短編集

師の為にこそ弟子は走る〜H20年末〜
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新選組屯所内、最奥の部屋で静かに過ごす男の元に騒々しい音が訪れる。
パタパタ響く足音は既にお馴染み過ぎて、男は怒る気にもならない。
「失礼します、お茶をおもちしました。」
「・・・どうぞ。」
「はい!今日もお疲れ様でした、山崎さん!」
足音の持ち主は、夜も遅いと言うのに元気ににっこり笑いながらお茶を差し出した。
「毎回毎回言う事だが、もう少し静かに歩けないのか?」
「・・・す、すみません・・これでも一応・・・あれ?」
きゅっと肩を竦める千鶴が、山崎の手元に目を留めにじり寄って来る。
「これ、年賀状?こんなにあるんですか?」
「俺のではない。監察方の俺がそんな物を書く必要はないだろう。それは幹部方の代筆を頼まれたんだ。」
「え?こんなに・・・沢山?」
「ああ、毎年の事だ。慣れている・・・。」
「これ全部筆跡違いますね。凄い!それぞれ替えてるんですね!」
「当然だろう、それが代筆と言う・・・。」
「わ、土方さんに平助君、原田さんと永倉さんに、近藤さんのまである!」
「だから、幹部方と言っただろう。皆さんの・・・。」
「山崎さん!見て下さい、雪ですよ!雪!とうとう降り出しちゃいましたね〜。」
「千鶴君・・・。」
「はい?何かおっしゃいましたか?山崎さん。」
人の話を全く訊かずに話し続ける千鶴に、山崎は呆れ半分諦め半分で苦笑。
「君は、もう少し人の話を訊く努力をした方がいい。」
「あ・・・すみません・・・。」
「俺に謝る事はない。ただ、副長や山南さんと話す時は気をつけるべきだな。」
「そうですね、そうします。あ、山崎さん、年賀状お手伝いしましょうか。」
「・・・君が?」
「あ、その目は信用してませんね?これでもさっきまで沖田さんや原田さんのお手伝いをしてたんですよ?」
ぷんと頬を膨らませる千鶴の言葉に、山崎が顔を強張らせて近寄ってくる。
「沖田さんと、原田さんの?今まで?」
「はい。そうです。」
「それは、三人でと言う意味か、それとも二人きりでか?」
「え?それぞれのお部屋でですよ?」
「・・・何も無かったのか?」
「・・・・飴玉を頂きました・・・。」
「それだけか?」
「・・・・ちょっと・・・ありましたけど・・・でも、大した事だと思わないようにしてます!」
いちいち気にしてたらやってられません!
苦笑いする千鶴の頭を、山崎はぐりぐり撫でながら大きく嘆息を漏らす。
「俺が口出す事じゃないかもしれないが、忠告しておく。あのお二人とは二度と二人きりになるな。
特に私室に一人で訪ねるな。何故かは判るな?」
「・・・何となく。」
さり気無く視線を泳がせる千鶴に、一体何をされたか気になる山崎だったが、それこそ余計なお世話かもと思うと何も聞けなかった。
しかし湧き上がる苦い感情と対抗心には抗い難く、それを断ち切る為に泳がせた視線の中にある物が侵入してくる。
「・・・千鶴君。」
「はい?」
「お二人に頂いた飴玉とはこれの事か?」
山崎が示したそれはまさしく原田と沖田に食べさせられた飴玉と同じ物。何故それがここにもあるのかと一瞬千鶴は顔を顰めた。
「それ・・・です。その飴って今新選組で流行ってるんですか?」
「いや、局長が甘い物は疲れが取れるからと配って下さったんだ。」
「あ〜なるほど!だから!」
「・・・食うか?」
指に挟んだ飴をずいっと突き出されるが過去の経験か、食べ厭きたのか、千鶴は丁寧に辞退する。
山崎もそれ以上薦める事はせず、代わりに自分の口に放り込んだ。
少し大きめのそれを、もごもご舐める山崎は普段の彼とは違い、何だか可愛く見えた。
「何だか飴を舐める山崎さんって不思議です。」
思わず、飴で膨らんだ頬をぷにっと指で突付いてしまってから、山崎の眉間に不機嫌そうな皺が出来ている事に気付いた千鶴だったが
時既に遅く、山崎の冷たい声が耳に届く。
「どうやら君は俺の事を馬鹿にしているようだな?
君がそういう態度であるなら俺にも考えがある。」
「え?いえ、別に馬鹿にしている訳では〜〜!」
山崎は慌てて否定する千鶴に詰め寄ると、無言でその膝に頭を乗せて寝転がった。
「・・・は・・・・山崎さん?」
「年賀状は君が手伝ってくれるんだろう?なら俺は遠慮無く休ませてもらう。残りは500程度だ。
期限は明後日だそうだから、頑張ってくれ。」
「え、ええ!?ちょっと山崎さん!?もしかして拗ねてます!?拗ねたんですか!?」
「・・・・。」
最早千鶴が何を言っても寝てしまった山崎は動かない。(ほぼ狸寝入りだろうが)
そのままの態勢でどうしようか思案する中、まだもごもご動いている山崎の口元を半ば自棄気味にちょんっと突付いた。
すると寝た振りをしたままの頬が薄っすら紅に染まり、千鶴の悪戯心が膨れ上がる。
(どこまでしたら、起きてくれるかな・・・。)
突付いて駄目なら撫でてみた。今度はぴくっと肩が動いた気がしたがまだ起きる気配はない。
「山崎さ〜ん??早く起きてくれないと、悪戯しちゃいますよ〜。」
耳元に囁きながら息を吹き掛けると、とうとうガバッと起き上がった山崎。
「君は・・・何を考えてるんだ、全く。」
照れているのか拗ねているのか、表情を隠すように額に手を当てる山崎に、千鶴は楽しそうに笑う。
「だって、山崎さん寝ちゃおうとするんですもん。」
「君が俺を馬鹿にするからだ。」
「してませんよ〜。」
「そうか?にしては、先ほどは随分楽しそうだったが?」
「いや〜だって・・・。」
「危うく悪戯される処だ。」
「そんなの冗談ですよ、本当にはしません!」
「そうなのか?・・・少し期待したのにな。」
山崎は口端を上げて笑うと今度は千鶴を自分の膝の上に転がせた。
一気に立場が反転して焦る千鶴に、楽しそうに指を鳴らす山崎。
「やられる前にやれ。それが新選組の鉄則だ。」
「そ、そんな鉄則聞いた事ありませんけど!?」
「だろうな、今作った。」
何、それ!?
目を剥く千鶴を見下ろして山崎は珍しい程機嫌よく顔を近付け極細声で囁く。
「俺をからかって遊ぼうとした君が悪い。監察方としての誇りに賭けて後悔させてやろう。」
「え・・・え〜〜〜〜〜!!」
残り500もある年賀状とその他の雑用。
積み重なった仕事のあまりの忙しさに壊れ気味だった山崎を、少しでもからかった罰にしては手痛いお仕置きを受けた千鶴でした。
因みに、年賀状が間に合ったかどうかは・・・副長のみぞ知る・・・。


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