新選組監察方観察日誌シリーズ

番外編A〜標的:原田 左之助〜
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俺の名前は山崎 烝。
新選組諸士調役監察方だ。
副長である土方さんの元、敵方の監察・諜報活動だけでなく隊内の規律を質すべく、内偵等も行っている。
そして、最も大切な任務は雪村千鶴君の護衛だ。
常々、主に幹部による千鶴君への過剰接近は危惧すべき事態であり、俺は毎日幹部達の撃退に頭を痛めている処だ。
しかし、俺一人に対し数人の幹部から千鶴君を護るにも限界がある。
そこで俺は一人一人に標的を定め的を絞る事にした。

まず最初の標的。
永倉組長と藤堂組長は先日再起不能とする事に成功したので、今回は十番組組長、原田さんに標的を定めようと思う。
切れ長な瞳(ただ目付きが悪いとも言う)
すらりとした上背(胴体が長いだけだろう)
穏やかな笑顔で(下心丸見えだ)日々女性を篭絡している。
俺が護るべき千鶴君も、いつその毒牙に掛かるかと思えば気が気ではない。
そうなる前に、千鶴君の中にある『大人で二枚目な』原田左乃助像を壊してしまわなくては!!

「千鶴、今日は俺んとこと巡察出ねぇか?」
「そうですね、永倉さんとも平助君とも当分行く予定ないですし、原田さんの十番隊にご一緒させてもらおうかな?」
何て危険な!巡察等に同行してしまっては屯所内、特に副長や平隊士の目がないのをいい事に、原田さんのやりたい放題ではないか!
(早急に計画を実行しなくては・・・!!)
「原田さん、今日の巡察には千鶴君も同行するとか?」
「お?・・・山崎君か。そうなんだ。いつも平助と一緒だったからな。久しぶりだから楽しみだぜ。」
表情はいつもと同じ涼やかだが、俺の目は誤魔化せはしない。
監視が弱まる巡察先で一体何をするつもりなのか・・・。
「そう言えば、最近原田さん目当てのご婦人方の見物が減りましたね。」
「まぁな。俺もそう何時までもフラフラしてらんねぇだろ?新入隊士の手前もあるし。
ちっと此処には来ないように皆に頼んだんだ。」
「なるほど・・・。さすがです。
幹部ともなれば他の隊士への見本となるべきですからね。」
「おいおい・・・どうしたってんだ?山崎君が俺を褒めるなんて珍しいじゃねぇか。雨でも降りそうだな。」
「そうでしょうか?普段口にはしませんが、皆さんのご苦労は十分理解しているつもりです。
だから癒しを求めて千鶴君に接触する事も存じています。」
俺が視線を合わせないまま滅多に口にしない褒め言葉。
それだけでなく、最早俺の前では禁句にすらなっている千鶴君の話題に、原田さんの顔が強張る。
「いや・・・まぁ・・・心配しなくても巡察中に千鶴にちょっかい出したりしねぇって・・・!」
俺を安心させる為か、引き攣らせた口元から出る言葉程信用出来ないモノはない!
「信用しています。では、俺はこれで。」
一礼して次の目的の人物の元へ向かう俺の背に、原田さんの訝しげな視線が刺さるが今はそんな事は知った事ではない。
(急がなければ・・・)
俺は屯所を出ると近くの神社で遊ぶ子供達の群れに視線を巡らせる。
肝心な人物がいなくては今日の計画は全て無駄になってしまう。
と、そこへ俺の探す人物が歩いてくるのが目に入った。
今日の着物は薄い緑に深い山吹色の帯を締め、髪止めも気合が入っているように見える。
俺は意を決してその人物へと歩み寄った・・・。

「千鶴君、午後からは原田さんに同行するのか。」
「山崎さん!お疲れ様です!はい、やっぱり父様を探しに行くには巡察に付いて行くしかないですから・・・。」
「そうだな、早く父上が見つかるといい。
原田さんと言えば、最近浮き名を聞かなくなったような気がする。
やはり君の存在が組長である自覚を促す結果に繋がっているのだろうか?」
「そうでしょうか?私なんかがそんなお役に立てているなんて・・・本当なら嬉しいです。」
「安心しろ。君は十分皆の役に立っている。原田さんに何時頃出掛けるのか確認しなくていいのか?」
「あ、本当だ!今は鍛錬場かな?」
「いや、先程玄関の方へ向うのを見かけたが・・・。」
「そうですか、ちょっと探して来ますね?」
「ああ。いや、俺も行こう。」
あまり気は進まないが仕方無い。”あれ”を目撃した千鶴君の支えにならなくては・・・。

「あれ?原田さんいませんねぇ?」
「おかしいな、確かにこちらに向ったようだったが・・・ん?千鶴君、あそこに・・・。」
「あ、原田さん!はら・・・」
「待て!誰かと話しこんでいるようだ。もうしばらくしてからの方がよくないか?」
「ホントだ!わ〜邪魔しちゃうとこでした!」
「気付かないのも無理ない。相手が随分小柄な・・・と言うより、子供?小さな幼女のようだな。」
「わぁ可愛い子ですね。深緑の髪紐が凄く素敵です。10歳位でしょうか?」
「そうだな、きっと原田さん目当てのご婦人方と同じ目的なんだろう。あの笑顔を見れば判る。」
それ程離れている訳でもない距離。しかもこちらは風下とあって、二人の会話が洩れ聞こえてくる。

「違うって、そうじゃねぇって。浮気とかじゃねぇから。」
「じゃあどうして最近逢ってくれないの!?」
「だからな、新人隊士が増えたせいで忙しいんだって。」
「嘘!新しく副長の小姓になったって人とはよく巡察に行ってるらしいじゃない。」
「馬鹿、お前あれは俺じゃなくて平助だって。」
「・・・・。」
洩れ聞こえる会話の内容に、次第に千鶴君の顔が強張っていく。
それはそうだろう。
どう聞いても浮気を詰問される男のそれと、言い訳を許さず尚詰問する女の痴情の縺れとしか聞こえない。
しかも相手は10を過ぎるか過ぎないかの幼女・・・。
「や、山崎さん・・・。」
「何だ、千鶴君。」
「私の、耳がおかしいんでしょうか。どう聞いても、あの二人痴話喧嘩してるようにしか・・・。」
「いや・・・俺の耳にもそう聞こえる。しかし、あの原田さんが?幼女趣味とは・・・そんな筈・・・・。」
俺達二人がそんな会話を交わす中、幼女と原田さんの諍いは激しさを増していく。
「浮気じゃないって言うなら証拠見せて!」
「証拠ってお前なぁ?俺は別にお前と付き合ってるつもりもねぇし、お前だってそうだろ?」
「酷い!私の事は遊びだったの!?今日だって左之さんが呼んでくれたんじゃない!」
「はぁ?何言ってんだ、お前・・・。」
「私に可愛いって口付けてくれたのも冗談だったのね!?」
・・・決定打だな・・・。
俺の横で千鶴君の目が据わっていく。
隣にいる事すら辛い絶対零度の冷気が辺りに渦巻いていく。
こうなるだろうとは思っていたが・・・ここまで怒りに火が点くとは・・・。
「ひ・・酷い・・・原田さん・・・。あんな小さな子に・・・。」
「いや・・・千鶴君、少し落ち着いた方がいい。まだそうと決まった訳では・・・。」
「ほぼ決定じゃないですか!!原田さん!!!!」
俺が止める間もなく千鶴君は口論を続ける二人の前に姿を現した。
「・・・千鶴?お前何でここに・・・?」
「この人ね!?最近左之さんが想いを寄せてる人は!」
「馬鹿、お前違うって!」
「原田さん!違うって何がですか!言い訳ばかりしてないで、正直に話したらどうですか!?」
千鶴君は幼女に話せと言ったつもりなのだろうが、廻りからすれば自分との関係を正直に話せと言っているようにも聞こえる。
案の定幼女の顔色が変わった。
「・・・よく判ったわ・・・そう、そうなのね?」
「いや、判ったって何が・・・。ってか千鶴も落ち着け。」
「私は落ち着いてます!」
「私だって落ち着いてるわ、左之さん!!」
「は?へ?」
「・・・・・!!!!」
呆然とする千鶴君と冷静に事の成り行きを見届ける俺の前で、それは行われた。
幼女はキっと千鶴君を睨み付けると、グリンと原田さんに向き合い口付けしたのだ。
かなり無理矢理強引に・・・。
「・・・・・・!!???!!??」
口付けされた原田さんは目を白黒させ、千鶴君はと言えば・・・・。
「は・・・・。」
「は?」
「原田さんの・・・。」
「千鶴君・・・?」
「原田さんの・・・・・・馬鹿〜〜〜〜!!!!!」
幼女を無理矢理引っぺがしてこちらに向き直った原田さんに痛恨の右拳を見舞うと、
鼻血を噴いて倒れる原田さんと幼女を残して走り去って行った・・・。
「原田さん・・・。」
「山崎君!誤解だ!事故だ!これはただの手違いだ!!」
「まさか貴方が幼女趣味とは知りませんでした。末永くお幸せに・・・。君も・・・。」
「あら、ありがとう!」
「誤解なんだって!!ちょっと待て〜〜〜〜!!」
にっこり微笑む幼女は意味深な笑みを俺に向け、しっかり原田さんの首に抱きついたまま手を振る。
俺はと言えば断末魔の声を上げる原田さんは無視し走り去った千鶴君の後を追った。
その姿を見つけると、未だ怒り冷め遣らない千鶴君は肩で大きく息を繰り返している最中だった。
俺はそんな彼女を落ち着かせようとゆっくり背を撫でて声を掛けた。
「大丈夫か、千鶴君。」
「・・・すみません、山崎さん。私・・・私信じられなくて・・・。」
「俺も信じられない。まさか原田さんがあんな・・・。」
「永倉さんと平助君が・・・あんな事になって、今度は原田さんまで、なんて・・・。」
「本当に・・・。しかし君の方が心配だ。」
「優しいですね、山崎さん・・・。大丈夫です、私。でも、少し傍に居て下さいますか?」
「勿論だ。君が落ち着くまでここにいるから安心していい。」
「ありがとうございます。
・・・でも、私益々幹部さん方を信じられなくなりそうです・・・。」
「そうだな・・・・。
あ!いや・・・その・・・・。沖田さん等は大丈夫だろう!?
あの人はどう見ても幼女趣味にも衆道にも見えない!・・・と思う・・・。」
俺の演技もなかなか捨てたモノではないかもしれない。しどろもどろな俺に、やっと千鶴君の笑みが零れた。
「そうですね・・・3人だけですもんね。それで他の方も、なんて決め付けちゃ失礼ですよね。」
「その通りだ。もう少し、広い目で皆さんを見てみよう。」
「はい、そうします。本当にありがとうございます、山崎さん。」
「いや、君が落ち着けたなら構わない。」
「もう大丈夫です!屯所に戻りましょう?」
「そうしよう。少し風が強くなってきた。寒くは無いか?」
「大丈夫です!でも、山崎さんは寒いですか?」
「・・・寒くはないが・・・・。」
「あ!凄く手が冷えてますよ!」
「君の手も随分冷たいな。」
「でもこうしてればすぐ暖かくなりますよね。」
「そうだな・・・。」
原田さんには申し訳なかったが、強敵を更に一人撃退し機嫌のいい俺は、すっかり笑顔になった千鶴君と手を繋いで屯所まで歩いた。
次は誰にするか考えながら、再び千鶴君を独り占め出来る幸せを今は噛み締めていた。




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