イ・ケ・メ・ン

帰り道です!

面接はアイドルスマイルでのりきり、バイト初日。
はっきり言って初バイト。

何がなんだかわからないし、超込み込みな店内に、ラブラブバイトなのに、お金もGET!くらいに思ってたのに、ついてくのに必死で、ぐちゃぐちゃになりそうだった。
あぁぁぁぁぁぐったり。

着替え終わり、疲れきった顔で店を出ると準一が立っていた。
こちらに気付くとにっこり微笑んで近づいてきた。
「疲れたよね?送るから、帰ろう」
あぁぁぁぁぁ!
疲れてるけど!!!
キターー――――!
体はテンションあげられないが、心はMAXに上がっていた。
「ありがとう」
平静を装いながら歩き出した。
すると準一は自転車を持ってくると照れながら言った。
「後ろ、乗りなよ」
あぁぁぁぁぁ!
そっちですかぁぁぁ!
無言で照れながら乗り、走り出した。
あ゛っ……
ヤバい……
最近太ったんだ。
重いかな?…
でも今日こんなに動いたんだから、痩せてるハズ!

そんなかわらんだろ。

ん?なんか聞こえた気がするけどいいや。
二人で風をきりながら走った。
「夜はまだ暑さましだね」
自転車をこぎながら準一は言った。
「うん…」
小さく答えた。
本当に風がふいて、暑いけど、気持ちいいな…
会話を交わすことなく、自転車は進んでいった。
準一と家との分かれ道にさしかかり加奈子は降りた。
「 あと少しだからいいよ」

そう言いながら、足は進めずにいた。
準一も進むことなく沈黙してしまった。
準一がなんとか話題を出そうといった。
「そういやなんで自転車のんないの?」
言われて止まってしまった。
「のっ、乗れないんだ。実は」
そうなんです。
乗れないんです。
小さい頃挑戦したんですが、乗れないんです。

だから学校も、遊びも、バイトも歩きです。
さすがに小学3年くらいでコマありもヤバいので、自転車買ってもらえないと言う設定を勝手につけて、
いつも小学生の時、皆が自転車の中後ろから走ってました。
そのおかげで、長距離走は得意ですけど。

するとふっと笑って準一がいった。
「そっか…なんなら練習する?後ろ持つよ」

こんな話、中学で由香と知り合い、話した時は
「マジで?今どきいんの?そんなヤツ」
と大爆笑された。
笑われる覚悟で言ったので、その優しさにキュンとした。
「わっ、笑ってもいいんだよ!」
そう言うと不思議そうに切り返した。
「なんで?人間誰だって苦手なもん1つや2つあるだろ?そんなことで笑わないよ」
なっ、なんてできた人間なんだ!
私なら確実に、逆の話なら爆笑してバカにしてる。
こんなに正反対なのに、こいつなんで私なんか好きなんだ。
思わず口に出た。
「なんで、私の事好きなの?」
やばっ…
準一も驚いたが、照れながら答えた。
「前にも言ったけど…でもあれからまたこうやって、仲良くしてまた、いろんな一面見ていいなって思ったんだ…」
自転車をとめて、準一は改めて体を加奈子に向けて言った。

「友達でいいなんて言いながら、こんなことまた言うのおかしいけど、僕……やっぱり加奈子の事、友達には見れないんだ。好き……なんだよ」
そう言われ、胸が締め付けられそうになった。
「わっ、私も………」
もの凄く小さな声でうつむいて言った。
「すき」
雲一つない、三日月が輝いた綺麗な夏の夜空の1ページだった。

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