クローバー 〜1〜

泣く

「志乃さん…」
志乃はたけるの膝に手をおき、体をそっと近づけた。
するとたけるは爆笑した。
「へっ?」
志乃はきょとんとした顔でたけるを見た。
「いやぁ!生は凄いリアルですね」
志乃の頭の中で「?」が渦巻いた。
「今やってるドラマで似たようなシーンありましたよね」
志乃は失敗したと感じた。
「ん…あぁそうね。それで、主役の彼と結ばれてね」
「ずっと見てますよ。そういやもうすぐ始まりますね。見ましょうか!酒も少し持ってきます」
たけるは立ち上がり台所に立った。
たけるは本当はわかっていた。
志乃さん…なんで急に…
こないだからなんか少し様子おかしいんだよな…
たけるの頭の中には、体を近づけてきた志乃を晴子に置き換えて考えていた。
俺、本当最低だな…
頭の中から晴子の事を排除しようと思えば思うほど、どうしようもなく晴子の事が頭から離れなかった。
ピンポーン
チャイムがなり、たけるはドアをあけた。
「ゆう…どうしたんだ?」
ゆうは玄関の靴を見た。
「志乃…?」
「あぁ、中で飲んでるよ」
ゆうは無言のまま靴を脱いだ。
たけるはゆうの頬が少し腫れてるのに気が付いた。
「ゆう?」
たけるはゆうの腕を掴んだ。
「顔…どうしたんだよ」
「会ってきたよ」
「誰に?」
ゆうはまっすぐたけるを見た。
「たける君が好きな子」
たけるは一瞬その言葉に胸が締め付けられそうになり、晴子の笑ってる姿じゃなく泣いている顔がよぎった。
「会ったって?」
すると部屋から志乃が話しながら歩いてきた。
「たける?だれがきたの?…ゆう…」
ゆうは志乃を無視して言った。
「川原晴子。たける君あの子の事が好きなんでしょ?」
ゆうは泣きそうなのを抑えながら力強く言った。
「……好きだよ」
「えっ?」
志乃が驚いて固まった。
「だったらなんでこんな所いんのよ!
ゆうは、ゆうはたける君の事好きだけどっ、好きだから、好きだから自分の事思ってくれなくったって、たける君が嬉しそうに楽しそうにしてくれたらそれでもういいよ!
だから高校ん時だって、志乃が好きだって言われた時!
ゆうは泣いたよ!家で散々泣いたけど、たける君に笑っていて欲しかったから……だから協力するって言ったんだよぉ!
ゆうだって、本当は好きになって欲しいよ!
そしたら…そしたらゆうは絶対幸せにしてあげるのに…なんで?なんでなの?…」
泣き叫ぶようにゆうの姿を見て、たけると志乃は何も言えずただテレビの音だけが響いていた。




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