短編

相合傘〜霞音無〜
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最近降り続ける雨に、いい句が浮かびそうだった俺は筆を片手に白い紙を睨み付けていた。
(水音や・・・?いや、露煙る・・・。)
「土方君、失礼しますよ。」
「・・・山南さん・・・。」
(せっかくの秀作がっ!!)
「難しい顔をしてどうしたんですか?煮詰まった頭で考えていてもどうにもなりませんよ、気分転換に散歩でもしてはいかがです?」
「いや、別に煮詰まってた訳じゃねぇよ。」
「おや、そうなんですか?しかし気分転換は必要ですね。さぁさぁどうぞどうぞ。」
「おい・・・何でこの雨の中わざわざ散歩に行かなきゃならねぇんだ?」
あまりに強引に俺を玄関まで押しやる山南さんに、さすがに不穏な気配を感じた俺は足を踏ん張り睨みつけた。
「いえ、その・・・雪村君をお使いに出したんですが・・・彼女、傘を持って行かなかったんですよ。」
「はぁ?それで俺に迎えに行けってのか?」
「ええ、まぁ・・・。ざっと屯所内を見た処、君が一番暇そうだったんです。」
お願いしますね、なんて胡散臭い笑顔に誤魔化された気がかなりしたが、実際暇だったのは事実だ。
ってかあんたは何で行かないんだ?なんて言葉も飲み込んで、俺は蛇腹を二本持って屯所を出た。
朝からの雨でそこら中泥濘んで、草履があっと言う間に泥まみれで、やっぱり来るんじゃなかったかと後悔しかけた俺の視界に橋の袂に佇む千鶴が飛び込んで来た。
「っの、馬鹿!!」
声を掛けるより先に足が動き俯いた千鶴の腕を強く引いた。
驚いて見上げられた目が少し潤んで見えたのは、俺のせいじゃないと思いたい。
「何やってやがる!こんな雨の中で橋の下にいるなんざ正気か、お前は!!」
「ひ・・・じかたさん・・・?」
「あぁ?何だ。」
「あの・・・どうして此処に?」
「来たくて迎えに来た訳じゃねぇよ、山南さんに押し付けられたんだ。」
「じゃあ・・・わざわざ私を迎えに?」
「・・・。」
しまった。
違う意味での「どうして」だったのか。くっそ。
「しょうがねぇだろうが。誰も来れねぇってんだから!たまたま俺が空いてただけだ。」
「そうなんですか?・・・すみません、この季節に傘も持たずに出てしまって。」
「もういい。さっさと帰るぞ。」
俺は少々、かなり乱暴に千鶴に蛇腹を一本渡して揃って空に向かって広げた。
暗い色の蛇腹が同じく暗い空に溶け込むように、雨粒を滴らしている。
俺の顔にも・・・。
・・・は?
「何だ、こりゃ・・・。」
「破れて、ますね。」
急いで出て来たからか。修理に出す予定だった物を間違えて持って来たらしい。
傘を掲げてるにも関わらずびしょ濡れになってくってのはどう言う事だ。
呆然と立ち尽くす俺に、千鶴が自分の傘を俺に差し掛けて来た。
「何してる。お前が濡れるだろうが。」
「でも、そのままだと風邪を引いてしまいます。私は大丈夫ですから、土方さんが使って下さい。」
俺に傘を差し掛け笑う千鶴と、穴だらけの傘から漏れる雨粒を交互に見比べ、自覚出来る程眉間の皺を深くして溜息を吐く。
帰ってから、あいつらに五月蝿く言われそうだが仕方ねぇ。
破れた傘を畳んで千鶴の持つ傘と交換し、ほっと息を吐いた千鶴の肩をそのまま抱き寄せた。
「ひゃ・・・あ!?」
「馬鹿野郎、何て声出すんだ、お前は。こうしてりゃ、二人共濡れねぇだろ。」
ぐいっと細い肩を抱き締めると、緊張したように強張った体が益々固くなった。
「寒いのか?」
「いえ・・・寒くはないです・・・。」
「そうか?おい、離れるな!濡れるだろう!もっとこっち来い!」
微妙に離れようとする意味が、何となくは判ったが素知らぬ振りをする俺は、やっぱり退屈し過ぎてたのかもしれねぇな。
眉間に皺寄せて軍議を交わすのも、風流に句を詠むのもいいが、たまにゃこういう暇潰しがあってもいい。
引き寄せた肩を更に強く抱き締めて、壊れちまいそうに細ねぇな、なんて考えながら雨の中歩いた。
泥だらけになった草履も足袋も、二人揃ってだといっそ笑えるから我慢しよう。
昼でも暗い空を見上げて、俺は腕の中の存在にこっそり笑みを刷いた。


*****

何かちょっとギャグぽくなった気が・・・
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