逢魔が刻に哭く鴇


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屋根裏から見下ろす広間に現れたのは、黒髪を高く結い上げ男装をした小柄な少女。
この自分が見間違う筈がない。
今は袂を分かつ幼馴染みの少女の事を。
確か今は風間との婚礼を控え郷で大人しくしている・・・筈じゃなかったのか風間!
何故、どうして、何があった!!
阿呆のように同じ言葉がぐるぐる脳内を駆け巡っている屋根裏の存在に気付かれないまま、広間では幹部が揃って再会を喜んでいる。
「本当にお久し振りですね、千鶴君。急に姿が見えなくなって、随分捜したんですよ」
「はぁ・・・」
「今までどうしてたんだよ?俺等すっげぇ心配したんだぜ?」
「・・・ごめんなさい」
「まぁそう言ってやんなよ二人とも。こうして無事に再会出来たんだからいいじゃねぇか、なぁ千鶴」
「そうですね・・・」
上から見てるだけでも解る。
本人何の事だかさっぱり解っていない。
自分は当時の事をよく憶えているが(風間が烈火の如く怒り狂って周りに当たり散らしていたせいで。被害の大半は主に自分と不知火が被っていた)本人はその時の事を全く憶えては居ない。
幼かった千鶴と彼等の間に何があったかは知る事は出来ないが、どうせあの天然呆けの事だ。
要らぬ事をやらかして気に入られたに違いない。
(これはもしや余計な仕事が増えるんじゃ・・・)
勘弁してくれとちょっと泣きたくなった。
「千鶴、昔の良しみだ、今夜の事は他言無用にしてくれねぇか?」
「えっと・・・それは・・・」
(だからそこは大人しく『はい』だ!『はい』!!)
「千鶴ちゃん、俺等も無闇に粛清したりはしねぇんだ、けどあいつ等は隊の規律を犯して人を喰い殺しちまった。そんなのを野放しにゃ出来ねぇだろ?」
「あ、はい、それはそうですね」
「じゃあ黙っててくれるか?」
「はぁ・・・判りました」
土方の念押しにこっくり頷いた千鶴に、その場に居た全員が(屋根裏も含む)ほっと安堵の息を漏らした。
が、続く言葉にぎょっと目を剥いたのは一人ではない。
「まぁ、そうは言ってもこのままお前を帰してやる訳にゃいかなくてな。悪いが暫く此処で監視させてもらう」
「え!?」
「土方さーん、監視とか言い方悪いじゃん!普通にまた一緒に暮らそうぜって言えばいいだろー」
「そうですよ、土方さん。監視なんて必要ないでしょう、千鶴ちゃんには。だよね?そんな事しなくても一度した約束は絶対破らないよね?」
「はい、約束しましたから、絶対言いません。だから帰してくれませんか?」
真っ直ぐに土方を見返して多分無理だろうお願いをしてみるが、返って来たのは数本増えた眉間の皺だけだった。
これはどうやら帰して貰えそうもないと諦めた千鶴はこっそり溜息を吐き出し、窓から見える空を見上げて今頃怒り狂っているだろう許嫁を思い出す。
(怒ってるんだろうなぁ・・・。匡ちゃん、ごめんなさい)
そこで出てくるのが不知火な辺り風間の怒りの矛先がどこなのか千鶴もよく判っているのだろう。
はっきり言って敵だらけの中でもどこかのほほんとしているのはすぐに風間が迎えに来てくれると信じているからか何も危機感を抱いていないのか。
(後者な気がするのは俺だけか)
かくして、天然炸裂な幼馴染は新選組に虜囚の身となったのだった。




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