こいびと

遥か彼方。

「ごめんなさい、しっ失礼しました」

そう言うと彼女は走り去った。
女を振り払い彼女を追いかけようとした。
「行かないで!行くならあたし、死んでやるから!」
ビックリしてしまい、立ちすくんでしまったが、彼女を追いかけようと見たらもう姿は見えなかった。

深くため息をつき、哀れむように冷めた口調でいった。
「そんな事してなんになるんだよ。自分の事、もっと大切にしろよ。
オレは…あの子以外に恋愛感情は抱けない。
お前がどうしようとも、どうする事も出来ないんだ。
たしかにお前には今思えば嫌な思いもさせたと思う。
お前が終わった事だと思えないなら、どうして欲しい?」
まっすぐ見つめ強い視線で言った。
「今日この誕生日あたしにちょうだい。今日付き合ってくれたら…忘れるから」
誕生日…忘れてたよ。
断ったらこいつが今何をするかわからない。
でも…
「あたしのうちで!」
彼女の声が頭に響いた。
「わかった。今日限りだからな」
走り去った彼女が脳裏に焼き付いて、声は離れなかったが、腕をくまれ歩きだした。

心を遥か遠くに残したまま。

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