短編

早起きは三文もお得
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麗らかな春の陽射しが、薄く部屋に差し込む朝。
早朝と言うには遅く、昼と言うには、まだかなり早い巳の刻。
新選組、鬼の副長土方歳三は、久しぶりの休みを満喫すべく今だ布団の中で惰眠を貪っていた。
否、貪ろうと、努力していた、と言った方が正しいかもしれない。
何故なら、先ほどから彼の周囲では
パタパタパタ・・・・
トタトタトタ・・・・
サッサッサッと、実にささやかだが、
実に耳障りな音が響き渡っているから。
それでも土方はせっかくの休日。
朝から怒鳴り散らして喉を痛めるのも疲れるのも馬鹿らしいし、この音の正体とその理由も、簡単に想像が付いてしまう為、震える拳を握り締めて布団を被り音を遮断しようと耐えていた。
しかし・・・
「あっ・・・」
とか
「きゃ?」
とか、極めつけに
「いたっ」
等と聞こえてしまっては、いつまでも布団を被って知らぬ振りを決め込むのも難しくなると言うモノだ。
「あ・・・」
もう何度目か判らない小さな声に、とうとう痺れを切らした土方は、バサリと布団を放って起き上がった。
「うらっ!てめぇっ!何の恨みがあって人の睡眠を邪魔しやがる!」
いきなり起き上がった土方に驚いて、口を開けたままの音の正体の首に腕を回し、軽く絞め技を掛けて耳元で怒鳴り散らす。
「きゃ〜〜、ごめんなさい、ごめんなさい〜〜!すみません〜〜」
ふぇ〜〜と泣きそうな声で謝罪を連呼するのは雪村千鶴。
最近新選組に身を寄せるようになった、見た目は男装しているが、れっきとした女性。
父の行方を捜して、一人江戸から京に旅してきたのは感嘆に値するが、いかんせん、どうにもこうにも鈍臭い。
先ほどの声も、掃除をしながらささくれた箒の棘が刺さって上げた声のようだ。
「全くてめぇは、静かに掃除も出来ねぇのか!?」
「静かにお掃除をする事の方が無理だと思います〜〜〜〜。」
「んじゃ、起きるまで待ってろ!」
「だから〜〜」
綺麗にしてあげたかったんです〜。


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