短編集

君を守る月〜25000HITハル様キリリク〜
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屯所内の銀杏や楓が紅に染まり、はらりはらりと落葉している秋。
空には白い雲が流れ、太陽は真上に輝いている。
その下では隊士と言うには些か小柄な、袴姿の雪村千鶴の姿があった。
竹箒を持っている所を見ると、どうやら中庭の落ち葉を集めている途中のようだ。
しかし彼女は箒を片手に空を見上げたまま微動だにしない。
どうしたのかと見ていると、空を見上げたまま後退りし始めた。
そして足元には木の根・・・。
思った通り、彼女の足は木の根に引っ掛かり、後ろに向かって倒れそうになる。
俺は既に彼女の後ろまで移動し、重力に任せて倒れる千鶴を抱き止めた。
「・・・きゃっ・・・え?」
地面に倒れると思ったにも関わらず倒れなかった事。
誰かが自分を抱き止めた事。
恐らくその両方に驚いたらしい彼女の目が見開かれる。
「君は・・・一体何をやっているんだ?」
「山崎さん・・・?」
「掃除をするのはいいが、何故その最中に空を見る必要がある。」
「あ〜・・・。もしかして、ずっと見てました?」
「ずっとではない。君が後退り始めた頃からだ。」
「あはは・・・えっとですねぇ。」
照れたように頭を掻きながら笑うと、「あれです。」と言って空を指差す。
俺も釣られて空を仰ぐが、雲が流れる青い空以外、何も見受けられない。
「空しか見えないが・・・?」
「はい、空です。その空に、あれ・・・白い、月・・・でしょうか?」
「ああ・・・。」
やっと彼女の言わんとする所が判った。
彼女は空に浮かぶ、真昼の白い月が気になったのだろう。
あれ、と指差しながら、また口を開けたまま呆けて見上げている。
「昼に浮かぶ月が珍しいのか?」
「はい・・・いえ・・・。」
「どっちだ。」
思わず嘆息した俺に、千鶴は少し頬を染めて笑い掛けてくる。
「あの・・・夜の太陽が月だと思っていたので、どうして太陽が二つ浮かんでるのか不思議なんです。」
「・・・夜空に浮かぶ月と昼の空に浮かぶ太陽は別の物だ。」
「そうなんですか?けど、それならどうして昼間に月が浮かんでるんでしょう?」
「当たり前だ。月は常に空に在る。昼間は太陽の光に遮られて見えないだけだ。」
「じゃあ、太陽は夜には空にいないんですか?」
「いない訳じゃない。隠れているだけだ。西洋の学者が解明したらしいが、俺達の立つこの大地は、実は丸いんだそうだ。
そうして常に回転しているんだと聞いた。」
「え!?だって・・・ずっと真っ直ぐですよ!?山とか坂道とかありますけど・・・。
丸かったら立てないじゃないですか!回転してるって・・・。立ってる地面が回ってたら、私真っ直ぐ立ってる自信ないです。」
「・・・今は真っ直ぐ立てていないのか?」
「いえ、今は立ってますけど・・・。」
「要するに、感覚的に認識出来ない程大きな丸で、ゆっくり回転していると言う事だ。それに・・・。」
俺は彼女の頭を撫でながら、少し意地悪い笑みを浮かべてみせる。
「君は大地が丸かろうが回転していようが、関係無く転ぶだろう?」
彼女は頬を一瞬で真っ赤に染めると、俺に対して突っかかるように手を振り上げてきた。
「ひ・・・酷いですよ!山崎さん!!私だってそんないつもいつも転んでる訳じゃ・・・!?」
「千鶴君!」
そう言う間に、地面の小石に足を取られて前に倒れそうになる千鶴。
俺は寸での所でそんな彼女を再び抱き止め、溜息を吐く。
「いつもいつも、転んでる訳じゃ・・・?その後は、何と続く筈だったんだ?」
「・・・・転んでる訳じゃ、ない・・・ですよ?」
「この様でか・・・。」
俺は、厭きれ果てたように、抱き止めた彼女の顔を覗き込んだ。
悔しそうに口を歪めた千鶴は、真っ赤に染めた頬と、潤んだ瞳で下から俺を睨み付けている。
しかしその仕草は愛らしいだけで少しの威嚇にもなっていない。
そんな彼女を見ていると俺は口元に浮かぶ笑みを抑えられず、思わず苦笑を洩らしてしまう。
「や・・・山崎さん!笑うなんて、酷いです!」
「いや・・・すまない・・・。笑うつもりは・・・ないんだが・・・。」
「そう言いながら、思いっきり笑ってますけど・・・。」
なおも睨み続ける彼女に、俺は咳払いを一つして笑いを堪える。
「気にする事はないんじゃないか?」
「何をですか?」
「君がよく転ぶのも注意力散漫なのも、俺は既によく知っている。その俺の前でまで、気を張る必要はないだろう。」
「でも、また転ぶと、山崎さんはまた笑うでしょう?これ以上呆れらるの、嫌ですよ。」
俺の腕の中で、拗ねたように口を尖らす千鶴の頬に手を添えて上向かせると、俺は子供をあやす様に頭を撫でてやる。
しかし千鶴はそれが子供扱いされているとお気に召さなかったらしい。益々頬を膨らませて拗ねてしまった。
「また!そうやって、子供扱いばかり!!」
「仕方無いだろう。すぐ拗ねる様は子供以外何者でもない。」
「だからって・・・!」
拗ねて俯く千鶴を、もう一度上向かせ、今度は頬に軽く口付けてやると、再び真っ赤に染まる。
そんな千鶴の耳元に、俺は口を寄せた。
「大丈夫だ。例え君が何度転ぼうと、俺が必ず君を抱き止めてやる。
俺はいつでも君を見ている。いつでも、守ってやる。」
「ほ・・・本当に?」
「ああ、本当だ。」
「いつも?」
「いつも。」
「守るだけ?」
「・・・傍にいてやる。」
「約束、ですよ?」
「約束だ。」
しつこい程に確認してくる千鶴に、俺は今度はお互いの口を合わせて強く抱き締めた。
安心したように肩に頭をもたせ掛け、千鶴も俺の背に腕を回して来た。
「約束しよう。俺は必ずお前を見ている。どんな時でもお前を守る。ずっと傍に居てやる。
この大地がどんなに早く回っても、俺が必ず支えてやる。
俺が・・・・いつもお前の空にある白い月になってやる。」
「約束、ですね。」
「ああ、約束だ。」
いつも、どんな時も。沈む事のないお前の月に、俺はなろう。
全て賭けて。
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