2/3ページ目 「総司ぃぃぃぃ―――!!」 「五月蠅いよ、平助」 「お前また俺の餌喰ったろ!何で俺のばっか狙うんだよ!!」 「え―・・・そんなの、一番獲り易いからに決まってるでしょ―」 「フザんなぁ!!俺の『Dテンダー』があああ!!」 小さな体でキャンキャン五月蠅く吠えているのは柴犬の平助。 今日の朝ごはんはセレブ犬御用達、Dテンダーのビーフ味。 月に数度しか食べられないそれを非常に楽しみにしていたらしい。 すっかり空になった餌入れを前に、瞳をウルウルと潤ませている。 「平助・・・頑張れ」 ポンと小さな肩を叩くのはリスザルの斎藤だ。 「斎藤君・・・ウッウッウッ・・・!」 「五月蠅ぇぞ、平助!!」 「だって!土方さん!総司のヤツ、いっつも俺の餌ばっか狙うだぜ!?ひでぇだろ!」 「総司!てめぇもオウムのくせにドッグフードなんか喰ってんじゃねぇ!!」 ガゥッ!と牙を剥き出す大型犬の雑種、その名も土方に威嚇されようが平気の屁の座で塀にヒラリと飛び乗ったタイハクオウムの総司は尻尾を振って土方達を見下ろしつつ欠伸を零す。 まるで来れるモノなら追って来いとでも言いたげな態度に平助も土方もウガッ!と牙を剥こうとして、諦めた。 どうせ自分達は犬。 鳥のように身軽に塀の上を歩ける訳がないのだから、無駄な努力よりも目先の餌が大事だったのだろう。 総司に奪われた平助はともかく、土方も斎藤も自分の餌を死守すべく餌入れに被り付いた。 「俺のご飯〜〜〜〜」 「あの、平助君。私の食べる?」 「千鶴!ありがとう千鶴!」 俺の味方はお前だけだ―――!! ガバチョ!と抱き着こうとした所、バリンと平助の眉間から鼻先に掛けて鋭い爪が振り下ろされた。 「平助君!?」 「いってぇぇぇぇ!!ちょ・・・!痛いじゃんか!ひでぇよ、山崎君!」 「酷いのは貴方です。いくら柴犬とは言え犬の貴方が彼女に抱き着いてもしもの事があったらどうするんですか」 「だからってさぁ!!」 キラーンと爪を光らせ平助の前に立ち塞がったのはトラ猫の山崎君。 千鶴と呼ばれる小さなトラ猫の保護者のような兄妹のような、そんな猫。 大きな瞳に小さな身体。 ふさふさの毛並みの千鶴とは違い、鋭い眼差し、大きな身体。 トラ猫なのに柴犬の平助と同じ体格ってどういう事だ。 「あの、山崎さん、私なら大丈夫なので、あの、それ位で・・・」 おずおずと前足で山崎の背中を撫でる千鶴に、盾の如く立ち塞がっていた山崎はフンと鼻を鳴らし用無しとばかりに平助から目線を反らすと千鶴の毛並みを繕い始めた。 「所詮弱肉強食の世界、甘い顔をするのは彼の為にならないんだ、千鶴君」 「全くだな、千鶴。平助には俺のを分けてやるから、お前は自分の分をキッチリ喰え!じゃねぇといつまでもチビっこいままだろうが!」 とか吠えながら山崎と共にトラ模様の顔を舐めて毛繕いをしてやる土方も千鶴には甘い。 ちなみにさっきから一声も吠えないが土方と同じ雑種で赤毛の左之助、ブチ模様の新八と言う犬も居たりする。 何故大人しいかと言うとさっさと喰わないと総司に喰われるからだ。 体格では明らかに優っているにも関わらずある意味誰より恐れられている総司。 そんな彼にも唯一苦手なモノがいる。 「総司君・・・また平助君のご飯獲っちゃったの?駄目だよ、近藤さんが言ってたでしょ?皆仲良くって、ご飯の獲り合いは、駄目だよ」 既にそこに居ない総司に向かい、瞳を潤ませる千鶴。 まるで独り言のように聞こえるが実は違う。 じぃっと見上げる塀には、いつの間に戻って来たのかひょこんと総司の赤い尾が揺れている。 「別に、喧嘩した訳じゃないでしょ」 プイっと顔を反らしつつ塀から下りた総司は千鶴の顔をカラフルな翼で一撫でし、平助の餌入れにどこから持って来てどうやって開けたのかDテンダーをコトンと入れる。 「食べる訳ないじゃない、犬の餌なんか」 「ありがとう、総司君!」 千鶴に感謝する謂れはなくても満面笑顔でペロンと顔を舐められて、どこか嬉しそうなのも何時もの事だ。 「総司さん、千鶴君に構って貰う為に平助さんを揶揄うのはいい加減止めませんか」 「山崎君はあれだよねぇ、いっつも千鶴ちゃんの傍にベッタリでさ。そんなにいつも一緒に居て飽きない?こんなちんくしゃのどこがいいの」 とか言いつつせっせと嘴で毛繕いする総司は小馬鹿にした目で山崎を見返し、さり気無く千鶴を遠ざけている。 「失礼な、千鶴君は俺と違ってれっきとした血統書付きです」 「その通り!」 ババン!と効果音も高らかに塀の上に現れたのは見事な黄金色のショートヘアーを持つ猫。 琥珀の瞳がなんとも勝気だが、平助達は見下ろされながらもゲンナリと肩を落としている。 「風間ぁ!てめぇ、性懲りも無くまた来やがったのか!」 「ふっ!当然だ!貴様等のような下等な雑種と共に居ては、下種な生活臭が染みつくだろう!千鶴は高貴な血を持つ血統書付き!俺達と共に居てこそ価値がある!」 バシリと尻尾を振りながら、ふんぞり返ってはいるが決してそこから降りて来ようとしないのは何故なのか。 「風間・・・貴様、土方さん達が恐ろしいなら恐ろしいと、言えばどうだ」 「!!!さ、斎藤!気配も無く俺の上にぶら下がるなっ!!」 「あ、斎藤君は気配が無いんじゃなくて存在感がないだけだから」 「・・・平助・・・」 リスザルの斎藤は、尻尾で枝にぶら下がって登場した訳だが、いつもこんな風に風間にではなく平助に貶されてスゴスゴと樹に隠れてしまっている。 俺は存在感がないのではなく無口なだけだと独り言は風間にしか聞こえていなかった。 その斎藤に憐憫の視線を向けた風間に向かい、塀の下から穏やかな声が掛けられる。 「風間、偉そうに言うのであればたまには塀から下りてはいかがですか」 「だよな、自分は塀の上でふんぞり返ってんだもんな」 「高貴な俺が自ら動く訳が無いだろう、寝言は寝て言え」 いや、お前が。 と半眼で風間を睨み上げるのはアイリッシュセターの不知火と、深い溜息を零し首を振るグレートデンの天霧。 対する風間は確かに毛並みも血統も素晴らしいブリティッシュショートヘアー。 ノルウェージャンフォレストの血統書を持つ千鶴と比べても遜色ない見事な血統だが、いかんせん態度のデカさだけは頂けなかった。 「不知火!千鶴を連れて来い!いいな!!」 「え、きゃ・・・ニャァ―――!!??」 「ち、千鶴ぅぅぅぅぅ!!!」 「待ちやがれ不知火!」 「天霧・・・貴様まで何をやっている・・・」 「すみません、斎藤。夕方までには帰しますので」 バクっと千鶴を咥えて走り去った不知火は、さすがと言うかやはり逃げ足が速い。 大きな背中を思わず見送ってから土方達は我に返った。 「土方さん、迎えに行きますか」 「ちっ!あの野郎・・・!行くぞ、てめぇら!!」 「はぁ、しょうがねぇなぁ」 「千鶴ちゃんも何だかんだで風間と遊ぶの好きだからなぁ」 「左之さんも新八っつぁんも何悠長な事言ってんだよ!もう!」 掛け声だけは勢いが良く、何故か土方も左之助も新八もやる気無さそうにのそのそ歩くだけだ。 平助は一匹慌てているが、その後ろを歩く山崎も何処か呑気に見える。 「行かないんですか?斎藤さん」 皆の一番後ろをゆっくり歩いていた山崎は、樹の上から動かない斎藤に首を傾げて声を掛けた。 斎藤はと言えば難しい顔でぶら下がった身体を左右に揺らし、はっと何かに気付いたのかクルっと塀に飛び移りそのまま道路へと降り立ち土方達を見上げる。 「待って下さい、土方さん」 「どうした、斎藤。早く行かねぇと千鶴を迎えに行くのが遅くなるだろうが」 「その件ですが、千鶴を迎えに行く際、奴らへの手土産のバナナはオヤツに入りますか入りませんか」 真面目な斎藤。 真っ直ぐな斎藤。 曲がった事が嫌いな割に、尻尾はいつも丸まっている。 だからだろうか。 どこかおかしな風に真っ直ぐ育ってしまったらしい。 「斎藤君、バナナはオヤツになるんじゃねぇかな」 「そうか・・・ならば、オヤツの数が減ってしまうな」 「そうですね、ですが千鶴君はバナナよりも焼き芋が好きだったと思います」 「焼き芋は・・・オヤツに入りますか、土方さん」 ここでやっと固まったままだった土方の思考が回復出来た。 慣れているとは言え毎回斎藤の言動は読めない。 恐るべしリスザル。 恐るべし電波斎藤。 「焼き芋は・・・弁当でいいんじゃねぇか」 「そうですか、良かった・・・」 良かった。 心底そう思っているらしい斎藤が向かうのは山。 千鶴がいるだろう風間の飼い主の家でなく山。 何故に山? 聞くだけ馬鹿を見るから敢えて聞かない道を選ぶ土方は雑種と言えど学習する賢い飼い犬だ。 ヒュルリラと秋風の吹く中、山へ向かう斎藤を止める者は誰も居ない。 「ところでさ、焼き芋ってサツマイモでしょ?あれって山じゃなくて畑に生ってるんじゃなかったっけ?」 「それは言ってやらねぇのが優しさってもんだぜ、総司」 「そうそう、畑は大概山の麓にあるしな。結果オーライでいいじゃねぇか」 頑張れ斎藤。 負けるな斎藤。 きっと山の麓にサツマイモ畑はある筈だ! 結局その日、山崎が一匹で千鶴を迎えに行ったところ、不知火と遊び疲れて幸せそうに寝息を立てる可愛い寝顔が見れたそうだ。 ツヅ・・・カナイ! →どうでもいい活かし切れなかった設定とか [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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