短編集

相合傘〜背中〜
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雨の降り続く毎日は、おれ自身の任務には支障がない。
逆に煙る雨と暗い空は、監察と言う仕事にとって都合いい事この上無い。
だが、そうでない者にとっては厄介でしかなく、今俺の目の前にもその雨のせいで途方に暮れる人物が一人。
「何を、している・・・。」
最早呆れを通り越して気の毒になった俺は思わず声を掛けた(任務中だと言うのに)
「山崎さん・・・。」
その人物は、降りしきる雨を避けるように軒下に座り込み、半べそを掻いて俺を見上げた。
手には、数本の蛇腹と鼻緒の切れた草履。
足袋は真っ黒に汚れて、手の平にも幾分泥が着いていた。
お使いの最中に、鼻緒が切れて転びでもしたか。
「すみません、これ、先に屯所に持って帰っていただけませんか?皆さん待たれてるでしょうし。」
「君はどうする?」
「私は止むのを待ちます。」
その鼻緒の切れた草履はどうする?
雨は全く止みそうもないんだが?
泣きそうな顔は、行かないで欲しいと言っているのに?
数々の言いたい事はあったが、とりあえず俺は溜息だけを零し、彼女の前にしゃがみ込んだ。
「乗れ。」
「え・・・え!?だ、駄目です駄目です駄目です!」
「何だ、君位なら負ぶえるぞ?もしかして着やせしているだけで実はかなり重いのだとしても大丈夫だ。」
「そう言う訳じゃありません!!手、汚れてるし足袋だって真っ黒だし・・・。荷物だって・・・。」
「汚れても洗えばいい。荷物は君が持てばいい。先に言うと俺の任務は君を屯所まで送ってからでも支障は無い。」
恐らく言われるだろう事を、先回りしてやると微かに息を飲む気配。
暫く躊躇した彼女は、おずおずと俺の肩に手を掛けた。
「あの、それじゃ、お言葉に甘えます・・・。」
「存分に甘えてくれ。」
彼女の手に俺の持っていた荷物と彼女の荷物を持たせて、軽く首に腕を回させた。
細いとは思っていたが全く体重を感じない。
「軽いな。」
「どうせ、チビですから。」
「寒くはないか?」
「大丈夫です。山崎さんの背中、温かいですから。」
「そうか。」
それから、屯所までの長くもない道をゆっくり歩いた。
彼女は最初こそ遠慮がちだったが、それ程経たずに俺の背中に体重を預けてきた。
雨の続く毎日は、俺の任務には支障が無い。
だが、たまにこうした予測も付かない事態が起こったりもする。
しかし、それも俺は嫌いじゃない。
背中の温もりが、愛しく感じるから、嫌いじゃない。
「それはそうと、雪村君。」
「何ですか?」
「君は今、サラシを着用しているんだったな?」
「はい、そうですけど・・・?」
「なら、そのせいか。」
「何がですか?」
「いや・・・年頃の娘にしては、背中に当たる感覚があまりに・・・。」
瞬間、俺の後頭部に小さな拳が当たったのは、思わず口を付いて出た失言のせいだったと、反省すべきなんだろうな。





*****
千鶴ちゃんが甘食胸と聞いては放っておけんだろう!!
一度はネタにせんとな!=3
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