クローバー 〜1〜

切り替え

集中しなきゃ
晴子は広子を見て、気持ちを切り替えた。
帰る道も、頭の中は芝居一色だった。
アパートの前に、見知らぬ人々がいた。
「あのぉ、何か?」
晴子は恐る恐る声をかけた。
「ここのアパートの方ですか?」
「はい…」


「親父!どういう事だよ!」
たけるはエスミュージックにいた。
「電話でも言った通りだ。ここをお前に渡す」
「何回も言ってんだろ!俺は継ぐ気はない」
「自称小説家で食っていけると思ってるのか?一流大学を出て、あんなボロアパートに住んで…もう随分遊んだだろ?週刊誌にあんな記事も出たんだ。せっかくここをやろうと言うんだ。小説なんて趣味でひっそり書けばいいだろうが」
たけるはテーブルに叩きつけた。
「言っただろ?継ぐ気はないって!」
父親に雑誌を見せた。
「なんだこれは?」
「魚猫賞の結果だ!特別賞をとった。明日俺は授賞式に行く!作品がこの雑誌に連載される事も決まっている!このまま俺は、仕事として小説を書いて行く!……やりたい奴にやらせろよ」
たけるは雑誌を投げつけ、部屋を後にした。
エスミュージックを出ようとすると、志乃とすれ違った。
『あっ』
お互い振り向いた。
志乃は一瞬唇をあげた。
「久しぶり、元気だった、たける?なんかゆうと噂になってるけど、何にもないのに大変ね」
「志乃さん…いやっ、大丈夫だよ。じゃ」
志乃はたけるの腕を掴んだ。
「ねぇ、今度暇な時ご飯でもどう?」
「あっ、はい」
たけるは会社を後にした。
「クスッ……あたしのが上だって見せてあげるから…」




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