あたし達が初めて会ったのは高校三年生。 もちろん急には仲良くなんてならない。 あたしは人間自体に興味がなく、誰かと仲良くしようとしてなかった。 でも一人ってのも学校内にいる時は不都合な場合もあるから、適当に遊んでいた奴らはいた。 だから思い出なんて、恵と知り合う前のは思い出せない。 恵は目立つ存在で、イケメンだと噂されてたが、興味がなかった。 ただ周りが言うから頭の片隅にはあった。 通ってた高校は、心身ともに鍛えるなんて授業があり、その一環として登山があった。 この登山の時にたまたま隣にいたのが恵だった。 「前みえないね」 これが、初めて声をかけられた言葉。 「でも矢印あるし、この通りいけばいいんじゃない?」 あたしは辛いんだから、話しかけんじゃねえよと思ってた。 しばらく登っていると、明らかに道がなかった。 「え?なんで?」 あまりの辛さに、下を向いて歩いてきていた。 「道順にきたよな?」 「矢印通りなはずだよ」 後ろを振り向いても誰かが登ってくる様子もなく、前に道はなくもちろん誰かいる感じはない。 「マジかよ」 「とりあえず、大坂さん。もどろ?」 その言葉に反応した。 「なぁ、苗字でっ!!」 やめてくれと言おうした瞬間、足を滑らせ恵もろとも山道を転げ落ちた。 「!!!!!!」 下手な芝居みたく「うわあ」なんて言葉が出るのかと思いきや、あまりのいきおいになんの言葉もでず、木の中腹に叩きつけられた。 「うえっ!!!」 ものすごい低音の声がした。 痛いのは痛かったが、あたしの声じゃない。 痛さに堪えながら目を開けると木の前にはあたしではなく、恵だった。 「お、おい!」 自分をかばってくれたんだとわかり、痛さだかなんだかわからないが、まるで子供のように号泣した。 落ち着きをとり戻し、周りを見渡すと木に引っかかっているんだと気づいた。 「上・・・のぼれっかなぁ」 恵は木を確かめ、上を見上げた。 恵を見ると、血が出てるという感じはないが、痛そうなのはわかった。 そして心配させないために何にもないふりをしてくれてるのが、余計に涙を誘った。 でも、そうしてまで自分の事を考えてくれてるのに、おもいっきり「大丈夫?」と連発して言う気にはならなかったし、泣いちゃいけないと思った。 「大坂さん、痛いところない?登れる?」 元はと言えば・・・ ふっと笑うと、木に座りこんだ。 「大坂さん?」 「きっと、誰か気づいてくれるって。ここにいよ。まだ・・・昼だし大丈夫っしょ。それよりさ」 ウサギの目をした笑顔で言った。 「それより?」 「さっき言おうとしたんだけど、苗字で呼ぶのやめてくんないかな?」 いつもなら「じゃあチカでいい?」とか「チカちゃん?」だの「あだ名つけちゃう的な?」みたいに、とにかく苗字では呼ばれない。 周りからしたら、早く仲良くなりたい人なのかなとか思われたりすんだけど・・ 少し黙り込んだ後、でた言葉。 「苗字嫌いなの?」 ドキッとした。 「え・・あ」 なんていっていいかわからなかった。 今まで、誰といても適当に当たり障りのない返事しかしたことない。 別にこの時「ださくない?」だの「名前好きなんだよねぇ」でも、なんでもよかったはずなのに、あの瞳に見つめられて言葉がでなかった。。 そして何かを感じたのか話題を変えた。 「そういや、同じクラスになって二ヶ月くらいたつけど、こうしてちゃんと話すの初めてだよね?大さ・・あ・・ごめん。下の名前なんだっけ?ごめん、知らなくて」 「いいよ。普通しんないよ。あたしも言わなかったし。チカだよ」 すると、いきなりぐ〜っと、なんともいえない音が森中になった。 「お腹・・なったね♪」 「しょ、しょうがないじゃん!お腹減ってたんだもん!」 あまりにも情けない音に、こんな状況にも関わらず、ある意味泣きたくもなり、恥ずかしくもあり、面白くてしかたなかった。 「今日弁当?」 「ううん。おにぎり」 「僕弁当なんだけど・・って、やっぱり」 リュックからだされた弁当箱の中身はぐちゃぐちゃになっていた。 「プッ・・」 「笑うことないじゃん!だいたい君が・・いたたたっ!」 「ごめんごめん」 二人で笑い、気が抜けていると上から声がした。 「あれ?」 「先生じゃない?」 こうして二人は、救助された。 この日から、学校で一番話す存在にはなったのだが、まだこの時は薄い人間関係のきぐるみを着ていただけで、このあと本当の自分達が見える。 [先頭ページを開く] [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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