新選組監察方観察日誌シリーズ

D〜皆で雪合戦〜
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俺の名前は山崎烝
新選組諸士調役兼監察方だ。
最近外部での諜報活動に忙しく、内偵を行う事が出来ないでいたが、雪村君の身は無事だろうか?
久しぶりに組内の調査を行おうと思う。

今朝は今年の初雪が膝上まで積もった事もあり、隊士総出での雪掻き作業中の筈だ。
その筈なのだが・・・・。
「行っくぞ〜〜!」
「きゃ〜〜待って待って平助君!!」
何やら中庭では千鶴君の嬌声が聞こえる。
慌てて駆けつければ、何故か雪合戦が勃発していた・・・。
呆然とその光景に見入る俺に、沖田さんが教えてくれた。
「もうお子様達がはしゃいじゃって、大変。雪合戦で、負けたら相手の言う事聞くんだってさ。」
何だと!?
負けた方が相手の言う事を聞く!?
なるほど、いつもはお子様のお遊びだと参加しない原田さんと永倉さんが参加してるのはその為か!
あわよくば千鶴君を負かせて思い通りにしようと言う魂胆か!
「・・・それで、何故沖田さんはここに?見れば千鶴君側は斉藤さんしか居ないようですが。」
「うん、僕も最初入ってたんだけど、寒いし冷たい、抜けちゃった。」
にこにこ笑う沖田さんに、薄っすら殺意すら覚える。
「・・・判りました。では、千鶴君側は一人足りないようなので、俺が入ります。」
「山崎君が?へぇ〜珍しいねぇ。」
「勝負は公平な方がいいでしょう。」
「まぁね、僕は検分役になろうかな。頑張ってね。」
あくまで人事だ。やはりこの人とは反りが合わない。
「千鶴君、手を貸そう。」
すっと傍に忍びより、陣に加わる旨を伝えると、千鶴君は明るく顔を輝かせる。
「本当ですか!?わ〜心強いですね!斉藤さん!」
「そうだな・・・山崎君、頼む。」
「任せて下さい、斉藤さん。」
キラッとお互い視線を交差させ、意志の疎通を図る。
よし、やはり斉藤さんはヤツらから千鶴君を守る側のようだ。
まずは強敵、原田組長から殺る!・・・もとい、倒す。
「お、珍しく山崎君も参戦かぁ?臨むとこだ、おらよ!」
さすが腐っても新選組幹部。なかなかいい玉筋だ。しかし俺も監察方を名乗る以上、幹部相手でも負けていられない。
投げ付けられた雪玉を難なく避けると、俺は斉藤さんに目配せし、斉藤さんも微かに頷いて同意を得る。
「何だ何だ〜?防戦一方かぁ!?」
「そんな訳はないでしょう。」
「何っ!?」
斉藤さんにわざと苦戦しているよう演技してもらい、俺は原田さんの背後へと回り込むと、すっと両手を構えた。
「原田さん・・・覚悟・・・。」
その手付きに、俺が何をしようとしているか察した原田さんは、身を捩って逃げようとするが、俺の方が早かった。
がしっと脇腹を掴み、おもむろに擽り出す。
「・・・だ・・・・だ〜〜〜〜っはっはっはっはっは!!やめっ!止めろ!止めろ山崎君!!
わは!わははは!わはははっ!!や〜〜〜、止〜め〜て〜〜〜〜〜〜!!!」
ふっ・・・さしもの原田さんも弱点の一つである脇を攻められては、遇の根もないだろう。
これで一人は片付いた。
何食わぬ顔で千鶴君の元へ戻ると、かなり驚いているようだ。
「・・・原田さんって・・・・あんな人だったんだ・・・。」
よしっ!これで今まで二枚目で通していた原田の偶像も崩れた事間違い無しだ!
俺は千鶴君の死角で、斉藤さんと親指を付き合わせ作戦成功を分かち合った。
次の標的はお子様な態度で千鶴君の母性本能を操り翻弄する、藤堂さんだ。
「おらおらおらおら〜〜〜!!」
さすがお子様は雪の冷たさも感じないらしい。連続で雪玉を投げてくる。
「わわわ、平助君、ずるいよ!」
しかも千鶴君に集中攻撃だ。許すまじ、藤堂。
俺は千鶴君の傍に行くと、彼女を守る形で次々に雪玉を粉砕して行く。そうしてその間に斉藤さんが背後に回り込み・・・。
「平助。」
「え!?」
驚いて振り向いた所へ顔面で雪玉を押し潰す。
「ぷぎゃっ!!?」
ガンッと・・・痛そうな音も聞こえた気がするが気にしてはいけない。
「へ、平助君、痛そうですね?」
「大丈夫だ、千鶴。子供は風の子。この位の雪でどうにかなる訳もない。」
何故か白い雪を赤く染め、地面に倒れ付す藤堂さんを、さり気無く千鶴君の視線から隠す身のこなしはさすがです!斉藤さん!
「くっそ〜〜!左乃も平助もだらしねぇ!こうなりゃ俺一人でおめぇらまとめて倒してやるぜ!」
「臨む所です。その挑戦、受けて立ちます。」
お互い闘志を燃やし、積もった雪も溶かす勢いだ。
立ち上る蒸気に千鶴君は、雪が溶けちゃう!と青くなっているが、そんな所もまたかわ・・・。
オホンッ。そんな事より目の前の永倉さんに集中しなくては。
先ほどからお互い雪玉を投げ合っているが、なかなか勝負は付かない。
このままでは埒が明かないので、決死の覚悟で前に出る。
「永倉さん!勝負です!!」
「おうっ!」
「せぃっ!!」
「どりゃあ!!」
お互いに最高の決め玉を力の限り投げ付けた!永倉さんの投げた玉は、微かに俺の耳を掠ったが、そのまま後ろへと反れて行った。
しかし、俺の投げた玉は永倉さんの眉間に命中!ヤツはもんどり打って倒れる。
「や・・・山崎・・・いい玉だったぜ・・・この勝負・・・お前の・・・がふっ!?」
何やら迷い言を呟いているが、とりあえず五月蝿いので後頭部を地面に踏み潰しておく。
「おめでとう、千鶴君。君の勝ちだ。」
「そうだな、この勝負は君の勝利だ。」
「え?え?そんな・・・・私が勝ちでいいんですか?」
「「もちろんだ。」」
照れて赤く俯く姿も、愛らしいが、彼女の勝った際のお願いは一体なんだったんだろう?
斉藤さんも同じく気になるようで、俺が彼女に質問すると、じっと聞き耳を立てて返事を待っている。
「あの・・・・それじゃぁ・・・」

数十分後・・・・
「本当にこんな事でよかったのか・・・。」
「はい、一度やってみたかったんです。何だかワクワクしませんか?」
「確かに・・・普段とは違った趣きがあるが・・・。」
斉藤さんが聞き返せば、満面の笑みで彼女は頷いた。その顔を見るに、本当に楽しみだったのだろう。
新選組の中庭には、大きな雪山。
その中に、俺と斉藤さん、そして本日の勝利者の千鶴君。
要するに、彼女はカマクラの中で火鉢を囲んで団欒をやってみたかったらしい。
「江戸にはこんなに雪は降りませんし、降ったとしても父様と二人ではとてもじゃないけど、作れないですから。」
だから夢が叶って嬉しいです。
はにかみながら笑う彼女は、本当に幸せそうで、斉藤さんと二人雪まみれになって作った甲斐もあると言うモノだ。
「焼き餅美味しいですね。」
「そうだな・・・。」
「山崎さん、お茶の御代わりは?」
「あぁ、頂こう。」
湯のみを差し出せば、彼女が暖かいお茶を注いでくれる。
今日はいつもと違い、斉藤さんも一緒だが、それでも俺も、とても幸せで心地よい温もりに身を委ねていた。



*********
「・・・・・。」
自室から中庭を見る土方は、ただ無言で肩を竦める。
「あいつらは・・・。」
渋面を作る土方だったが、かまくらの中で幸せそうに笑う千鶴と、
珍しく笑みを浮かべる山崎・斉藤両名を見ると、仕方ねぇかと自分も笑うしかなかった。
「それより、問題はあいつらか・・・。」
未だ雪景色に溶け込むように埋没する平助・新八・左乃助。
新選組組長としては情けない事この上ない姿に溜息すら洩れない。
この三人が、明日以降しばらくは凍傷で使い物にならない事も考えると、少々ではなくかなり頭の痛い土方であった。

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