カオス置き場

イケメンですから☆芸能界パロ
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「今度、こちらにお世話になる事になりました。雪村千鶴です、よろしくお願いします」
ニコニコと人好きのする、どうやら取締役社長らしき人に深々とお辞儀をして下げた頭の中では爽やかに私を此処に放り込んだ父親と、颯爽と逃げた兄への罵詈雑言。
どうして私があの人達の尻拭いをしきゃ駄目なの。
と言うか毎回毎回二人のせいで私は貧乏籤ばかり引かされている気がする。
今回の事は最たる不運だ、きっとこれで私の人生終わりなんだ、儚い青春カムバック。
若干遠い目で頭を上げた私に近藤と名乗った社長は悪意の感じられない笑顔でワッハッハとか笑ってる。
笑い事じゃないんですけど、いや、ホント。
「いやいや応募書類を見た瞬間これだ!と思ったんだ!こう脳髄に閃いたと言うかな!きっと君は日本を、いや世界を代表するスターになる!!」
そんなのなりたくないです、寧ろ普通の高校生のまま居たかったです。
「ありがとうございます、頑張ります!」
前向き発言をかます自分がちょっと悲しい。
「うむ、それでは山崎君。詳しい事は君から説明してあげてくれ、頼んだぞ」
「はい、社長。では雪村君、行こうか」
「はい、山崎さん」
少しどころかかなり目付きの悪い短髪で、後ろ毛だけ長く伸ばした人が私を促して別室に案内してくれた。
私はキョロキョロと辺りを見回し、他に誰も居ない事を確認すると、いくつかの書類を手にこちらを向いた山崎さんにいきなり土下座した。
それこそ床に額がのめり込むんじゃないかって勢いで。
プライド?
羞恥心?
そんなものはどうでもいい。
これから降り懸かる災難を回避出来るなら、土下座の一つや二つや三つ軽いものだと自分を納得させた。
ちょっと口の端が引き攣ったけど、彼からは見えないだろうから大丈夫の筈。
「ごめんなさい、山崎さん!!!」
「・・・とりあえず謝罪の意味を問うべきかヒビの入った床の修理代の請求先を決めるべきか、悩むところだがまず立ってくれ」
この状況でちょっと的を外れた台詞を放つ山崎さんに若干好感が持てた。
この人実はいい性格してるのかもしれない。
「床の請求書は父にして下さい、あの禿げが今回の全ての元凶です」
「解った、後ほど見積もりと請求書を送付しておく。では次に謝罪の訳を聞いて構わないか」
「じ、実は・・・私、女なんです!!」
ですですです・・・自分の声が虚しくエコーした気がする。
それ位静寂が耳に痛い程続いた空白の時に、もしや聞こえていなかったの?そんなバナナと寒々しいダジャレに思わず身震いしてしまった。
でも聞こえていなかった訳ではなく、私の言葉を正確に理解し飲み込むまで時間を要したらしい山崎さんは、鳥肌の立った腕を擦る私に一言告げた。
「・・・で?」
「はい?」
「君が女性だと言う事もそれが虚言ではない事も理解した。それで、どうしろと」
「どうって・・・」
「残念ながら君の父親と当事務所との契約は既に交わされ契約料も支払われている。破棄するとなれば破格の違約金が発生するが、その請求も父親に送ればいいのか?」
「因みに、いか程の?」
山崎さんは黒いアタッシュケースから電卓を取り出すと無言でタタタっと素早く何桁かの数字を打ち込んで私に液晶画面を見せるけど、すでに今の指の動きからして有り得ない数字が予想出来てぶっちゃけ見たくない。
「ざっと計算してこの程度か」
「・・・っっっ!!!父さんのお馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」
クソジジィとかって兄さんがよく言ってたけどそれって世の中のクソジジィにすっごく失礼じゃないかと思ったよ、いやホント!
本気で死ねばいいのに誰か殺してくれないかな、いっそ兄さんが一思いに止め刺してくれて良かったのに!!
「と、言う訳で君はこのまま男性アイドルとしてデビューする以外に道は無いと思うのだが、どうする」
「女性アイドルとしてってのは・・・」
「契約内容は男としてのモノだな、女性として契約し直すと言うのも有りかもしれないが契約内容に虚偽があったとして虚偽告訴罪が適用されるかもしれない」
「とかって私が契約したんじゃないんですけど!?本人逃げちゃってんですけど!!」
「申し訳ないが、俺には預かり知らない過程については同情はするが譲歩は出来ない」
あくまで無表情に職務に忠実らしい山崎さんは、電卓を仕舞って部屋に備え付けられたキッチンへと向かった。
私が突き付けられた現実と戦っていると、ストンと目の前にソーサーとティーカップが置かれる。
クンと嗅いだ香りはハーブティのようだった。
窺うように見上げた先には解り難い程口角を上げて微笑んでいるらしい山崎さんが、同じくハーブティーの入っているだろうティーカップに口を付けている所だった。
「飲んだらどうだ?俺が淹れたんだ、味は悪くないし気分は落ち着くだろう。その後で身の振り方を考えればいい」
「ありがとう、ございます」
どうも笑顔と同じく彼の優しさや気遣いは解り難いらしい。
爽やかな香りに誘われて口に含んだハーブティは少し甘くて暖かかった。
コクンコクンとそれを飲むうちに、どうしようもない怒りは渦巻くけれど、それと同じ位逃げようがないんだなーと諦めも沸いて来た。
と、言うかホントどうしようもないんじゃない?
だって払えないし犯罪者になんかなりたくないし兄さんは見付からないしきっと父さんも逃げてるに決まってる。
だとすれば私の取るべき道は限られてるんだろう。
ほぅと深く息を吐き出して、真っ直ぐ私を見下ろす山崎さんに目を合わせた。
「これから、よろしくお願いします」
「ああ、こちらこそ」
差し出された手を握り、軽く交わした握手は共犯者のそれで、女なのに男としてアイドルデビューする事になった私の、波乱の芸能人生活は幕を開けたのだった。



→オマケ的なその後の会話


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