a childhood friend

最後

12月24日。

毎日塾や受験勉強で忙しい。
孝平君とは、校内放送のあとそのまま学校で話したり、休みの日にたまに出掛けていた。
名前を木谷君から孝平君と呼ぶようになり、また周りから白い目で見られ、加奈子に冷やかされた。
今日は学校帰り、孝平君のリクエストにより、動物園でデートだ。
正直行きたくなかった。
付き合ってはいたが、ふとした時に和くんの顔が浮かび、胸が痛む。
動物園…
やだな…
でも孝平君の明るい面白い話を聞くと、思わず笑ってしまう。
こんな友達最高…だ……
違う、付き合ってるんだよ、あたし達。
「見て、由香ちゃんパンダ!」
「…うん!寝てるのも可愛いね」
邪念捨てないと。
「見て見て!孝平君!キリン!食べてる食べてる!」
「そういや知ってる?キリンの寝る時!」
「えぇ?何言ってんのよ!自分が言ったんじゃん、かず……」
あたし…今…
「…由香ちゃん…」
「あっ…」
視線をそらした。
あたし…
「由香ちゃん…僕の事彼氏って思ってる?」
「おっ、思ってるよ」
「じゃあキスしよ」
キス…
ここで?
孝平は、由香にキスをしようとした。
由香は顔をあげる事が出来なかった。
「由香ちゃん…」
無理だ。
あたしやっぱり無理だ。
和くん以外の男の子といても、「和くんだったら」「和くんは」「和くんなら」「和くんが」
全部それで気が付いたら考えてる。
無理だ。
無理なんだ。
たとえ和くんがあたしの事をどんな風に考え、どんな風に思ったにしろ、あたしはもう和くんじゃないとやっぱり…
「孝平君ごめん。あたし!」
孝平は由香の口に手をあてた。
「もうそれ以上いいよ。……夢叶ったし」
「夢?」
「小さい頃から、動物園へ好きな子とデートするの夢だったんだ。小学生の時は好きな子にそれを言ったら『くさいからやだ』って言われて」
「ぶっ!あはははっ」
二人で笑った。
しんみりした暗い雰囲気なのにおかしかった。
これが彼の優しさだ。
「だからいいよ。一緒にいて、君が僕をやっぱり友達以上に見てない事…気付いてたし」
「孝平君…」
「今までありがとう。ちゃんと素直になりなよ。膨れるんじゃなくてさ」
そう言い残し、孝平は帰った。
その後ろ姿を見送りながら、由香はいつまでも「ありがとう」と呟いていた。

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