カオス置き場

サンタが天使に見えた夜:現パロ
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1.無垢と書いて痛い子です

老いも若きも浮かれさざめく師走。
その中でも大晦日を間近に控えたこの時期は特に街が騒がしいと山崎は思う。
街路樹は色取り取りのオーナメントに彩られ、目に眩しい電球が夜だと言うのに暗い空を明るく照らす。
無駄に電気を使ってゴミを撒き散らして、見た事も無い男の誕生日を祝って何が嬉しいのだろう。
この季節になると普段は無表情な眉間に知らず皺が寄っていく山崎と違い、同じ無表情でも逆にキラキラと目を輝かせる男が隣を歩く。
「斎藤さん、今年も手紙を出したんですか」
「ああ、去年まで何故か願ったプレゼントと違う物ばかりが届いていたが、俺も今年で二十歳。
成人記念に今年こそ願い通りの物が届くかもしれない」
「・・・そうですね、届けばいいですね」
毎年繰り返されるこの会話は小学校からの幼馴染みである二人にとって恒例のモノ。
違うのは今年こそと願う斎藤の理由が変わる位だろうか。
斎藤が喜々として語るこの時こそ、感情が顔に出ない鉄面皮で本当に良かったと自分の表情筋に感謝したい。
素直なのはいい事だ。
何事も信じる心も大事だと思う。
だがしかし。
一体どこの世界に成人を迎えてまでサンタクロースの存在を心の底から信じている男がいるだろうか、いや居まい(反語)
そう、山崎の幼馴染みである斎藤は二十歳を迎えた今になってもサンタクロースを信じていた。
毎年欲しいプレゼントに見合ったサイズの靴下を枕元に用意しツリーと星空に願いを掛けて日付が変わる前に就寝する。
そんな斎藤を微笑ましく思う反面、いい加減にしてくれとも思う。
誰が毎年毎年靴下にプレゼントを入れてやってると思っているのだろう。
他言しては願いが叶わないと頑なに口を割らない斎藤に、日々の言動からあれやこれやと頭を悩ませプレゼントを用意しそっと不法侵入し靴下に入れてやる。
勿論不法侵入とは言っても保護者合意の上なので問題はない。
高校に入るまでは実家に居た為斎藤の両親がその役目を担っていた。
ところが何をトチ狂ったか斎藤は高校は地元を離れて受験すると言い出した。
焦ったのは過保護な両親だ。
純真無垢で何でも鵜呑みにしてしまう斎藤を、一人都会になどやれないと、何故か地元高校に進む予定だった山崎まで同じ高校を受験させてしまった。
そして見事合格を果たし合格祝いの席でこっそりと語られた真実に山崎は目の前が暗くなった。
斎藤がサンタを信じている事、その純真な心を傷付けない為にこれからは自分達の代わりにクリスマスにプレゼントを贈ってやって欲しい、と。
当然その費用は両親持ちなので全然いいのだが、問題は斎藤の部屋にプレゼントを届ける為に自分までイブの予定が埋まってしまう事だ。
何が哀しくてイブの夜に幼馴染みの家に忍び込まなくてはならないのか、世の中何か間違っている。
一番間違っているのは目に痛々しいイルミネーションを楽しそうに見ている斎藤かもしれないが。
「斎藤さん、今年は何をお願いしたんですか?」
「すまない、山崎君。それは山崎君が相手でも言う事は出来ない。言ってしまえば恐らく俺の望むモノが届く事はないだろうからな」
「・・・そうでしたね、すみません」
思わず遠い目になってしまった。
どこで間違ったんだ斎藤。
両親はともかく何故誰も真実を伝えてやらなかった。
―自分も含めた周囲の人間があまりに純真無垢な斎藤に過酷な現実を伝える勇気を持てなかっただけだとは気付いていない―
また今年も試行錯誤するのか。
今年は一体何が欲しいんだ。
解らない・・・。
そんな山崎の心中等知るよしも無く、ピュアな幼馴染みはイルミネーションに目を奪われフラフラと街を歩く。
見た目だけはモデル並の斎藤に頬を染めて目を奪われる女性達には全く気付いていない様子に溜息しか出ない。
「いたっ!」
とりあえず電柱にぶつかりそうな斎藤をさり気無く誘導し軌道修正した途端、何故か痛そうな悲鳴が聞こえた。
声の聞こえた方に目を向けると時期的にはおかしくはないがそれでも目に痛い真っ赤な服に身を包んだ少女が頭を押さえて蹲っている。
まさか電柱にぶつかったのか。
斎藤以外にいるのか、そんな鈍臭いヤツ。
「大丈夫か」
そうこうする内に同じ少女を見ていたらしい斎藤が蹲る背中に声を掛けていた。
自分の方が大丈夫なのかと問いたい。
「はぅ!す、すみません!大丈夫です!ちょっと凄く人が多くてビックリして・・・」
確かに人は多いがこれ位なら普段通りの人出だろうにと改めて少女を見直した。
赤い三角帽子に赤いワンピース。
ミニスカートの下は膝上までの赤いブーツ。
裾と襟は真っ白いファーに包まれ帽子の先端にも白いぼんぼん。
まるで、と言うよりサンタクロースのコスチュームそのままだ。
(サンタコス?)
時期的に間違ってはいないが一体どこの店の売り子だろうと辺りを見渡すが、サンタコスが必要な店は見当たらない。
とすれば個人的に楽しんでいるのか?
それは痛い、かなり痛い人種だ。
出来れば関わりになりたくないのに斎藤はそんな事はどうでもいいらしい。
「確かに人は多いが、この辺りはいつもこの位だ」
「そうなんですか?イブ以外で下界に降りるのは初めてなので、知らなくて」
「・・・下界?」
「あ!平助君とはぐれちゃった!どうしよう・・・」
「迷子、なのか?」
「いいえ、違います!ソリから落ちちゃったんです!クリスマスまでにこの国の子供達の夢を全部聞かなきゃ駄目なのに!」
「は・・・?」
ちょっと待て。
これは痛い云々のレベルじゃないんじゃないのか。
「まさか、あんたはあの有名なサンタクロースなのか!?」
「はい!そうです!有名かどうか知りませんけど!今年初めてお仕事するんです!」
にっこりと微笑んだ少女は「千鶴と言います、よろしくお願いします!」と勢いよく頭を下げた。
「山崎君!本物のサンタクロースだ!」
「斎藤さん、貴方は少し疑うと言う事を覚えた方がいい」
ベコンと頭を下げた際当ったぼんぼんが地味に痛かった事はまぁいいとして、俺は自称サンタクロースの怪し過ぎる少女を警察に突き出すべきか病院に(当然頭の)連れて行くべきか悩む羽目になった。



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