クローバー 〜1〜

正体

「あちゃ〜、こんな時間だよ…」
時計は4時をさしていた。
晴子はのたうち回っていたが、布団の中でごろごろしてるうちに寝ており、気が付くと夕方の時刻になっていた。
「あたし眠れないって思いながら何時間寝てるんだよ…」
コンコン
扉をノックする音が聞こえ、半分寝たまま扉をあける。
「何回か、ノックしてたんだけど、今起きたんだね」
バンッ!!!
おもいっきり扉をしめた。
外に立っていたのはたけるだった。
「ちょおっっと、待って、まっ…待って下さい!」
一気に目が覚め鏡を見ると、かなり酷い状態。
髪ぐちゃぐちゃだしぃ!!
「晴子ちゃん、そのままでいいよ」
「はい?だっ、あっ…はい、はい!なんですか?」
「俺、しばらく実家帰るから…だから、いないから…そっ、それだけなんだけど、一応晴子ちゃんにはちゃんと伝えておこうかと思って」
実家に…帰る?
いなくなる…
晴子は、自分の今の姿も忘れたままおもいっきり扉をあけた。
あまりにも勢いよく開けすぎたので、たけるの顔面におもいっきり扉がぶつかった。
「っ、つー」
「あたしまた!ごめんなさい!すみません!」
「ん、やぁ大丈夫だよ!大丈夫!ここ、扉考えた方がいいよね」
「本当…すみません」
二人は目があい、ほんの一瞬だけだが、なんだか二人には物凄く長い間見つめあってるように見えた。
するとたけるは笑顔になり、つられて晴子も笑顔になりかけた瞬間、たけるは吹き出した。
「へっ?」
きょとんとたけるを見つめたが、すぐに自分の姿を思いだした。
「あっ、いや、その」
「ごめん笑って!寝てる時なんて皆そんなもんだよ」
あっ、いい人だ…
「じゃあ行ってくるね」
そう言って晴子の顔を軽くつまんだ。
たけるの笑顔だけど、なんだか寂しげなようなせつなげに見えるような、なんとも言えない表情がやけに気になっていた。
まだちゃんとは返事してない…
うやむやのままだよ…
廊下で立ち尽くしていると、真理が上に上がってきた。
「ブッ」
「へ?」
真理が吹き出したのを見て、自分の姿を思いだした。
急いで部屋へ入ろうとしたら、真理が扉を制した。
「こっ、これ!」
真理の手元を見ると、貸したCDだった。
「あぁ!もういいの?」
「おとしたから大丈夫です!…それにしてもよく寝てましたね…昼にも一回きたんですけど、一瞬出かけてるのかと思いましたよ」
「ごめんね…」
真理と話をしながらも視線の先は階段を降りたたけるの影をおっている。
それに気付いた真理が言った。
「下田さん、また実家で揉め事あったみたいですけど、いつも2、3日で戻られますよ」
「…よくあるの?」
「まぁ長男ですしね…下田さんに継ぐ気はなくても、周りはね…そりゃ問題もたくさんありますでしょ」
晴子は疑問が頭の中に渦巻いた。
「ごめん、意味がわからないんだけど」
「あ…知らないんですね。下田さん、エスミュージックのトップの息子さんなんですよ?」
「エスミュージックって…樫本ゆうとか、森口志乃とかいる?」
「そうですよ…」
晴子は手に持っている樫本ゆうのCDをずっと見ていた。




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