クローバー 〜1〜

大人の時間

授賞式を終え、控え室へと戻った。
コンコン
扉をあけると志乃がいた。
「志乃さん、本当に久しぶりですね」
「これから予定ある?」
たけるは帰る準備をしながら言った。
「いや、特に何もないです」
「あたしも仕事ないんだ。どう?」
志乃は飲む仕草をした。
「いいですよ」
たけるはにっこり笑った。
そして…
二人はバーに入った。
「いらっしゃいませ。森口様…どうぞ」
二人は個室に通された。
「よくくるんですか?」
「まあね」
先にたけるが座ると、向かいではなく隣に腰かけた。
たけるはちょっと違和感を感じながらも話始めた。
「志乃さん、最近は女優業も凄いですね。こないだの映画見ましたよ」
志乃は髪をかきあげ、脚を組み換えた。
「ありがと。あたしなんかより、たけるのが凄いよ。
ちゃんとは全部読んでないけど、主人公に女の子持ってくるの初めてじゃない?…まぁ最近の話、知らないけど」
たけるは少し照れながら言った。
「今住んでるアパートの向かいの女の子がモデルなんです」
志乃はピンときた。
「彼女?」
「あっ…いや…そういうわけじゃないんです」
志乃はカクテルを飲みほし、軽く微笑んだ。
「今どき……片想い…とか?」
たけるは笑いながら遠くを見た。
「まぁ…そんな感じですかね」
「覚えてる?」
「何を…ですか?」
二人は向かいあったまま見つめあっていた。
お互い表情はなくただ見つめあっていた。
志乃が軽く笑ったのを見て、たけるは目線を外した。
「たける…変わらないね」
「そうですね…」
たけるはグッと酒を飲んだ。
「たける…」
志乃はたけるの膝に手をおいて体を近づけた。
たけるは顔を背けると、志乃はたけるの耳をかんだ。
「志乃さんっ、あのっ、ダメです」
「何が?」
たけるは席を立った。
「志乃さん、酔ってますよ!送りますから帰りましょう」
志乃はもういっぱい飲みほした。
「いや」
「志乃さん」
「もう少し飲もうよ。イタズラしないからさ」
たけるはおいては帰れないと思いまた席についた。


「まだかなぁ…」
晴子は月明かりに照らされたクローバーを見つめながら、たけるの帰りを待っていた。




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