カオス置き場

サンタが天使に見えた夜:現パロ
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2.初めまして!迷子のサンタです!

「で、君はトナカイのソリに乗って下界を見ている内に乗り出し過ぎて落ちてしまった、と」
隣では『ラ○ュタはホントにあったんだ』的なノリで目を輝かせる斎藤が。
正面には穢れ等知らないかのように純真な笑みを浮かべる自称サンタクロースが。
「そうなんです。平助君にも危ないからちゃんと捕まってるように言われてたのに。心配してるんだろうなぁ」
あれか、今時のサンタ業界はトナカイも人語を解するのか、それは驚きだ。
それよりもっと驚きなのは隣で尊敬の眼差しを浮かべる斎藤だろう。
どう聞いても頭の弱いドジっ子としか思えないのに何故そこまで信じ込む事が出来るんだ!!
俺はその順応力が今こそ憎い!
「トナカイと逸れてしまったとなるとクリスマス当日はどうするんだ、プレゼントを配れないのではないか?」
「それは多分大丈夫です!きっと平助君が私を見付けてくれるので」
「そうか、それなら良かった」
いや良く無い。
クリスマス当日までもう日が無い。
俺は早く斎藤のプレゼントを探しに行かなくてはならないと言うのに何故こんな所で足止めを食らっているんだ。
とっととその自称サンタクロースを警察なり病院なりに連れて行くべきだろう。
「斎藤さん、盛り上がっているところ申し訳ないが・・・」
「ところで、貴方はサンタクロースを信じているんですね」
「どう言う意味だ?信じるも何も実際存在しているだろう」
「あはは、そうなんですけど、今時の方は皆さんサンタクロースなんて信じてらっしゃらないでしょう?所詮架空の人物だって、思ってますよね?」
困ったように眉尻を下げて苦笑した彼女は、斎藤ではなく俺に向かって首を傾げて見せた。
明ら様ではないが、胡散臭いモノへ対する不信感は持っていた。
だが、問い掛けの形ではあっても確信を持った声音に俺は少し驚いた。
数分の邂逅の中、俺の中の彼女は完全に頭の弱いサンタコスマニアとして位置付けられている。
それなのに、表情の動かない俺の何を感じてそんな確信を持っているのか。
一般常識としてサンタが架空の人物だと言う事実と併せて考えても、自称サンタを名乗る割にシビアな物言いに若干好感は持てた。
「ああ、一般的には、そうだな」
「そうなのか!?それは何故に?君も知っているだろう、俺の元に毎年サンタクロースからの贈り物が届いている事を」
ええ、そうですね、毎年”俺が”届けていますね。
だからこそ信じてないんですよ、とは言えない。
「え・・・?サンタクロースから、ですか?でも・・・「千鶴君と言ったか」
何となく余計な事を言いそうな気配に口を挟むと、怪訝そうに顰められた眉がぴょこんと跳ねた。
「トナカイの、平助?だったか。探してくれると言うが、空から探しているのか、それとも地上に降りて探しているのか」
「それは勿論空からです!」
無視された形になって不満そうだった斎藤は、そこで首を曲げて空を見上げた。
「だが、この明るさでは地上など見えないのではないか?」
確かに、俺もそう思った。
彼女の言い分を信じた訳ではないが、彼女がトナカイの平助が空から探していると信じているのなら、この場所は迎えを待つには不適切なのではなかろうか。
鮮やかなイルミネーションと、明るい街灯とネオンは夜目が効くだろうトナカイには逆に不便な気がする。
「あ!ホントだ・・・こんなに明るくっちゃ、見付けて貰えないかも・・・」
急に悄々と項垂れる彼女には気の毒だが、俺はそろそろこの茶番から解放されたかった。
何より余計な事を斎藤にバラされる前に彼女を遠ざけたかった。
どう考えても偽物のサンタクロースが、俺が必死に守ってきた秘密をケロっとバラしそうで、そのせいでここ数年の苦労が水の泡になるかと思うとそれはそれで気に食わない(バレたらバレたで来年から俺の苦労が減る訳だが)
なのにこの純粋培養の天然はどこまで俺の予定を狂わせてくれるのか。
「それは拙いのではないか?山崎君、君のアパートは都心から外れた落ち着いた佇まいだったように思う。そこで彼女の迎えを待つのはどうだろう」
どうだろう、じゃない!
どうせ俺のアパートは辛うじて都内と呼べる最寄り駅も徒歩30分以上のバスも1時間に1本しかないような田舎だ!
だが問題はそこじゃない。
何故俺も一緒に待つ事前提なんだ!
俺は一言も付き合うとは言ってないし聞かれてもいないのに何故決定事項になっている!
そもそも都心から外れてはいなくてもお前のアパート周辺だって静かな場所にある筈だ!
「だが俺の隣人は総司だ、アレに彼女を会わせたくない」
それも解る、このどこか小動物を思わせる自称サンタクロースの少女は人格に若干問題有りまくりなあの男の目には触れさせない方がいいと言う意見には激しく同意だ。
だが何故そこで俺の家。
もっと他に色々あるだろう!俺の家以外に!
「あの、でも悪いですし、私なら大丈夫ですよ!ほら、あそこ!あの向こうに見えるビルの上なら空からもよく見えるんじゃないでしょうか?」
確かに。
地上に比べれば遥かに高いビルの屋上。
あそこに居れば上空からも見えやすいだろう。
ただ、今は冬。
そして若干風がキツく気温も低い夜にあんな所に居ては風邪を引くんじゃないだろうか?
そう思っていたら隣からチクチク視線が刺さってくる。
「斎藤さん・・・」
「山崎君、この寒空の下、あんな所にサンタクロースを置き去りにするつもりか?」
いや、置き去りと言うか元々サンタクロースと言うのは寒空の下で仕事するものだろう?
しかもソリに乗って移動するんだろう?
まさか完全防寒機能が付いている訳でもないだろう?
なら寒さには慣れてるんじゃないのか?
「大丈夫です!まだ新米だし今年初めてのお仕事ですけど、ちゃんと平助君が迎えに来てくれるまで待ってますから!」
今年初仕事の新米・・・。
「山崎君」
だから、何故そこで俺が非難されなくてはいけないんだと・・・。
「ホントにありがとうございます!初めて会った人間の方がこんなにいい人達で凄く嬉しいです!
お二人の優しさに報いる為にも頑張って皆が望むプレゼントを贈りますね!」
かなり頭の弱い自称サンタクロースだと思っても、こうまで悪意の欠片も感じられない目が痛いとは正直思わなかった。
当然隣からの視線も。
「山崎君」
無表情なくせにこんな時だけ目力半端ないな斎藤!!
「じゃあもう行きますね!本当にありがとうございました!!」
クソッ!
決して俺の意志が軟弱な訳でも俺が穢れている訳でもない!
ただ二人のピュア過ぎる視線が居た溜まれないだけだ!!
「待て千鶴君」
「はい?」
「俺の家で、平助君とやらを待てばいい。少し狭いかもしれないが、あんなビルの屋上にいるよりは、暖かい筈だ」
さらば俺の平穏な夜。


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