クローバー 〜1〜

ゆくえ

「申し訳ございませんでした」
晴子は凛々に頭を下げた。
凛々は台本に目を通しながら言った。
「もういいの?」
「はい」
晴子は役をおろされる覚悟でいた。
「じゃあ、このシーンからやるから用意しな」
「いいん…ですか?」
「何がよ」
「一週間も稽古休んだんですよ?あたしおろされる覚悟で…」
「……やりたくないの?」
晴子はハッとした。
「いえ、やります。あたしの役ですから!青木の役、やらせてもらいます」
晴子は振り返りストレッチを始めた。
あたしは役者!
今はこの役を自分のものにしないと。
凛々の言葉に、たけるの事は頭の中から消えていた。
いや、消していた。
晴子は今まで解釈出来なかった部分も、かけあいをはじめ、いろんな部分がとれた事により、より役にはいりこめた。
こんな感覚…なんか初めてだ…
役をやる充実感でいっぱいになっていた。
あと一週間で本番…
もうやるしかないんだ。
晴子は割りきろうとしていた。
その頃たけるは黙々と作品に打ち込んでいた。
しかし、何行、何行パソコンに打ち込んでも納得いかず全て消していた。
「あああああああ!!!!」
うなだれるようにベットに横たわった。
無音の外を眺めると綺麗な赤色に染まっていた。
もう夕方だったのか…
たけるはフラりと外へ出た。
川べりを歩るき、草の上に寝転がった。
暗くなりかけている空を無言で眺めていた。
ふと横を見るとクローバーがあった。
たけるは起き上がりそっとクローバーを手にとった。
微かにクローバーが夕日により赤く染まった。
「四葉のクローバー…」
たけるはクローバーを眺めていた。
するとそれにかぶさるように影が重なった。
顔をあげると勝が立っていた。
「探したよ…」
「勝」
勝はたけるの隣に座った。
「クローバーか?」
勝はたけるの手元を見て言った。
「あぁ、しかも四葉。いいことあるかもな」
そういったたけるはあきらかに力なさげだった。
「たける」
「ん?」
「お前、素直になれよ」
勝はまっすぐ前を向いて言った。
「………素直…か」
「晴子ちゃん頑張ってるよ。だけどな」
「だけど」
「俺や真理ちゃんからしたら無理してるように見えるんだよ。本番まであと少しなのはわかるがその入れ込みようが、逆に怖くてな。俺等にはいつも大丈夫って笑うんだよ。でも…」
「でも?」
「目が……」
たけるは想像出来た。
「帰ってこいよ。晴子ちゃんの事、ちゃんと支えてやれよ。あの子は俺らの前だと無理するんだよ!わかってるんだろ?」
たけるは無言になった。
「なぁ!たける」
「………今は無理だ」
「なんでだよ」
たけるは立ち上がった。
「俺は俺で考えがある」
たけるはその場を去ろうとした。
「後悔したって知らないからな!」
たけるは振り返らず立ち止まった。
「それならそれで仕方ない」
勝はムカついて、たけるの肩を掴み振り向かせおもいっきり殴った。
「カッコつけてんじゃねーぞ!小説にいかせるとか思ってんじゃねーのか?そんなんで生かせねーぞ!お前は絶対間違ってるからな」
勝はたけるを越え歩いていった。
「っつー!…あいつ、自分の力が強いってわかってんのかよっ………ははっ、あははははは」
たけるは倒れ込んだままいつまでも空に向かい笑っていた。




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