あたし+僕=何?


「久々鍋かぁ。恵。野菜ばっかいれないでよ」
「チカは、肉ばっか食うからなぁ」
「昨日は、本当にごめんね?」
「何が?」
「わかってるくせに!ババアのことだよ!」

やさしすぎるんだよ。

「お前は菩薩か!」
「なんだよ、それ!」
「知らないよ!あははははは」
なんで、こんなに優しいんだろうか?
「おいしいね」
今でも思う。
「うん」
まだ、怖い時はあるよ。
「恵の作る鍋は最高だね」
だけど、こいつは裏切らない・・・裏切らないんだ。


「こんなとこで、昼食べてたんだ」
「恵」
高校時代、一人になりたい時は中庭に死角になっている場所があり、そこは遠くに誰かの声が聞こえる程度の気持ちのよい場所だった。
「・・・ここなら誰にも見つからずに昼、過ごせると思ったのに」
「確かに廊下から見えないもんね」
「じゃあなんで見つけたわけ?」
クスッと笑うと、当たり前のように隣に腰をおろした。
「・・・・ここで、食べる気?」
「そのつもりだよ。チカはこのパン見えない?」
その子供のような表情に思わずプッと吹き出した。
「チカ、汚いなぁ」
「いや、だってさぁ!!」
誰かといても笑うんだけど、心から楽しんでる自分がこそばゆく感じていた。
もしかしたら、一人でここにいながら誰かに見つけて欲しい・・・なんて思ってたのかもしれない。
「チカはいつも、ここにいんの?・・あぁ、でもそんなことないか。いつも、和泉さん達と食べてるもんね」
「・・なんていっていいかわかんないけど、一人になりたい時があるて言うか」

こういうのってどうなんだろうか?
一人になりたい。
それは間違いじゃないんだけど。

「ねえ、このくるまやのパン美味しいよね。前から気になってたんだけど、僕弁当派だからさ。派って言っても、母さんが作ってくれるから派なだけなんだけどさ」
隣で、あたしの言葉を聞いてもまるで心の声が聞こえてるんじゃないかと思うくらい、普通に話してきた。
「一応笑う所だったんだけど、笑えないか。派!」
そういって、自分の歯を指差し、木の葉を指した。
「小学生か」
馬鹿みたいな会話が心地よかった。
なんでもない会話。
それが、一番。
だけど・・・

「チカ。チカって、陸と付き合ってんの?」
「え?」
気がつくと、恵に自分からでも声をかける事が増えた。
すると、今までは誰かの後ろにいて適当に流してた誰かにとって二番目以降の存在だった自分が、まるで誰かの一番に見える。
しかもまわりにいる人間は、一番は異性で「恋人」と言う名の人間のきぐるみじゃないといけないと思っている。
少し眉をしかめたが、一瞬で笑顔に戻した。
「なんで?付き合ってないよ。言ったじゃん。今は彼氏いらないって」
「いやぁ、そういってたわりには、クラス1のイケメンゲットしちゃった感あったからさ」
「最近チカ、陸君といんのん多いくない?」

なんなんだ。
違うと言っただろ?
聞こえてないのか?
それか、彼氏だっていえばいいのか?

すると後ろから、恵が顔を覗かせた。
「何、話してんの?僕もいれてよ」
「恵!」
やましいことなんて何もないはずなのに、なぜかやばいと思った。
「あ、あのっ恵!」
あたしが話そうとすると、どうでもいいいやつらが恵に言った。
「りくぅ。チカと付き合ってんの?」
男の前だと声色が変わる。
よく出来た女というきぐるみだ。
「え?なんで?付き合ってないよ。僕、一応彼女いるからね」
その発言に周りもビックリしたが、自分も驚いた事に驚いた。
「恵・・いたんだ」
「あれ?言わなかったっけ?まぁ、別れるかもしんないけどね」
周りは、彼女がいる発言に心を奪われぎゃあぎゃあ騒いでたが、あたしは何気なく言った「別れるかもしれない」と言う言葉。
別れる寸前でもめているとか、相手に好きな人ができたっぽいとか、何か理由があるにせよ、こんなにサラッと言うものなのか?
今まで自分が適当にサラリと言葉を言ってきたのに、まさかこんなに気になるとは思わなかった。
「彼女と・・別れるの?」
自然と発していた。
すると、少し驚いた表情を見せた後、またいつもと変わらぬ笑顔で言った。
「チカでもそんなこと聞くんだ」
「あ、や、その・・」

あたしでも?

恵ははぐらかしていて、そのときは深く聞けなかった。

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