薄桜鬼

ゆかり様リク〜山崎×千〜
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益々黒く翳り小雨を降らせ始めた空に駆け足になった俺は、目指す先に途方に暮れて佇む人物を見つけ顔を緩めた。
「雪村君!」
「っ!?や、山崎さん!?」
軒の下で雨宿りする彼女の名を呼び近付くにつれ、彼女の強張っていた顔も綻んでいくのが判る。
ほっとしたような、泣きそうな複雑な顔で笑う彼女に手を差し出し、もう片方の手に持っていた蛇腹を示した。
「迎えに来た」
「ありがとうございます・・・!・・・あ、れ?でも、山崎さんは、この後・・・お仕事ですか?」
「いや?違う。君と屯所に戻るだけだ」
「で、でも・・・蛇腹が一本では・・・」
「ああ、大丈夫だ。こうすれば、一本でも平気だろう」
蛇腹を広げた下に彼女を導き、雨粒がかからないよう肩を寄せ合う。それだけで頭一つ低い位置にある彼女の頬が朱に染まった。
あまりに可愛らしい変化に込み上げる感情を抑えるのが難しいというのに、そのまま雨の中足を踏み出した彼女は俯いたまま何度も視線を俺へと向ける。
正確には、蛇腹を持った手と持っていない方の手へ。
手持ち無沙汰な彼女の手は忙しなく組んで解いてを繰り返し、戸惑うように宙を彷徨いまた組まれる。
思わずクスリと笑みが漏れるのも仕方無い事だろう。
「たまにはこうして並んで歩くのもいいだろう?滅多に二人で過ごせる事もないしな」
「はい・・・。あの、ありがとうございます・・・。嬉しいです、山崎さん、いつもお忙しいから・・・」
俯いたまま紡がれた言葉に、俺が感じていたより随分寂しい想いをさせていたのだと気付いた。
俺もまだまだ修行が足りないと言う事か?惚れた女にそんな想いをさせるとは・・・。
今回は副長に感謝しなくては。
「すまない、寂しい想いをさせているな」
「いえっ、そんな・・・!お仕事だって判ってますから・・・!こうして、時々一緒に歩いて下されば、私はそれで充分です」
「・・・俺は、物足りない」
「え・・・?」
「俺は隣を歩くだけでは足りない。もっと共に過ごして、もっと君に触れたい。そんな風に思う俺は嫌か?」
「嫌だなんて・・・そんな訳・・・」
小さく消えた声音は、雨の中じっと見つめる俺の視線に気付いたからだろうか?
更に赤く染まった耳朶に触れ、かきあげた前髪に隠れていた瞳が潤んで俺を見上げる。
「嫌じゃないか?嫌でないなら、出来るなら少しだけ・・・回り道をして帰りたい。ほんの少しの時間、二人で」
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