クローバー 〜1〜

渦巻いてゆく

テレビのワイドショーで放送される密会話。
初スキャンダルに、事務所側もてんやわんやになっていた。
しかも相手がエスミュージック次期社長!と書かれていた。
「ゆう!たける口説き落とせたの?」
ゆうが振り向くと、森口志乃がいた。
「志乃…」
「どうなの?」
ゆうはふてくされた感じに言った。
「無理!」
「プッ!あんなに自信満々にそろそろ落とすとか言ったくせに、あはははは」
「じゃあ志乃がやってみなさいよ!こんな記事…余計惨めになるだけよ」
雑誌を叩きつけた。
「あたし?たけるから口説かれた事あるんだよ?そんなのあたしが付き合おうっていや付き合うんじゃない?」
「たけるは今好きな奴がいるって言ってたわよ」
志乃は雑誌を拾い上げ、ゆうの隣に座った。
「まぁ、ゆうじゃダメよね。昔から妹的扱いだったじゃない」
「志乃も無理だと思うけど。…たしかに昔なら志乃がオッケーしたらたける君もオッケーだったと思うけど……ゆうは…」
志乃はゆうを馬鹿にするように見た。
「あんた、いくらでも口説き落とせるような事いいながら…マジなんだ。ふぅん」
志乃はジッと雑誌を見た。


稽古場に訪れた晴子は、週刊誌を見る先輩に軽く挨拶をしたが、その視線の先に複雑なものを感じていた。
たけるさんと…樫本ゆう…
すると後ろから中島凛々が現れた。
「あんた達何見てるのよ」
凛々は、たけるとゆうの記事を見た。
「なんか今朝テレビでやってたね」
「中島さん!エスミュージックと交流あるんですよね」
中島さん、去年演出した舞台って、たしか森口志乃が出てたんだ…
「あぁ、志乃ちゃん?そういや樫本ゆうとは同じ学校だったらしいよ。初日に樫本ゆうが見にきて挨拶された時言ってたよ」
「へぇ」
「それより、本番まで時間ないし、そろそろ始めるよ」
晴子は、頭の中は週刊誌の記事の事でいっぱいだった。
「身が入ってないわよ」
休憩中に座っていた晴子に、仁王立ちで広子が言った。
「やる気ないんならやめな」
晴子はハッとし、唇を噛み締めた。
「大丈夫です。やれますから」
晴子は素早く立ち上がり、広子を強い眼差しで見た。




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