薄桜鬼

真田丸様リクエスト〜左×千〜
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【君の隣、貴方の隣】


長く大きな影が広い校庭に射す頃、夕陽が射し込む教室で俯く少女が一人。
机の上に開かれた教科書とノートは最初のページから一向に進んだ気配はない。
少女の視線が注がれた教室の床は、あまりにもじっと見つめられたせいで穴が開きそうな程だ。
「ふ・・・」
微動だにしなかった少女から、漸く漏れたのは短く小さな溜息だけ。
翳った瞳に力はなく、憂いを帯びたそれは少しばかり潤んでいるようにも見える。
パタンパタンと力無く教科書とノートを閉じ、丁寧に揃えた上に両手を置いた彼女はそのまま動きを止めた。
「まだ残ってたのか」
「きゃぁっ!?」
前触れ無く掛けられた声に跳ね上がり悲鳴まで上げた少女に、声の主である原田左之助はパチパチと目を瞬いた。
「おいおい、俺はお化けか変質者か?そこまで驚く事ねぇだろ?」
「原田先生!すみません・・・!」
「ああ、いいっていいって。急に声掛けた俺が悪かった。一応ノックはしたんだぜ?」
「そう、なんですか?全然気付きませんでした」
「随分難しい顔してたな。判らない問題でもあったのか?」
既に閉じられた教科書とノートに目を留め、少女の前の席に腰掛けた原田は少女の目を見つめる。
見つめられた少女は僅かに頬を朱に染め、無言のまま被りを振った。
「そう言う、訳じゃ・・・」
「だったら、こんな時間まで一人で何してたんだ?平助も総司も居ないみてぇだし、珍しいな」
「・・・」
なんて事のない疑問に対し、無言で俯いてしまった少女の様子に原田は内心舌打ちしつつ小さな頭をそっと撫でた。
少女に見えない顔を少し顰めて、何かを堪えるように唇を噛み締めて。
「悪い、千鶴にそんな顔させてんのは、俺だったな」
囁かれた言葉に弾かれ顔を上げた千鶴と呼ばれた少女は、大きな瞳を更に大きく見開いて口を開く。
「ちが・・・先生のせいじゃ・・・!私、が・・・我慢、しなかったから・・・!」
入学して半年も経たない間に芽生えた幼すぎる恋心を持て余し、その対象であった原田に想いを告げたのは3ヶ月以上前の事だ。
思春期特有の一過性の擬似恋愛だと相手にしなかった原田が、そうではない真剣な想いに惹かれるまでそれ程時間は必要無かった。
『卒業するまでは教師と生徒のままで』
そう彼女にも自分にも言い聞かせ、今までと変わらない距離を保とうとしたのは自分なのに。
学園にたった一人の女子である千鶴は見た目も中身も可愛らしく、そんな彼女に言い寄る存在の多さに苛立だしさだけが募る。
隠そうとしても隠し切れない悋気に鈍いようで鋭い彼女が気付かない訳はなく、だからと言って表立って独占する事も出来ないジレンマに些細な言い合いまでしてしまった。
千鶴の瞳に映る翳りは自分のせいだと判っているのに、何も出来ない立場が憎らしくなる。
今も俯きながら自分を伺う彼女の握られた拳が僅かに震えているにも関わらず、大丈夫だと包んでやる事も出来ない。
それが、歯痒くて、情なくて、足掻く自分が余計に彼女を不安にさせてしまっていると言うのに。



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