短編

七夕のお題〜この背を飾る天の川
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夕方、今日終える筈だった粗方の仕事を終えた俺は一息吐く為に廊下へと足を向けた。
外は生憎と雨模様ではあったが清浄な雨が空気を洗い流す、こんな日は嫌いじゃない。
そう思い中庭に目を向けると、廊下の端でまるで雨を憎んででもいるかのように空を見上げる幼い横顔を発見した。
「そんなに睨んでも空は落ちちゃ来ねぇぞ?」
「・・・土方さん。お仕事はもう終わったんですか?」
「ああ、って、お前は俺にどんだけ仕事さす気だ?もう夕刻だぞ?」
「あ、そうですね。外が暗いから、時間がよく判らなくて。」
焦ったように頬を掻きながら空から俺へ、再び空へと視線を移し千鶴は笑った。
「で?何見てたんだ?雨がそんなに嫌いだったとは意外だな。」
こいつならジメジメ鬱陶しい雨すらも花が綺麗に咲くだの何だの喜びそうな印象だった俺は、睨み付けるように空を見上げる千鶴に再度問い掛けてみた。
千鶴は今度は困ったように首を傾げて、小さく溜息を吐いた。
「だって、雨は嫌いじゃないですけど、今日の夜だけは晴れてて欲しかったんです。」
「あ?今日だけは?何かあったのか?まさか夜中に逃げ出す算段でもしてやがったか?」
こいつが網道さんを思うように探しに行けない現状に不満を持ってるのは周知の事だ。
まさかの思いでからかいを含めて問うと、ぷくりと頬を膨らませて反論してきた。
「違います!今日は七夕じゃないですか!雨だと織姫様と彦星様が会えないから・・・可哀想じゃないですか?」
「はぁ〜?・・・ああ、今日は七夕か。っても、別に雨でも会えねぇ訳じゃねぇだろう?」
「どうしてですか?雨が降ったら天の川が出ないじゃないですか?」
こいつは七夕だの抜かす割に、その後の伝説を知らないらしい。
このままからかうのも面白いとも思うが、あんな顔で睨まれる雨雲もいい迷惑だろうなと俺は空を見上げた。
「知らねぇのか?七夕の日に雨が降ると、織姫と彦星を不憫に思った鵲が飛んできて、自分達の体を繋げて橋にするんだとよ。」
「カササギ?って、鳥ですか??」
「お前・・・鵲ってのはカラスと燕を足して割ったような白黒の鳥だ。本当に知らなかったのか。」
まさか鵲すら知らねぇとは思わなかった。
馬鹿にした訳じゃないが、呆れを含んだ返事を返すと、益々膨れっ面に拍車が掛かった。
「どうせ私は無知ですから。」
「そう怒るな。無知って事は悪い事じゃねぇだろ?これから多くを知っていけるって事だ。」
「・・・そう思いますか?」
「おお、現に今だって一つ知らない事が減ったろう?」
ぽんっと頭を撫でてやると、やっと納得したのか満足したのかでっかい目をキラキラさせて大きく頷いた。
「ホントだ・・・ありがとうございます、土方さん!」
「おお、感謝しろよ?」
わざと意地悪く笑っても、千鶴は空に向けて嬉しそうに微笑んでいる。
俺には恋しくて逢いたい女なんて今はいねぇ。
けど、もしも彦星のように本気で惚れた女に一年に一度しか逢えないとしたら、どうするんだ?
暫し考えて、隣で暗い空を見上げたままの横顔に視線を移した。
そうだな・・・。
もしも俺なら、例え雨が降ろうが雪が降ろうが、本気で惚れて逢いてぇ女ならどんな手を使ってでも逢いに行くのが男ってもんだぜ、なぁ?
彦星さんよ。

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