める音が小さく響く。 痛む肩を庇いながらの作業は、遅々として進まず、焦る気持ちに書き損じを何度も繰り返す。 別段急ぎの仕事ではない。 が、彼には急ぐべく理由があった。既に何度目かの書き損じを屑入れに放り込み、溜息を吐いた彼の耳に軽快な足音が聞こえてくる。 その音が近付くにつれ、彼は筆を置き、ああ・・・と更に深く嘆息するのだ。 「山崎さん、お加減いかがですか?」 足音の主が襖の外から声を掛けてくる。 断り無く入室しても構わないと、何度言っても律儀に声を掛けてから入室する声の主は、 今日もきっちり彼の返事を待って襖を開ける事はない。 「ああ・・・大分いい。入って構わないぞ。」 「はい、失礼します。」 折り目正しく襖を開けて入室し、室内を見回した途端、その人物、雪村千鶴の顔は激しく顰められる。 「・・・山崎さん?」 「何だ。」 「また、お仕事なさってたんですね?」 「仕事と言えるようなモノではない。島田君の報告書を清書しようとしただけだ。」 「そ・れ・を!お仕事って言うんですよ?」 にっこり微笑む千鶴だが、その目は決して笑ってはいない。 まるでイタズラを見咎められた子供のように、山崎もバツが悪そうに俯く。 あの風間の襲撃から数日、油小路の戦いで全滅した御陵衛士.。 比べて瀕死の重体で運び込まれ、変若水を飲む事となってしまった藤堂以外、新選組の被害は数人の怪我人を出したに留めた。 変若水を飲んだ藤堂は羅刹化に伴い昼間の活動は億劫になっているようだったが、その人となりは以前と何ら変わる事なく、周囲を安心させていた。 そして屯所を突然襲った風間と戦い、重傷を負った山崎もまた二晩程生死の境を彷徨ったが、今では怪我による発熱も治まり起き上がる程には回復していた。 とは言っても、重傷である事には変わりなく、彼の治療に際して松本良順が千鶴に厳命した事柄がいくつかある。 『意識が戻っても最低1週間は起き上がらない事』 『傷が塞がるには2週間以上掛るので、その間安静にしている事』 『傷が塞がっても1ヶ月は戦い等に身を投じず、事務仕事のみに徹する事』 などなど・・・。その他生活面や、栄養面なども多々言いつけられていたのだが、山崎は意識が戻るや否や、この言いつけを守る事なく仕事に手を付け、千鶴に見つかっては小言を言われていた。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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