新選組監察方観察日誌シリーズ

番外編@〜標的:永倉新八〜
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俺の名前は山崎 烝
新選組諸士調役監察方だ
副長である土方さんの元、敵方の監察・諜報活動だけでなく隊内の規律を質すべく、内偵等も行っている。
そして、最も大切な任務に雪村千鶴君の護衛が入っている。
常々、主に幹部による千鶴君への過剰接近は危惧すべき事態で、俺は毎日幹部達の撃退に頭を痛めている処だ。
しかし、俺一人に対し数人の幹部から千鶴君を護るにも限界がある。
そこで俺は一人一人に標的を定める事とした。

まず最初の標的。
それは、常に所構わずベタベタと無神経に千鶴君に接触する永倉組長であろう。
この接触を撃退する為日々奮闘しているが、それにも限界がある。
ここはやはり、千鶴君から永倉組長を避けざるを得ない状況を作り出すべきだろう。

「永倉組長、今日はどちらに?」
「お?今日は昼は巡察だ。夜は空いてっからなぁ。屯所で酒盛りでもすっか?」
「そうですね・・・。今夜は俺も参加させて頂きます。」
酒盛りが始まった夜半。
「千鶴君。」
「山崎さん、どうされたんですか?」
「幹部連中が酒盛りを始めてしまって、皆が君を呼んでるんだが・・・。」
「え・・・また、ですか・・・。」
「すまない・・・俺では断り切れずに。」
「山崎さんのせいじゃないですよ、判りました。行きますね。」
「ああ、俺もすぐ行く。」
すまない!!千鶴君!全ては君を護る為だ・・・!
「千鶴〜〜!!こっち来〜い!酌しろ、酌〜〜。」
既に出来上がっている永倉組長は酔いに任せて千鶴君にべったり、手酌を受けて鼻の下は伸び放題・・・。
俺は沸々と湧き上がる殺意を抑え、何食わぬ顔で藤堂組長の横に座る。
「珍しいな〜山崎君が新八さんの事放っとくなんてさ。」
「いえ・・・たまには永倉組長にも心の潤いが必要かと思いまして・・・。」
「い〜事言うじゃねぇか、山崎君!そうだよなぁ?毎日殺伐とした巡察に隊務によ〜。
息抜きも必要だって!」
「新八は毎日息抜きしてんじゃねぇか。」
「うるせぇ!左乃!千鶴〜〜こっち来い〜。」
「はいはい、何ですか、永倉さん。」
「酌して〜ん。」
「さっきからずっとしてるじゃないですか?」
「もっともっと〜。」
永倉組長はほぼ泥酔状態で千鶴君にしな垂れ掛かっている・・・。
堪えろ!堪えるんだ、俺!!そして皆が盛り上がっている隙に永倉組長のお猪口にある液体を混ぜ込んだ。
何も知らず飲み干す永倉組長・・・。
「さて、と。私はお先に失礼しますね?」
「ああ、疲れただろう?ゆっくり休むといい。」
「そうします!おやすみなさい、皆さん。」
にっこり笑って部屋に戻る千鶴君を、皆が名残惜しそうに見送っている。
「千鶴が〜〜行っちまった〜〜!」
「まぁまぁ新八さん呑もう呑もう!」
「千鶴〜〜〜!!」
「おや?藤堂さん裾が解れてますよ?着替えたらいかがですか?こちらにちょうど着物がありますし!」
「ん〜?ホントだ、ありがとな山崎君!」
「いえいえ、どうぞお気になさらず・・・。」
すみません、藤堂組長。今回は貴方も犠牲になっていただきます!
「んじゃ、俺らも寝るか〜?」
「そうしますか、この二人はどうします?」
「ほっときゃいいだろ、勝手に寝るんじゃね?」
「では、このままで・・・。」
そうして、永倉・藤堂両組長は広間に放置された・・・。
深夜、俺は千鶴君の部屋へと訪れた。
「千鶴君、何か広間でおかしな気配がするんだが。」
「え!?侵入者ですか?」
「かもしれない、君は危険だから部屋から出ないように。」
「いいえ!私も一緒に見に行きます!足手まといかもしれませんが、一緒に行きます。」
「そうか・・・判った。くれぐれも気を付けて。」
「はい!!」
すまない、千鶴君・・・。君はこれから世にも恐ろしいものを目撃するだろうが・・・君を護る為なんだ!!
「山崎さん、ホントですね、人の気配がします・・・。」
「慎重に行こう。しかし・・・どこかで聞いた事のある声だ・・・。」
「あれ・・・。ホントだ・・・。この声は、平助君?と・・・永倉さん?」
恐る恐る広間に近付く俺と千鶴君。
「・・・あ・・・新八さっ・・・!やめ・・・・」
「止めてじゃねぇだろ?いい加減諦めろって。」
「・・・だ!新八さん!」
「強情だな?千鶴。そろそろ素直になれって。」
「・・・だかっ!おれ、千鶴じゃねぇ・・・・し!」
「・・・・永倉・・・・さん・・・?」
中から漏れ聞こえる声に千鶴君の顔が強張る。俺も・・・正直想像出来てはいるが見たくはない・・・。
「やだ!!新八さん!!!」
切羽詰まった藤堂さんの叫び声に、千鶴君が襖を勢いよく開ける。
景気のいい音を立てた襖は、パシ〜ンッと柱に当たって跳ね返る。しかしその跳ね返った襖を避けるでなく、固まる千鶴君。
・・・すまない、千鶴君。
にやにや下品な笑いを浮かべる永倉組長に組み敷かれる藤堂組長。
藤堂さんの着衣はほぼ肌蹴られ、胸元には既にいくつかの赤い印。しかも永倉組長の片手はその下半身を弄っている真っ最中。
まさに濃厚な口付けを落としていた永倉組長はこちらを見て一瞬固まる。
「・・・れ???千鶴??」
「う・・・・ぎゃ〜〜〜!!!千鶴!!見んな見んな見んな〜〜〜〜!!!」
慌てて着物を調えるが、上だけ着ても下半身は丸見えです、藤堂組長・・・。
「永倉・・・さん・・・?」
「な〜んで、千鶴がもう一人居るんだぁ?こっちにもいるのに〜??」
そう言いながら再び藤堂組長に手を伸ばす永倉組長。
「うわ!新八さん!やだって言ってん・・・!!ってか触んなぁ!!」
目の前に本物がいるにも関わらず藤堂組長に手を伸ばす永倉組長。自分で盛った幻覚剤・催淫剤の効果とは言え・・・根が単純だとこうも効く物なのか?
恐らく藤堂組長に渡した布に焚き染めた千鶴君の香の匂いに引き寄せられているんだろうが・・・。
固まったままの千鶴君の前で繰り広げられる痴態に、俺は少々不安になって彼女の顔を盗み見た。
・・・・見るんじゃなかった。
千鶴君は俺が見た事もない憤怒の形相で二人を睨みつけている。そしてそのまま中に足を踏み入れ、散らかったままの酒樽をおもむろに持ち上げた。
まさかと思う俺の前で彼女は無言のまま(かなりデカイ)酒樽を思いっきり二人に向かって投げつけたのだ。
「ぎゃぁ!?」
「な、なんだぁ!!??」
「・・・最っ低・・・。」
能面のように無表情な顔で感情の篭らない冷たい声音で告げられた一言に、素面の藤堂組長はまさに瞬殺!
「お・・・・俺もかよ〜〜〜〜!!!??って言うか、山崎君御願い助けて!!!」
「ご愁傷様です・・・・。」
としか言えない俺は、悲鳴を上げ続ける藤堂組長を置き去りにその場を後にした。

翌日の朝。
「どうした、平助?何か変だぞ、お前?」
「べ、別にどこも変じゃねぇよ?あ、千鶴!」
原田組長の突っ込みに明らかに動揺しながら、通り掛かった千鶴君に話掛ける藤堂組長だったが、次の瞬間辺り一面に吹雪が巻き起こった。
「・・・何か、用?」
痛い痛い痛い。見てる俺まで痛い視線が突き刺さる。直撃を受けた本人は極寒の中凍死する事だろう。
驚く原田組長とは和やかに話ながら朝餉の席に向かう千鶴君。
藤堂組長であれなのだから、永倉組長に至っては・・・。
「お?千鶴?俺昨夜の事全っ然覚えてねぇんだけど、確かお前と・・・その一緒に居た・・・よな?」
「あら。永倉組長。私と?ご一緒?いいえ〜〜〜昨夜は私は永倉組長にはお会いしてませんよ。
そして未来永劫お会いする事もないといいですねぇ?」
にこにこにこにこ。ひたすら笑顔だ。しかし・・・残念ながら目は笑っていない。
「ち・・・千鶴・・・・?俺、何かしたか?さっき平助のヤツも俺の事避けやがって・・・。ってのわっ!?」
「あら、失礼。手が滑りました。ほほほ。」
ほほほって、わざとらしい乾いた笑い声が怖い。何時の間に手が滑って飛んで言ったのか・・・。
俺の苦無を回収しながら、もう少し右なら命中だったなと思わず舌打ちしそうになってしまった。
「ちちちち千鶴さん・・・・?っだぁぁ〜〜!!!!」
「嫌だ〜私ちょっと寝惚けてるのかもしれません。ふふふ。」
次は手裏剣か・・・。なかなか手癖が悪いな千鶴君。しかし狙いはなかなか定まらないんだな。もう少しで急所にドンだたのにな。
今度は手解きする事にしよう。
「あのぉ・・・・千鶴・・・さん??」
「まだ、何か?」
いい加減手元のエモノがネタ切れになったのか、恐る恐る話し掛ける永倉組長に再び千鶴君の視線が突き刺さり、案の定永倉組長は固まった。
その耳元に、俺は昨夜見た事を詳細に事細かにぼそぼそ語って差し上げた。
「な・・・・何っだ!そりゃ!?俺は男色家じゃねぇぞ!?」
「いえ、問題はそこでなく、千鶴君が昨夜の情事を目撃した事にあるのでは・・・・。当分近寄らない方が懸命かと。
さすがに俺も永倉組長と藤堂組長の護衛をしている程暇じゃないので・・・。」
俺の言葉にとんでもないと目を剥き掛けた永倉組長だったが、千鶴君から発せられる殺気に渋々頷いた。
「判った・・・。」
「その内千鶴君の誤解も解けますよ。俺も説得してみますし。」
「あ、ありがとう・・・山崎君!俺は今までお前の事誤解してた!!目付き悪くて何考えてるか判んない無愛想なむっつり助平とか思っててごめんな!!」
「いえ・・・気にしないで下さい(って言うか、あんたそんな風に思ってたんかい!)」
しくしく肩を落とす永倉組長を一通り慰めた俺は、千鶴君の元へと足を向けた。
「千鶴君、大丈夫か?」
「あ、山崎さん・・・。すみません、私ったら。つい・・・手がわきわきしてしまって・・・。」
「(わきわき??)いや・・・・気持ちは判らないでもない。あんな場面を見てしまっては・・・。」
「私男性不信になりそうです。」
「世の男が全てああだと思ってはいけない。中には原田組長のようにしっかりした方もいらっしゃる。」
「そうですよね・・・。山崎さんだって、全然違いますもんね。」
「俺の事はいい。だが早くあの二人を理解してあげてくれ。無理かもしれないが・・・。」
「絶っ対!無理!です。」
「そ・・・そうか・・・・。」
「はい!でも・・・すみません、山崎さんにご心配とご迷惑おかけしてしまって・・・。」
「いや、気にしないでいい。迷惑だなどと思っていないから、これからも何かあったら頼ってくれると嬉しい。」
「山崎さん・・・ありがとうございます。じゃあ、これからもよろしく御願いしますね?」
「勿論だ。」
俺は、屍と化す二人の組長を目の端に捕らえながら、自分でも有り得ない程爽やかに笑って見せた。
それを見て千鶴君がわずかに頬を染めたのも、屍二人が更に追い討ちを掛けられたように沈み込んだのも、きっと気のせいではないだろう。
とにかく目障りな二人はまず片付いた。
次なる標的は・・・誰にするか模索中である。
今はただ千鶴君を独占出来る幸せを噛み締めるとしよう。

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