逢魔が刻に哭く鴇


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最後に見た時と同じ淡い薄紅の着物と白い袴。
男装と呼ぶには苦しい袴姿を、心の底から男にしか見えない完璧な変装だと思い込み風間や自分を呆れさせた馬鹿な女。
天霧に言わせればどんな姿であっても損なわれない愛らしさ、らしいが単に凹凸も無く色気も無い少年体型なだけだろう。
あれでどうやって子作りする気なんだ。
今更ながらに主の女の趣味を問うてみたい。
お前は幼女、もしくは稚児趣味でもあるのか、と。
勿論そんな事を思っていても決して口に出さない不知火は少しは学習する生き物だった。
(って、そんな事はどうでもいい!どうすんだ、あれっ!!!)
とある筋からもたらされた情報を、まさかしかしいやでもと苦悩の末に自分の目で見て確認するしかないと腹を括り足を伸ばしたそこで。
どこかで見た事のある赤髪と仲良く談笑する馬鹿、もとい千鶴の姿。
本当に何をやってんだ、自分の立場が判ってるのか?判ってないな?判ってる訳がないな、お前はそう言う奴だもんな!!
ちょっと泣きたい、本気であの馬鹿が恨めしい。
これが主にバレたら殺されるかも。
でも影でこそこそ見守る自分よりもっと近くにいるあいつの方が殺される確率としては高いよな?
俺は濡れ衣だ!と思いつつ、どうせ口八丁手八丁で自分のせいにされてボロ屑みたいにされるんだろうなぁ・・・。
そんな遠く無い未来の自分を脳裏に浮かべつつ、探るべきところはキチンと探る不知火は見た目に反してちょっと真面目な側近だ。
その視線の先ではどうやら庭の木々を眺めてのんびり日向ぼっこをする千鶴の髪を、赤毛の男が優しい手付きで梳いている。
どこからどう見ても千鶴を狙う鬼の姿には見えなくて、自分の杞憂が杞憂ではないと知ってしまった。
こうなる事が判っていたから幼い千鶴の記憶を消してまであの男達から遠ざけようとしたのに、その苦労が全て水の泡だ。
(どうする・・・?今ここであいつを連れ帰るのも不可能じゃねぇが・・・)
千鶴は風間家次期頭領の千景と、来月にも祝言を挙げて夫婦になる。
そうなれば今のように好き勝手に出歩いたり、まして人の世界を垣間見る機会など永遠に失われてしまうだろう。
どんなに本人がそれを望み風間が許したとしても周りの環境がそれを許さない。
『風間家頭領の奥方』であり『雪村家最後の純血種』としての立場が許してはくれない。
それが解っているから、随分楽しそうに笑い声まで上げる姿にもう少しこのまま好きにさせてやりたいとも思う。
(千鶴の奴、マジで楽しそうだな。あいつが見たら血管ブチ切れるんじゃね?)
くっと喉の奥で笑いを零した時、見下ろした先で赤毛の男がこちらに視線だけ寄越した。
目が合った、と思った途端背筋にゾワリと鳥肌が立ち咄嗟に腰に携えた銃に手が伸びる。
射殺しそうな視線は風間の専売特許かと思っていたがそうでもないらしい。
睨み合っていたのはほんの数秒だったが、赤髪の男がこちらを威嚇の為だけに睨んできたと言う事実にやはりと溜息が漏れる。
(くそ・・・面倒な事になっちまって・・・どうすんだよ、千鶴?)
呑気に談笑を続ける主の許嫁を一瞥し、肩を竦めてその場から立ち去った。



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