短編

お誕生日記念〜2009.5.5〜
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『貴方に感謝の花束を』


春も過ぎ去り、薄紅の桜もすっかり深緑に色を変えた頃。
新選組副長土方歳三は、いつも刻まれた眉間の皺を更に深く刻み込み頭を抱えていた。
それと言うのも桜が散った頃から、どうも隊士達の様子がおかしいのだ。
何処が、と言うのではない。ただ何か違和感を感じる。
鬼の副長と呼ばれる自分だ。平隊士達が微妙な距離を置くのは判る。それは今更な事だ。
だが平隊士ではなく幹部連中、そして千鶴が何処かぎこちなく自分に接しているように感じる。
気のせい、なのだろうか?
それならいい。しかし・・・。
「おい、千鶴。」
いつものように茶を入れて貰う為に中庭にいた千鶴に声を掛けた。
ちょうど幹部達、平助と左之助、新八が揃って談笑している最中だったようだ。
楽しげに笑顔を浮かべる千鶴と、他の三人も土方が声を掛けた途端にピタリと会話を中断し勢いよくこちらを振り向いた。
四人の顔には有り有りと『しまった』的な色が浮んでいる。
「何ですか?土方さん・・・。」
「いや・・・茶を、入れてくれ。」
「あ、お茶ですね!はい、すぐにお持ちします!」
あからさまにほっとした千鶴を、左之助が顔を顰めて小突いている。
居た堪れなさを感じた土方は、眉間の皺を深くしつつその場から立ち去った。
(何なんだ、一体。)
何処となく違和感を感じさせつつ、それを土方に気付かせないよう振舞う幹部と千鶴。
僅か過ぎるいつもとの違いに苛立ち、それでも何も言わないのは隊務に関しては何も文句の付けようが無い程キッチリこなしているから。
そう。いつもなら何だかんだと嫌がる巡察も指南稽古も、あの総司ですら文句も言わずに黙々とこなしている。
隙あらば土方にいちゃもんを付け鬱陶しく纏わりつく存在である総司が、最近は気配も感じさせず近藤の周りにすら現れない。
暫くして茶を持ってきた千鶴に、何の期待も抱かず質問してみる事にした。
「千鶴、おめぇら最近俺に隠し事してねぇか?」
「・・・えっ!!」
ガチャンッと激しい音を立てて湯呑みが千鶴の手から離れた。
「あっ!す、すみません!」
「いや、大丈夫か?火傷してねぇか。」
「は、はい!大丈夫です!すみません、すぐ入れ直してきます!!」
「あ、おい!」
まるで逃げるように去って行った千鶴の背に向かって伸ばした腕を、土方は少し虚しく思いながらゆっくりと下げた。
あれでは本当に自分に隠し事をしているようだ。
しかしそれが何か判らなずに眉を顰めた土方は、次に茶を持って現れたのが千鶴ではなく山崎だった事に更に疑いを深めた。


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