短編集

雪色迷走〜紗那様より30000HITリク〜
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「うっわ〜〜!!」
寒さ厳しい冬の朝。目が覚めて外を見れば眩しい程の白さ。
一面銀色の世界が広がっていた。
「お〜。積もったな〜。」
「こりゃぁ、雪除けが面倒だな。」
「左乃さん年寄りくせぇよ!せっかく初雪なんだし!せっかくだから遊ぼうぜ?」
「・・・平助、今日は巡察当番だろう。」
「まぁ、でも、ここまで積もるとはしゃぎたくなるのも判るけどね。そこにも一人いるし。」
総司の言葉に皆が視線を向けた先には、雪よりキラキラと目を輝かせた千鶴。
「・・・千鶴君、江戸にも雪は降るだろう。それ程感動する景色でないように思うが。」
「山崎さん!し、心臓に悪いので足音を消して背後に立たないで下さい。」
「すまない、つい癖で。」
性質の悪い癖だなと苦笑しながら千鶴は再び雪景色へと目を向ける。
「江戸にも雪は降りましたけど、ここまで積もったのは見た事ないです。凄い綺麗!」
「雪遊びに興じるのなら、早くしなくては副長から雪除けの指示が入るぞ。」
「あ!本当ですね!じゃ、早速!」
ぽんっと手を打つと、すかさず地面へ降り雪を手に取る千鶴。
「冷たい!綺麗!」そればかりを連呼する姿に幹部の顔も綻んでいく。
「あ、なぁなぁ見て見て!じゃ〜ん。」
「わ〜〜可愛い!!」
平助がしゃがみ込んだかと思うと、すぐに立ち上がり、小さな雪ダルマを手に千鶴を招き寄せた。
それを見てきゃっきゃと喜ぶ千鶴に、幹部達の顔つきが変わっていく。
「千鶴、千鶴。こっち来てみ?」
「わ、凄いですね、永倉さん。大きな雪だるま!」
「新八さんも在り来たりだね?作るならここまでやらないと!」
「あ、沖田さんも何か・・・・!!??」
総司の声に何が出来上がったのかと振り向けば、そこに自分がいた。
正確には、千鶴を象った雪像があった。
「お・・・沖田さん、これ・・・。」
「どう?結構よく出来てるしょ?中身もちゃんとしてあるからね!」
「中身も?」
「下から覗いたら袴の中が・・・ごふっ!!」
「朝から下らない物を作らないで下さい。沖田さん。」
沖田に軽く(?)肘打ちを食らわせ、あまりに似すぎて不気味な雪像を、勿体ないとは思いつつ粉砕する山崎。
「何だか複雑な心境です・・・。」
自分の顔が壊される様は余り嬉しくない・・・。
「千鶴、こっち来てみろ。」
「原田さんは何を作ったんですか?」
何時の間にやら雪像合戦の様相を呈してきた事に、何の違和感も抱かず千鶴は原田へと近寄る。
「題名、冬眠。」
誇らしげに原田が掲げたのは雪像と言うより氷の塊。しかし何の形にもなっていないそれをじっと見れば・・・。
「・・・!!!!っんきゃ〜〜〜〜〜!!!!」
脱兎の如く逃げ出す千鶴。
「何だ、せっかく掘り当てたのに。」
それはまさに冬眠中の蛇が氷漬けにされていた。
「原田さん、一体どこで・・・?」
「池の近くの洞穴にいたぜ?まぁ昨夜穴に水流し入れたのは総司だけどな。」
ロクな事をしやがらない沖田に半ば殺気を覚えつつ、逃げ出した千鶴を探しに山崎が首を巡らすと、そこには有り得ない・・・。
まさに有り得ない程のデカさの雪だるま。
「どう〜だ〜!!これなら俺が一番だろうがっ!?」
「てか新八。デカけりゃいいってもんじゃねぇだろうが」
「う〜わ〜。デカ過ぎて不気味。」
「これならさっきの千鶴ちゃん像の方が良かったと思わない?山崎君。」
「・・・。」
もう突っ込む気も起きない山崎は永倉を放置したまま千鶴探しに向かう。
(そう言えば、斎藤さんは参加していなかったな)
どこにいるのだろうとふと気配を手繰れば雪面に倒れ付す斎藤と、呆然とそれを見詰める千鶴。
「斎藤さん!?千鶴君!一体どうしたんだ!?」
「それが・・・斎藤さんが、人から聞いたいい物を見せてやるからと、急に倒れ込まれて・・・。」
「急に!?それは、どこか・・・」
具合が悪いのかと心配する山崎を余所に、斎藤はむっくり起き上がると、自分の倒れていた辺りを指差しぽつりと呟いた。
「千鶴・・・これが雪の妖精だ・・・。」
確かに・・・白い雪にくっきり付いた凹みは、見ようと思えば妖精。しかし何故斎藤がそんな小技を!?
見れば斎藤は雪塗れの顔で少しばかり誇らしそうに笑っている。
絶句し固まりながらも、千鶴は引き攣った笑顔を向ける。
「か・・・可愛い・・・ですね。」
もうそれ位しか言い様がない・・・。さすがの山崎もこれには凍死するかと思った。
「山崎さん。私ね、ただ普通に雪遊びがしたかっただけなんですよね・・・。」
「そう・・・だろうな・・・。」
馬鹿デカい雪ダルマを誇らしげに見せつける永倉。
懲りもせず再び千鶴像を作り出す沖田(また粉砕せねば)
氷着けの蛇を観察する原田。
負けじと更にデカい雪ダルマを作り出す藤堂。
満足そうに妖精を見詰める斎藤。
「もう、雪除けの必要はないですね。」
「そうだな・・・ないな。」
遠い目ですっかり踏み荒らされ土色の覗く中庭を見詰める千鶴には、掛ける言葉も見付からない。
空を見ればまたぞろ降りそうな雲に覆われ太陽も隠れつつある。そして山崎の目に空に映える赤い色が映った。
「・・・。千鶴君。」
「はい?何ですか?山崎さん。」
「これを・・・。」
ちょこんと手の平に乗せられたのは、小さな小さな雪のうさぎ。
「わ・・・可愛い。これ、南天の実ですか?」
「ああ、ちょうど・・・合うかと思って。気に入ったか?」
「はい。とても、可愛いです。けど、勿体ないですね。こんなに可愛いのに、すぐに溶けちゃうなんて。」
「形在るものに価値がある訳ではない。溶けてしまうからこそ、その刹那に目を奪われ染み入るモノもあるのだろう。」
今の君の笑顔のように。
声にならない言葉は千鶴の耳に届く事はない。
遠くで藤堂や他の幹部の叫び声が聞こえる。
「山崎君おいしいとこ取り過ぎ!」
「雪うさぎなんて定番過ぎでしょ。」
「千鶴!男はやっぱりデカさで勝負だろ!?」
「蛇もいいと思ったんだがなぁ・・・。」
「妖精も愛らしいと思う・・・。」
「いいのか?皆さんの作品もなかなかだと思うが・・・。」
「山崎さん、本心から言ってます?」
「・・・また降りそうだな。」
明らかさまに話題転換した山崎に苦笑を漏らしつつ、千鶴は手の平の雪ウサギに口付けた。
「他の皆さんも一生懸命作って下さったけど、やっぱり私には山崎さんが一番ですよ。」
「・・・・俺の・・・雪うさぎがだろう。」
「そうですね、山崎さんの、雪ウサギがですね。」
くすくす笑いながらこちらを見る千鶴に、敵わないなと山崎も思わず笑みが零れる。
「そんなに気に入ったなら、また作ってやろう。雪が降るたびにな。」
「はい、御願いします。」
小さな雪ウサギを大切そうに撫でながら、千鶴は山崎に寄り添い、山崎もこっそりその手を握る。
いつか溶けてしまうモノであっても、胸に宿る想いだけは溶ける事はないから。
出来れば雪が降るたび共に眺める事が出来ればと、願う山崎の呟きは、他の幹部の嘆きに消されて音になる事はない。

『出来れば次の冬も、共に・・・・』
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