短編

袖触れ合うも舞う如く〜前作翌日〜
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空は快晴。風は涼やかに。
私の心も晴れ晴れとした、朝。
「よしっ!頑張るぞ!」
土方さんに折角相談に乗ってもらったんだから(まさかあんな事になるとは思わなかったけど・・・)
今日から一心して、何があっても動じない女になるんだ!
ぐっと握り拳を高く突き上げ、さっそく朝餉の準備の為に広間に向かう。
「おはよう、千鶴ちゃん。今朝はいい天気だね。千鶴ちゃんのご機嫌は如何かな?」
出た!いきなり沖田さん登場!
でも、今日から私は変わったんだから!ちょっと位触られたって平気な筈。
「あれ、何か警戒してる?どして?」
「べ、別に警戒なんかしてませんよ?」
「ふ〜ん?そうなんだ?僕はまた、誘われてるのかと思った。だって君、凄く怯えた顔してる。」
最後の方は、耳に口を寄せて吐息と共に囁き掛けられた。昨日までの私なら、これだけで真っ赤になってしまっていたけど・・・。
今も一瞬目の前が真っ赤になりそうだったけど、土方さんの甘い吐息と囁きに比べたら全然平気!と思ってしまった。
そこで思わず昨夜の土方さんを思い出して、別の意味で顔が赤くなってしまった。
「真っ赤になっちゃって。相変わらず可愛いな、君は。」
何て言いながら髪に口付けてくる。
けど私の頭の中は土方さん一色で、沖田さんが髪を触る仕草や、肩を抱く手が全部全部違うと思ってしまった。
「もう!朝から何やってるんですか、沖田さん。早く行かないと、朝御飯無くなっちゃいますよ?」
呆れた様に軽く沖田さんの手を払いながら笑うと、沖田さんは凄くびっくりしたように目を見開いてた。
でも次の瞬間にはにやって笑って、また肩を抱こうとする。
「さ!早く行きましょう?」
私はその腕から逃れるように先に立って歩き出した。
後ろから付いて来る沖田さんは、もう触れようとはしなかったけれど、別の事に興味津々。
「ね、千鶴ちゃん。昨夜何かあった?」
「別に、何もないですよ?」
「ふ〜ん??」
イマイチ納得してない沖田さんは放っておいて広間へと辿り着く。皆と挨拶を交わしていると、二人目の悩みの種が登場した。
「よぉ、おはよう。千鶴。今日も可愛いな?」
「おはようございます、原田さん。そう言う台詞は花街の女性にだけ言ってて下さい!」
くいっと顎に手を掛けて、顔を覗き込まれながら降らされる言葉にも、今日からの私は惑わされたりしなかった。
ぷんっと顔を逸らして、朝餉の仕度をする山崎さんの手伝いをしに行く。
後ろでは呆気に取られたような原田さんが見えるけど、そんなのも気にしてちゃ駄目なんだ!
「千鶴君、何かあったか?昨日までと少し雰囲気が変わったな。」
「何も無いです!でも、私も強くならなきゃと思って!」
「そうか。強く在ろうとするのはいい事だ。及ばずながら俺も協力しよう。」
「ありがとうございます〜。」
不思議そうに私に話しかける山崎さんだったけど、一瞬私を凝視して何故か驚いた後、そんな風に笑ってくれた。
その笑顔に益々勇気付けられた私は、その後も沖田さんと原田さんを撃退し続けた。
「すっげぇな、千鶴。昨日まではあんな真っ赤んなってたのに!」
「おお、今朝は別人みてぇだな。」
「ホントだよね。せっかく千鶴ちゃんで遊ぶのが毎日楽しかったのに、つまんなくなっちゃうなぁ。」
「全くだな。っていうか、総司は遊ぶ気満々だから千鶴に嫌がられんだよ。」
「左之さんだって、結構面白がってたじゃない。」
「俺はいいんだよ、俺は。それよりさっきから気になってんだが・・・。」
「ああ・・・。”あれ”でしょ?」
「そう、”あれ”だ。」
「何だよ、あれって。」
「誰だろう?まさか左之さん?」
「ちげぇよ、俺じゃねぇ。お前かと思ったんだが・・・どうも違うみてぇだな。」
「なぁ、あれって何だよ?」
「新八さんも判んねぇの?」
「お前もか、平助。」
「当然、この二人は違う、と・・・。」
「「だからあれって何なんだよ!?」」
何だか騒がしく叫ぶ二人を無視して原田さんと沖田さんは私を見てぼそぼそ話し込んでる。
ちょっと視線が気にならなくもなかったけど、とりあえず無視して斉藤さんにお膳を渡す。
「どうぞ、斎藤さん。」
「ああ、ありがとう。・・・千鶴。」
「はい、お茶ですか?」
「いや・・・。何でもない。」
「???」
斎藤さんも、お膳を受け取りながら私を見て山崎さんのように驚いていたけど、やっぱり何も言わない。
何なんだろう?さすがにちょっと気になる。
「千鶴、お前昨夜どうしてた?」
「きゃっ?」
考え込みながらご飯を食べていると、急に原田さんに後ろから抱き締められた。
「もう、原田さん零すとこだったじゃないですか!」
「悪い悪い。んで、昨夜どうしてた?」
さり気無く腰に回された手を解く努力をしながら、何て答えたモノか一瞬躊躇してしまう。
だって・・・やっぱり、言えない、よね?
「昨夜は・・・その・・・・。」
思わず赤くなって俯いてしまってから、しまったと思った。
ああ、こういう反応が駄目なんだってば!私の馬鹿ぁ!
「あ、いいなぁ、その反応。やっぱりそれでこそ千鶴ちゃんだよね。」
「だな。こういう可愛い反応が千鶴らしくていいな。けど、問題の解決にはなってねぇ。」
「そうそう。昨夜千鶴ちゃん、どこにいたの?もしかして斎藤君?」
「俺ではない。」
「んじゃ、山崎君か?」
「・・・俺でもありません。が、原田さん、そろそろ離れた方がいいかと・・・。」
「あ?何でだよ?」
「左之、離れておけ。身の為だ。」
「意味判んねぇぞ、お前ら。」
「千鶴ちゃんに触れるのは僕らの心の癒しなんだから、邪魔しないで欲しいなぁ」
「「ってか俺ら無視して話してんなぁ!!」」
呆れたように(何故か)少しずつ私達から離れていく斎藤さんと山崎さん。
二人の忠告を無視して益々私に密着してくる原田さんと沖田さん。
会話に加われず暴れだす平助君と永倉さん。
何だか静かだった筈の朝の風景が、騒々しさも極まってきた頃、パシンと広間の襖が開け放たれた。
無言のままズカズカと広間に入ってきたその人物は、私の目の前まで来ると、原田さんと沖田さんがくっついたままの私の腕をぐいっと引っ張り上げた。
「おわっ!」
「おっと・・・。」
急に私が立ち上がった事で体勢を崩した二人を見下ろしたまま、その人物、土方さんは冷ややかに告げた。
「悪ぃな。こいつは昨夜から俺専用だ。お前らはもう手出すなよ?」
「げ・・・。」
「あぁ・・・。」
「「俺専用って何!!」」
呆気に取られて私と土方さんを見比べる二人は、次の瞬間には盛大に文句を言い始めた。
「土方さん、いくら土方さんでもそうは簡単にこいつはやれねぇぜ?」
「そうですよ、僕らの方がずっと前から頑張ってたのに、急に出て来てそれはないでしょう?」
「無駄な努力だな・・・。」
「そうですね、既に手遅れ、と言った所ですか・・・。」
「おい、そこの二人、冷静に状況判断してんなってか俺の飯にまで手付けてんな!」
「斎藤君も山崎君も、もしかして気付いてたとか言う!?」
「気付いたのは先程だ。”それ”を見れば大体の状況は把握出来る。」
「そうですね。お二人では絶対ないでしょうし、そこで吼えている方達でもない、とくれば・・・。」
「俺しかいねぇだろうが?判ったら諦めろ。」
「だからってはいそうですかって訳にいかないんですけど?」
「土方さん、俺ら諦め悪ぃんだ。」
「「だから!意味判んねぇ!!俺らも混ぜろ!!」」
ゆらりと立ち上がった二人から明らかに殺気が立ち篭める。
私一人オロオロと焦るけど、当の土方さんは不敵に笑って二人を睨み付けた。
「そうまで言うなら本人に聞いてみろ。おい、千鶴。」
「は、はい!?」
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