イ・ケ・メ・ン

泊まっちゃいますか!

時計は今日を終わろうとする時間に差し掛かり、さすがに移動した疲れもあり、寝てしまおうと加奈子は思っていると、電話がなった。
「もしもし」
「もう、寝てたりした?」
準一だった。
「今寝ようかと思って。今日は無理なんだよね」
あきらかに残念だと言う暗いトーンで言った。
「あっ…いや、一応来たんだけど、やっぱ非常識だよね。
僕、帰るよ」
そう言われ、あわてて電気をつけ、窓をあけた。
すると玄関に準一が立って、加奈子の部屋を見上げている。
「じゅん!待って!」
そう言うと電話をきり、加奈子は玄関へ急いだ。
パッ、パジャマだし私…
玄関前の鏡に向かって、ニコッと笑って見てからゆっくり扉をあけた。
「ごめんね、加奈子。顔見れたし、やっぱ帰るよ」
加奈子は準一の服の袖を掴んだ。
「そばにいてよ。帰らなきゃいけないの?」
少し沈黙があった後、準一は言った。
「そばにいるよ」

そう言われ、大きく加奈子は頷いた。
部屋に招き入れたものの、眠くてアクビが出た。
「加奈子、疲れてるんじゃない?朝までそばにいるから、寝なよ」
そう言われ、自然とベットに入った。
「寝る場所ないよね」
まさか泊まるなんて考えてなかったので、布団をひいてるわけではない。
起き上がりベットから出ようとしたら準一が止めた。
「いらないよ。こうして…」
言葉の途中で加奈子の手をとった。

「手、繋いでる。夏だし、大丈夫だよ!それに僕がこうしたいんだ。電気…消すね」
そう言うと準一は電気を消した。
「まるで風邪ひいた子供みたいだよ、私」
「そうだね。でも風邪ひいたら、僕がその風邪もらってあげるよ」
加奈子は赤くなって笑った。
暫く見つめあった後、準一が口をひらいた。
「夢みたいだよ」
「何が?」
「ずっと好きでいた加奈子が、こんな近くにいる。
友達になれて、話せただけでも嬉しかったのに、付き合えて、それに僕の事…好きって言ってもらえて…一生分の運、使ったかな?」
じゅん……
そんなに私の事…
「凄く嬉しい。ありがとう、じゅん。私…じゅんの事、ちゃんと好きだよ」
そう言うと加奈子は体を起こし、準一の頬にキスをした。
「キスしちゃった!おやすみ」
そう言って頭から布団をかぶり目を閉じた。

キッ…キスされた…
照れながら半笑いになり、いつまでも頬っぺたを押さえていた。

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