カオス置き場

サンタが天使に見えた夜:現パロ
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3.貧乏くじはいつだって俺ですよね!


突然異世界に飛び込んだ人間と言うのは、皆一様にこんな反応なんだろうか。
「うわーうわーうわー!凄い凄い凄いです!これが人間の住む所なんですね!あ!テレビ!コタツもある!これは何ですか!?あれは!?」
とりあえずテレビとコタツはあるらしい。
自称サンタクロースの千鶴君は、心底自分がサンタの国の住人だと信じ込んでいるらしく彼女曰く『人間の住む処』である俺の部屋を物珍し気に見回している。
とは言っても、映像学習や見習い研修時に(サンタにも学校があるらしい)下界の生活の一部は垣間見る機会はあったそうだ。
それでも聞くと体験するでは大違いだと今は電子レンジをしげしげ眺めてはしゃぐ姿はとてもじゃないがキ○ガイだとは思えない。
「待て、それはクッキングヒーターだ!下手に触ると火傷するぞ!!そっちは電子ケトルだ!傾けるだけじゃ何も出てこない!
そのスイッチは触るんじゃない!!設定した湯量が変わってしまうだろう!!」
ゼェハゼェハと肩で息をする俺の隣、滅多に表情筋を動かさない斎藤は始終上機嫌で笑っている。
ヤツのファンが見れば目をハートにして狂喜乱舞しそうな光景だが今まさに本人は千鶴と二人で狂喜乱舞したそうだ。
そんなに嬉しいか、サンタが現代日本において文明の利器に疎いと解った事がそんなに嬉しい事なのか!?
「山崎君、さっきからずっと怒鳴り通しで疲れないか」
ああ、疲れるさ、疲れるとも!!
だが人の話を聞かない、聞いても意味の判っていないサンタには口で言い聞かしつつ行動で解らせるしかないのだからしょうがないだろう!
何とか落ち着いてくれた彼女と、全くもって非協力的な幼馴染みを正座させる。
「まず質問だ。平助とやらが空から探してくれるらしいが、それはどの程度上空からなんだ?屋内に居ても大丈夫なのか?」
「それは大丈夫です!私達サンタとトナカイは二人で一人!お互いがどこにいるのかバッチリ解るんです!」
「なら今平助がいる場所も解るんじゃないのか」
「あ」
漫画のように掌を口元に宛てて丸く目を見開いた自称サンタクロースを殴ってもいいだろうか。
忘れていたのか?
今の今までトナカイの存在を忘れていたのか!?
「・・・出来るなら、さっさとトナカイの居場所を探ってやればいいだろう。向こうも焦ってるんじゃないのか」
「ですよね!きっと凄く心配してます!お給料の事!」
給料か、金の事か。
君の事は心配してないのか。
「私の事も心配してくれてると思うんですけど、でもサンタクロースをソリから落としちゃった事がバレたら減棒らしいんです」
サンタ業界もなかなかシビアらしい。
「それは大変だな。だが、ソリから落ちたのはトナカイのせいでなく君が悪いんじゃないのか?」
「山崎君、彼女は悪く無いぞ。初めて下りた人間界が珍しかっただけだ、好奇心があるのはいい事だと俺は思う」
それはそうかもしれないが、今回はその好奇心のせいでソリから落ちた挙句自分のせいでもないのに減棒されるトナカイの平助とやらは溜まったもんじゃないだろう。
気の毒にと同情はするが俺にはどうしてやる事も出来ない、するつもりもないが。
「んっと、じゃあちょっと平助君探してみますね!」
言うが早いか彼女はベランダへと向かう。
眉を顰めて夜空を見回す横顔は可愛らしいが、残念ながら痛すぎる妄想癖に俺はかなり辟易していた。
なんでもいいから早く帰ってくれないだろうか。
サンタの次はトナカイに会えるのかと期待に頬を染める斎藤はとりあえず視界の外に追いやって切実に願う。
どうかクリスマスが無事に終わりますように。
そして斎藤へプレゼントを(夜中に斎藤を起こさないよう細心の注意を払いつつ不法侵入して)届ける役目から早く解放される事を。
彼女が本当にサンタクロースだと言うのなら、それ位叶えてみせろと細く頼りない背中に心の中でだけ悪態を吐いた。


さてその頃噂のトナカイの平助君。
新米サンタにはベテラントナカイをとペアを組まされ面倒だなぁ、なんて思っていたのも束の間千鶴があまりに可愛かった為、それまでのふて腐れ具合は何だったのかと言う位上機嫌に仕事に出掛けた。
ウキウキしていたのは否定しない。
いつも髭もじゃだったりポッチャリと言うに脂ギッシュ過ぎるオッサンがペアだったのだ。
(見た目は)若く可愛い相棒に浮かれきっていたのは否めない。
だからと言って。
「うわぁああああああああん!!千鶴の馬鹿ぁぁぁっ!!」
ちょっと人が目を離した隙に居なくならなくてもいいじゃないかと思うのだ。
何でどうしていつの間に!!
さっきまで居たじゃん!
ソリに乗ってたじゃん!
何でいきなり居なくなってんだよ、どこ行ったんだよ!!
「ヤッバイって!マズイって!早く見付けないと俺減棒んなっちまうんじゃね?ただでさえ安月給なのにこれ以上減ったらオヤツ買えねぇじゃんか!!」
とりあえず落ち着け俺。
千鶴は明後日のイブの前にこの国の子供達の願い事を調べる為に下界に降りて来た。
新米なせいか妙にはしゃいで俺としても不安ではあったんだ。
ありがちなドジをやりそうで!
解ってたのに気を付けてたのに何でもっと高い手摺りにしなかったんだ俺ぇぇぇぇぇ!!
「うっうっうっ・・・千鶴ぅ・・・どこ行ったんだよぉ」
この時の俺には冷静な判断力なんか無かったのかもしれない。
ちょっと考えれば千鶴の居場所を察知するなんてトナカイの俺には朝飯前だったんだ。
なのにサンタをソリから落っことすなんて未曾有の大事故に冷静な判断力は去年のクリスマス辺りに忘れて来てたらしい。
「平助君!!」
「なんだよ、うるせぇよ俺忙しいんだって、千鶴探さないとなんないんだよ何処行ったんだよ千鶴はもうさぁ」
「平助君!!」
「だから五月蠅いって!大体サンタがソリから落ちるとか有り得なくね?
っつかねぇよ普通さ、だってサンタだぜ?何でソリから落ちんだよ俺のせいかよ俺のせいだな解ってるってどうせ俺が悪いよ」
「平助君ってば!!」
「千鶴が鈍臭いのは知ってたってのに普通のソリ準備しちゃった俺が悪いですよどうせさ!サンタ協会の山南会長に怒られるのも減棒されんのも俺一人だよな解ってるけど納得出来ないっつかさ」
「平助君っ!!」
「だから五月蠅いって・・・!!!はれ?」
人が必死に考え事してるってのに何度も呼ばれる名前がいい加減鬱陶しくなって声の方へ振り返った。
思わず振り上げた拳が間抜けにふよふよと下りて行くのも仕方ないかもしれない。
「ち・・・づるぅ・・・?」
「もう!何度も呼んだのにっ!!」
「千鶴、これがトナカイの平助か?」
「・・・何でトナカイなのに人間の姿なんだ?」
振り返ったその先では、ぷんぷんと頬を可愛く膨らませた千鶴と、人間の(エラク顔のいい)男が二人並んで立っていた。



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