あたし+僕=何?


「明日仕事は?」
「納入あるから、六時には起きるつもり。チカさんはどーぞ寝ててください」
もうすぐ二十歳になるあたし達。
あたしは、ファーストフードの店員。
恵は、繊維工場で働いている。
説明をされてもいまいちよくわからないので、いつも脳内でスルーして説明を聞いている。
本当はこの部屋には、違う人間が住んでいた。
あたしは家を出たくて、その時たまたま空いたスペースに入っただけ。

空いたスペース

確かめるのは怖いから、今まで聞いた事はない。
「一人鍋ってのもあるけど、二人もなんか変だね」
「チカらしくない発言だねぇ。一人のが、気が楽なんていつもいってるくせに」
「べ、別にあたしは今でも一人のがいいに決まってんじゃん!たまたまなんだからね?たまたま・・一緒に暮らす事になったから」
「泣きついてきたくせに」
「泣いてない」
「泣いてた」
「泣いてない」
「泣いてましたよ・・・プッ、あははは」
本当は、まだ嘘がある。
でも、人間開けてはいけない扉や、わかってても開けないほうがいい扉もある。
恵は絶対無理には開けない。
だから、あたしも・・・・開けないんだ。


ファーストフードで、ジュース片手に試験勉強。
「う・・・ん。樋渡先生の問題は、引っ掛けが多いから・・」
隣でノートを広げる恵。
「いいの?」
「何が?」
顔をノートに向けたまま答える。
「だからさ・・彼女いんでしょ?」
「あぁ」
そっけない言葉。
「・・・・もう、終わっちゃう感じなわけ?」
すると、くるくる回していたボールペンを止め、ジュースを口に含んだ。
その行動をじっと見ていると、楽しげに噴出しそうになった。
「何?チカって、そんなの興味あるタイプだっけ?」
「気になるって言うか・・」
「もしかして僕の事そう言う対象で見てる?」
「それはない。安心しろ。お前がイケメンとかたしかに騒がれてるけど、あたしは男に興味はない」
すると、なぜか頭をなでられた。
「ちょっ!」
なぜか子供扱いされた気がしてむかついた。
「やめてよね。何知ってるかしんないけど・・・」
あまりの大声に、周りの注目を浴びた。
「と、とにかく、さわんのやめてくれる?」
今まで他人に触られるのが嫌で仕方なかったが、恵はたしかに平気だった。
だけど、この時は触られたくなかった。
「・・・ごまかさないでよ」
「チカ。彼女みたい」
平気な顔してまたノートに向かう。
「恵?あたし、あんたが何考えてるかわかんないよ」
すると、今度は頬杖をつき言った。
「僕だってわかんないよ。チカ。僕に何%見せてる?」
「え?」
「100%見せてる人っていんのかな?ねぇ・・・どう思う」

この言葉を聞いて何も答えられなかった。

「それよりさ、この問題なんだけ・・あ、ごめん携帯なってるわ」
恵が席をはずしたあと、ただ持っていたボールペンを握りしめていた。

たしかにあたしは、何も見せてない。
なのに、他人の心を覗こうとした・・・?

ただ、彼女がいるのに二人で今まで何も思わず会っていた事が気がかりなだけだったのに、なんだか打ちのめされた気がした。
「気にすることないから」
「え?」
「彼女」
「でも、こういうのって普通嫌がるもんじゃないの?そりゃあ、あたし達はたんなる友達だけどさ・・・」
「僕にとっては、どっちでもいいんだ」
わからなかった。
優しいのか、冷たい奴なのか。

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